第九十六話 再びの共闘! 悪魔と機姫
朱雀戦続きです。
これで今後悪魔たちは出しやすくなったんじゃないかと思います。他にも悪魔のスキルオーブを手に入れてたプレイヤーたちがいましたが、どうなることでしょうね。
それでは引き続き、本作品をお楽しみください。
ナインさんによる【アクアピラー】の後、ダメージを負った朱雀に向かって突進を仕掛ける。マギアサーベルの切っ先を朱雀に向けて、飛び出した。
ここは速度勝負だ。パーツをブランシュヴァリエに変えてから抑えていた出力を少し上げて、朱雀が立ち直る前に一撃を入れにいく。
幸いにも私の攻撃を邪魔していた炎の盾はすぐには復活しないらしく、私の攻撃は朱雀の腕に浅くも確かなダメージを残した。
そしてすぐにその場から離脱して、朱雀の様子を見る。
間一髪、と言うところで朱雀の炎が復活し、再び周囲に熱気を生み出していく。
私はナインさんにヘイトが向かないように朱雀の眼前をちょろちょろと飛び回り、攻撃を誘う。
どうやらまだ私のヘイトの方が高いみたいで、朱雀の視線は私に向いていた。
『でも、【アクアピラー】でこのダメージ……さすがに四神は中ボスと比べ物にならないね』
炎の巨人相手には有効だった【アクアレイ】。それよりもさらに強力な【アクアピラー】を受けてもかすり傷みたいなダメージ量だ。
となると、【アクアピラー】以上に強力な攻撃が必要になってくる。つまり、水魔法での悪魔召喚。それがナインさんのMPで何回できるかって感じかな。
切り札って言うくらいだからそれなりにMPは使うと思うんだけど、数打てるなら有効打になり得るかもしれない。
魔法系のスキルにはあまり詳しくないけど、ナインさんほどのプレイヤーなら有名どころの補助スキルあたりは色々と取ってるはず。
なら、多少無茶な使い方をしても大丈夫だとは思うけど。
とりあえずチャットを繋げてからだね。ボス戦中に悪いけど、こっちは空飛んでるし朱雀のヘイトも買ってるから容易に下がることもできないし。
『ミオンさん? どうしました?』
『ナインさん、単刀直入に聞くけど、さっきの切り札って連続で何回使えます?』
『……悪いのですが、彼の召喚にはクールタイムがあるので、消えてからすぐ召喚、というのはできないんです』
『じゃあ質問を変えますね。今召喚はできますか?』
『五分ほど待っていただければクールタイムがあけます』
さっき召喚した時間から逆算すると……クールタイムはゲーム内時間で約三十分ってところかな。もしかしたらスキルかなんかで早めてる可能性はあるけど、今は関係ないから頭の隅に寄せておこう。
で、だ。五分後に召喚したとして、炎の巨人戦みたいに身体を構成している水を使っての攻撃になっちゃうよね……それだと朱雀のHPバーを削り切るのに足りない。
どうにかして悪魔の戦闘時間を引き伸ばしたいんだけど……水、水かぁ……水魔法なりなんなりを当てることで悪魔の水分量を増やせたりしないかな?
っ、と。危ない危ない。危うく朱雀の炎をまとった拳を受けるところだった。早めにチャットは切り上げたいね。
ナインさんも今の攻撃に心配そうな声を上げている。
『大丈夫ですか!?』
『なんとか。それで質問の続きなんですけど、水魔法を媒体とした悪魔に水魔法を当てることで悪魔の戦闘できる時間を伸ばせたりってできますか?』
『……やったことがないのでなんとも言えませんが……仮に彼の戦闘時間の短さが媒体とした水の枯渇だということであれば、伸ばすことができるかもしれません』
なるほどなぁ。つまり、ぶっつけ本番ってわけだ。
でも、悪くない。仮に失敗したらそれはその時だ。三十分待って再召喚すればいい。
攻略に時間がかかることは否めないけど、このまま微々たるダメージを与え続けるよりかはよっぽど建設的だ。
私は朱雀の炎を避けながら頷き、口を開く。
『それでいきましょう。失敗しても三十分待てばいいだけです。幸い、このまま戦い続けても私のEN……MPは減ることはないですし』
実際には、減ってるけど自動回復分でお釣りが来るって感じだけどね。
『分かりました。それでいきましょう。悪魔を再召喚する可能性があるなら、水魔法の供給は私ではなくカヴィザにやってもらうのがいいですね』
『召喚タイミングは任せます。私の方はなるべくヘイトを維持しつつちょっかいを出していくので』
