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第九十五話 朱雀、降臨

朱雀戦開幕です。

当初の予定では朱雀はナインたちに勝手に攻略されてたはずなんですが……お話がどう転ぶかは実際に書いてみないと分かりませんね。

それでは引き続き本作品をお楽しみください。

『元に戻してくれ……ね』

『ああ。本来こんなことを願う立場にはいないことは重々承知だ。だがもう我々には、他に頼れる存在がいないんだ』


 俯きがちに、全身を炎で包んだ女性は言う。

 私はナインさんたちに振り返る。


『で、どうします?』

「まぁ、私たちの目的を果たすためには、彼女の願いを聞き届けることが一番の近道……というより、それしかなさそうですね」

「なるほど。簡単に言えば、クエストってことですかい?」

「そういうことでしょうね。欲を言えば私たち以外のPT(パーティー)にも参加してもらいたいところですが、どうやらここには私たち以外のPTは来ていないようですし」

「来れる保証もない、と」

「ですので、私たちとしては朱雀という存在を元に戻すのに否はありません。ミオンさんは?」

『それこそ愚問ですよ。これでもセイリュウオー……青龍さんとも戦ってますからね。むしろ、ちょっと朱雀と戦いたくなってきたところです』


 それに、朱雀との戦闘で色々試したいこともあるしね。

 仮に朱雀との戦闘中で切り札を切らざるを得ない展開になったとしても、自身の切り札の性能を確かめられる。数値上のスペックは知っていても、実際にどうなるのかまでは分からないからね。

 切り札を見せる相手……PTメンバーが他ギルドのプレイヤーだけど、彼らは簡単に人様の切り札を吹聴するような人じゃないだろうし。


 どちらにしても、青龍と白虎を攻略して残りは朱雀と玄武。その内の一つをここで攻略できるなら切り札の一つを切るくらい問題ないと思うんだよね。

 それに、それだけのボスと戦えばユニークスキルが成長するかもしれないし、成長してくれれば、新たな切り札を獲得することができるかもしれない。

 少なくとも、私に朱雀攻略を拒否する気はないよ。そもそもイベントフィールドだった浮遊大陸(ファンタジア)の場所を教えてもらうためにここまで来てるんだからね。今更止めますなんて言えない。


『本当に、いいのか?』


 目の前の女性は私たちが受けるとは思っていなかったのか、その瞳を揺らして問いかけてくる。ま、何度問いかけられても答えは変わらないよ。


「ええ。私たちは朱雀と戦います。そして、元に戻してみせます」

『……ありがとう』


 微かにだが、炎の女性は笑みを浮かべた気がした。それは、安堵からだったのだろうか。ま、それは私が考えることじゃないね。

 朱雀を元に戻すということは、つまり朱雀の真の姿を引きずり出す必要がある。青龍で言うところの、セイリュウオーさんだね。

 そうしない限り、朱雀が解放されることはないだろう。

 と言っても、実際に見てみないことには攻略のこの字もないんだけどね。


 それにしても、四神と一PTで戦うのか。魔機人(マギナ)では扱えない魔法の使い手が仲間にいるとはいえ、青龍との戦いの時よりも辛いのは確かだろう。いくら私が、ブランシュヴァリエが強くなっているとはいえ、ね。