『では、ご武運を』
その一言と共にチャットが切れる。
ちらりと眼下の様子を確認すると、ナインさんが召喚のために少し下がり、ダグザスさんとベルフィートさんがナインさんの前に立っているのが見えた。あれなら流れ弾が飛んできてもナインさんに当たることはほぼないだろう。
さて、ひとまずやることは決まったし、時間稼ぎと行きますか。
とは言ったものの、さっきまでとやること自体は変わりがない。せいぜい流れ弾の矛先をコントロールすることくらいかな。
そして約束の五分が過ぎようとした時、地上の方で魔法陣の輝きが見えた。
朱雀の方もその魔法陣からなにが呼び出されるのか直感的に理解したようで、散々ヘイトを稼いでいた私を無視して魔法陣の方へとその手を伸ばす。
『そうはさせないってね!』
私は瞬時に朱雀の前に移動し、両腕の《魔力防楯》スキルを発動させる。
すると、私の両腕の手の甲がパカりと割れ、その奥のレンズのようなものから半透明のシールドが出現した。
私はそれを朱雀の眼前に掲げると、《魔力防楯》に向けて――正確にはその先にいるナインさんを狙って――一際大きい炎の塊を放つ。
火球……いや、もはや豪炎球とも呼べるそれは私の展開した《魔力防楯》にぶち当たり、激しい爆炎を発生させた。
恐るべきは、豪炎球の威力か《魔力防楯》の耐久力か。
手の甲が焼けるほどの痛みを訴えてくるものの、私のHPには1ダメージも入ってはいない。腕部パーツの耐久力の方も、大したダメージは入っていないようだ。
ただ、かなりの速度で腕部パーツの魔力……ENが使われているのが分かった。
爆発する豪炎球。広がる煙を《魔力防楯》の解除と共に晴らした私が見たのは、空を飛ぶ朱雀を殴りつける、水の翼を生やしたワカメ頭のあの悪魔だった。
悪魔の拳に吹っ飛ばされた朱雀は、忌々しそうに悪魔の姿を睨みつつ距離を取る、つまり、それだけの相手だと理解してるってことかな?
朱雀を殴り飛ばした悪魔は、殴り飛ばした右腕をぷらぷらさせながら私に話しかけてきた。
『ははっ! また会ったな、機姫さまよ! んで、これはどういう状況だ?』
『ナインさんからなにも聞いてないの?』
『悪いが、マスターからは「目の前の朱雀を倒してほしい」としか聞いてねぇなぁ。四神相手にこれっぽっちの人数で挑むとか、お前ら大丈夫か?』
『それについては成り行きって感じなんだけど……朱雀がこっちを警戒してる間に説明するね』
そうして私は、さっきナインさんと話し合った内容と、目の前の朱雀について、さらに朱雀を真の姿取り戻させた上で倒したいということを告げる。
それを聞いた悪魔は『ははぁ』という声を漏らしつつ、ワカメのような頭をさすった。
『お前ら、既に二柱も四神を倒してるのかよ……昔より弱くなってるとはいえ神だぜ? クレイジーと言うしかねぇな。だが……おもしれぇ。神殺し……って、殺しちゃまずいんだったか? まあ、そんな変わらねぇか。とにかく、俺に神殺しの手伝いをしてほしいと』
『概ねそんなところ。で、率直な質問なんだけど、あなたって水魔法くらったら回復する?』
『だな。少なくとも、水魔法を媒体として呼ばれてる関係上、水魔法攻撃は回復対象だ。身体を構成してる水の量が多ければ多いほど行動時間も長くなるぜ』
『最大どれくらい戦える?』
『答えは無限、だ。供給源がある限り、今の状態なら無限に戦える。ま、だから神殺しの手伝いをできるってわけなんだが』
『おっけー。だいたい理解した。とりあえず、過去には色々あった……あったかな……? まぁいいや。私たちと共闘して、朱雀を元に戻す。普通に戦うより大変だけど、最後まで協力してね?』
『ああ。特に俺としては思うところはないが、面白そうなことにはとことん協力してやる。それに、マスターの命令もあるしな。できる限りはやるさ』
私は悪魔と視線を交わし、お互いの拳をぶつけ合う。
さぁ、ここに悪魔との共闘が相成った。
私が支払う代償は特になし。ナインさんがMPという名の代償を払ってくれてるけどそれはそれ。
悪魔と協力して、朱雀攻略と行きますかね!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きはどうぞお楽しみください。