 ナインさんは自身の得物を構えると、先頭を進む私とダグザスさんに目配せした。


『では、開けますよ?』

「いつでも」

「準備は出来てらぁ」

『……ご武運を』


 彼女の呟くような声を聞きながら、私は大扉に手をかける。そして、一気に開け放った。


『……っ!』

「これは……また……」


 扉の向こうには、目を奪われるような景色が並んでいた。

 荘厳、豪奢、玲瓏、絢爛豪華……浮かんでくる言葉は数あれど、私の視界に映るのは色とりどりの赤だ。

 扉の先では、高校の体育館を何十倍にも広げたであろう広大な空間が私たちを歓迎していた。

 調度品の全てが炎で作られているものの、そのどれもが素人目に見ても凄まじい逸品であると分かるほどの出来栄え。


 床にはレッドカーペットならぬフレイムカーペットが敷かれ、私たちの目指す最奥、王が腰掛ける玉座に繋がっていた。

 壁や床、その空間にあるもの全てが王に傅いているような、そんな感覚を私は覚えた。そして、その最奥にいるであろう存在の、強烈なまでの存在感も。


「これは、また……」

『青龍とは大違い……もしかして、四神の中にも明確に優劣が決まっていたりするんですかね?』

「それは分かりませんが……目の前の相手が一筋縄ではいかないということは分かります」


 私たちの視線の先。焔の玉座に腰をかける、才色兼備、眉目秀麗などの言葉ですらそれを形容しきれない、絶世の美女。

 真紅の炎で作られたドレスを着た、燃えるような(実際に燃えている)紅の髪を束ねたその姿。

 静かに目を伏せていた、絶世独立とも言うべき彼女が、その瞼を開く。


 瞬間、私たちに襲い来る炎と熱風。チリチリと肌……装甲が焦げ付く感触を味わいつつも、私はそれを見ていた。

 傍から見れば、それは普段通りの姿とも思えた。そもそもが普段通りの姿を知らないから、あれが普段通りだよと言われてしまえば、それもそうかと納得してしまいそうになる。

 だが、それはありえない。それだけはありえない。それは、彼女の姿を見れば明らかだ。


 血走った目に、艶やかな唇から発せられる声にならない呻き声。

 美しい見た目とは裏腹にその所作はどこかぎこちなく、その事実が現状の異常を明らかにしていた。

 なにより私は、朱雀が最初から人の形を取っていることに驚いてしまった。

 てっきり、朱雀……鳥の状態から始まると思っていたから。

 セイリュウオーさんの時も青龍の状態からだったし、兄さんたちが戦った白虎も最初は白い虎の状態だったと思う。


 明らかな異常。もしかしたら私は、セイリュウオーさんよりも強いボスと、セイリュウオーさんの時よりも少ない人数で戦わなきゃいけないのかもしれないね。

 それに、私たちは朱雀に対してなんの情報も持っていない。

 かろうじて分かるのは炎を扱うことと、水属性が弱点であろうこと。

 さぁ、どうしたものかな。


「最初から人型……ですか。これは厄介ですね」

「そうですかい? 鳥型で自由に空を飛ばれるよりかはマシな気はしますがね」

「……その考えはどうやら早計のようですね」

「ありゃぁ……」


 目の前の朱雀は意志を感じさせない瞳をこちらに向けつつ、背中から美しい炎をまとった極彩色の翼を広げる。

 そのまま炎をまき散らしながら羽ばたくと、その身体は勢いよく上空へと飛び上がった。

 朱雀の頭上に見えるHPバーは三本。


「人間状態でも、空は飛べるし炎も操れると」

『これは、鳥状態と戦うよりも厄介ですね。的が小さい分対空魔法が当てづらい』

「とりあえず散開して、出方を窺うことにしましょう。カヴィザ、水魔法の用意を忘れずに」

「はい!」

『ウアァァァァァァァッ!』


 言葉にならない声を上げ、その両手に炎を宿す朱雀。両手を前に突き出し、そこから溢れんばかりの炎が私たちに向けて放たれた。

 私たちはそれを難なく躱すものの、地面に当たった炎は消えることなく、その場を焼き続ける。

 これは、時間をかけたらかけるだけこっちが不利になりそうだ。少なくとも、この地面を燃やしている炎がどれくらい持続するのかによってこちらの行動に制限がかけられちゃうね。

 ま、いつまでも空を取られたままっていうのは嫌だから、早速行動開始と行きますか!


『とりあえず私は制空権を取り戻します! みなさんは援護を!』

「任せてください」

「地面に落としてくれさえすればいいぜ!」

『では……ミオン、行きます!』


 翡翠の結晶翼(クリスタルウィング)を展開し、私はジグザグの機動を取りつつ朱雀に向かっていく。

 空を昇ってくる私が不愉快なのか、その表情を歪ませて炎を放ってくる。目標はもちろん私だ。

 私はそれを、眼下のナインさんたちの立ち位置を考えて避けていく。下手に避けると、さっきの持続する炎が辺り一面にばら撒かれてナインさんたちが行動しにくくなるからね。


 私はマギアサーベルを握って、朱雀の左腕に切り付ける。

 しかし、朱雀の左腕は分厚い炎の盾を生み出して、私の振り下ろしを完全に防御する。バチバチと炎が削れるだけで、本体にダメージは入っていないようだ。

 私はすぐさま反転してその場から離脱。そのすぐ後に私のいた場所を炎の柱が襲いかかってきた。


 どうやら先ほど地面に当たった炎が噴き上がったらしい。

 字面に当たった後の炎まで気にしなくちゃいけないのか……これは大変だね。

 私の離脱を確認したのか、地上から水で作られた柱が朱雀に襲いかかる。これはナインさんの【アクアピラー】か。

 ピラー系魔法は、手動で発動地点を決めた後に発動する、使い勝手がいいとは言えない魔法だ。


 事前に地点を決定することから相手に避けられやすい、対人戦では使うのが難しい魔法って聞いたけど。

 その分威力は折り紙付きで、【アクアレイ】よりも高火力で低燃費だ。

【アクアピラー】をまともにくらった朱雀は、絶叫とも呼べる叫びを上げてその長い髪を振り回す。

 HPバーの減少は微々たるものの、朱雀がまとっていた炎の全てを消化することに成功した。


 今のうちに攻撃だとばかりに、地上から放たれる追撃の【アクアピラー】と【アクアボール】。

 私も朱雀が怯んでいる間にマギアサーベルによる連撃を当てておいた。

 一通り叫び終わった朱雀は再びその身に炎をまとい、翼を翻して全方向に熱風を浴びせる。


 幸い私にとってはダメージにならないその攻撃も、地上のみんなからしたらそこそこのダメージになるようだ。やっぱり魔機人の装甲って優秀だね。

 私は地上に攻撃をされないように、常にターゲットを取り続ける。言わば、今回の戦いにおけるタンク役だ。


 左腕に《魔力防楯(マギアシールド)》を待機させつつ、耳元を飛び回る蚊のようにチクチクとマギアサーベルで突いていく。

 さっきの水魔法攻撃で上げてしまった地上のヘイトを、すべて私で塗り替える。

 ダメージにはならないものの、やはりチクチクとした攻撃は神経を逆撫でするのか、ウザったらしいとばかりにその大きな翼を振るってきた。


 私はそれを難なく回避し、隙だらけの朱雀に攻撃を仕掛ける。

 だけど朱雀の炎は、私の攻撃を検知すると自動的に移動していき私の攻撃を防いでしまう。

 そして私が瞬時に離れ、そちらの方向に朱雀の炎が放たれる。


『……これは、長期戦になりそうだね』


 【アクアピラー】に包まれる朱雀のHPバーの減り方を見ながら、私は小さくため息をついた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

続きもどうぞお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
[一言] セイリュウオーとは違った形でレイドバトルが始まったが(ʘᗩʘ’) 朱雀相手に飛ぶなとは言えんがまたミオンが制空権確保に飛び回ってるがそろそろミオン以外に飛べる僚機(ダリべ以外)のギルメンが欲…
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