第九十四話 炎門のその先にあるもの
続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
『ん……アナウンスが流れない?』
なんとか炎門の守り手こと炎の巨人を倒した私たちだったけど、いつもならボスを倒したあとに流れるアナウンスが一向に流れてこないことに気が付いた。
私は不思議に思いながらもブランシュヴァリエソードを腰に差し直し、ナインさんたちの元へと戻っていく。
ナインさんは人のよさそうな笑顔を浮かべて感謝の言葉を告げた。
「お疲れ様です。いや、助かりましたよ」
『いえいえ。ナインさんの切り札に助けられたおかげですよ。で、単刀直入に聞きたいんですけど、アレ、なんです?』
「アレ……とは?」
うう、その笑顔が怖い……いやでも、間違いなくあのワカメ頭は悪魔だ。恐らく、カノンやクラリスたちが第一回のイベントの時に南の《散華の森》で倒した悪魔だとは思うんだけど。
で、その悪魔がなんで、限定的な形とはいえこうやって現れたのか。
まぁ、十中八九、というより絶対にアンドラスの書ってスキルオーブによるものだとは思うんだけどね。
『ま、いいですよ。切り札って言うくらいですからね。こっちにもまだ切っていない手札はありますし』
「いやぁ、ミオンさんの切り札とか本当にシャレにならなさそうですね。コロニーレーザーでも持ってくるつもりですか?」
『いいですね、コロニーレーザー。そこまでこのゲームで作れるか分かりませんが、面白そうです』
なんか、ナインさんが「あっ、やべ」みたいな顔してるけどどうしたんだろう。コロニーレーザー、いい響きだよね。
私としてはそっちよりも戦艦に取り付ける武装の方が嬉しいけどね。大天使のロー〇ングリンとか、女神のタ〇ホイザーとか、歌姫のフォトンブラ〇ターキャノンとかいいと思う。
シンプルにハ〇メガ……じゃなくて、こっちだとハイマギ砲かな。そういうのもいい気もする。
おっと、今はダンジョン攻略中だったね。思わず考え込んじゃったよ。新しい武装なんかはまた今度考えることにしよう。
「しかし旦那、これで目の前にあるデケェ門に入れるようになったんですかね?」
「ふむ。門番は倒しましたし、門の炎の勢いも落ちているみたいです。行けそうなら行ってみましょうか。皆さんの調子はどうです?」
「俺ぁ、大丈夫ですぜ」
『私も』
他の三人も問題はなさそうなので、早速闘技場の端にある巨大な炎門に向かうこととなった。
改めて近くで見てみると、炎門の大きさがよく分かる。そもそも高さ20m強の巨人が前にいたとて門が見えていたんだから、相当な大きさだということは理解できる。
見たところ門には扉のようなものはついておらず、そのまま門をくぐり抜けることができそうだ。ただ、その門の中が炎に包まれてなければの話だけど。
「いくら勢いが落ちたとは言え、この中を突っ切るのは勘弁したいところですがね」
「しかし道は、この先に進む以外になさそうです。多少の火傷ダメージは覚悟しましょう」
『まだダメージを受けるって決まったわけじゃないですけど……用心しておくことに越したことはないですね』
そもそも魔機人に状態異常は効かないから、火傷のダメージもあるのか分からないんだけどね。
仮にダメージがあったとしてもブランシュヴァリエのスペックを信じる他ない。今作れる最高傑作の機体だからね。信用も信頼もしてますとも。
ナインさんたちは申し訳程度の備えとして弱耐火属性のマント――炎の巨人と戦ってた時は素で忘れてたみたい――を羽織って、門の先に進むことになった。
先頭は私で、その後ろにベルフィートさん、ナインさん、ペルベルさん、カヴィザさん、ダグザスさんの順番だ。
私が先頭なのは、仮に門の先になにがあっても生き残れるであろうプレイヤーを前にした方がいいと思ったからだ。
自惚れるわけじゃないけど魔機人は、ブランシュヴァリエは汎用性が高い。それに、高い耐久力に加えて空を飛ぶこともできる。
不測の事態が起こった時に先頭がやらなくちゃいけないことは、後ろの人たちに危険を教えること、そして、退却する際の殿を務めることだ。
なおかつ、不意の接近があるかもしれないから接近戦に長けていないと厳しい役回りだろう。
この中で前衛を務められるのは私を含めて三人。でも、先頭のプレイヤーがなすすべもなくやられてしまうと、後ろのプレイヤーに待っているのは死に戻りしかないわけだ。
最悪のことを考えて、私はみんなに先頭を希望したってわけ。
慢心がないとは言えないけどね……生き残るだけなら、なんとかできる気もするんだよね。【転神】もあることだし。
私たちは顔を見合わせた後、門の先へと進んでいく。
私の手にはなにも握られていない。これは、なにかあった時に咄嗟に《魔力防楯》を張れるようにするためだ。
武装を持ってるとどうしてもワンテンポ遅れちゃうからね。それに、ブランシュヴァリエなら素手でも《バーストフィンガー》がある。ある程度の相手なら大丈夫なはずだ。
『おぉ……』
炎門の中はとても天井が高く、やっぱりと言うべきかあらゆるものが燃え盛っている。
現実ではありえない光景に、改めて感嘆の声が漏れた。
辺り一面が炎に囲まれているのに、炎の色合いやグラデーションなどで視界を楽しませてくれる。
どうやらそう思ったのは私だけではないようで、ナインさんたちもほうほうとフクロウの様な声を漏らしていた。
「これはまた、今までとは趣向が違いますね」
「そうですかい? そりゃあ綺麗な炎だなぁとは思いますが」
「綺麗な炎なのには変わりありませんが、今までの炎とは比べ物になりませんね。言わば、炎の美術館ともいうべき場所ですよ、ここは」
「そんなもんですかねぇ」
「ええ。さっきからスクショが止まりません。こんなことなら、この門に入る前から録画を回しておくべきでした……」
「そりゃ、御愁傷様なこって」
そんな美術品めいた炎も過ぎ去っていき、またもや炎の質感が変わっていく。
目の前に現れたのは、ロールプレイングゲームの城に作られているような豪華さと堅牢さを併せ持った大扉。
その扉の前には二人の……うん、二人でいいかな。二人の肌以外の全てが炎で彩られた、衛兵のような格好をした女性がいた。
思わず身構えてしまうものの、女性たちからは敵意を感じられない。
そのことをナインさんたちに伝えて、武装を解除してもらう。
私たちの武装が解除し終わるのを見計らっていたのか、二人のうちの一人が私たちの方へ進み出た。
『門前を不法に占拠した巨人を退治してくれたこと、感謝する』
『ああ。あれって門番とか、門の守り手とかじゃなかったんですね』
『然り。我々はこの扉の辺りからは動けない故に、かの巨人に対処をすることができなかった。改めて礼を言う』
『いえいえ』
「いえいえ」
『そこで、そんなお前たちに頼みがある』
「頼み……ですか?」
沈痛な面持ちでお願いするその女性の前で、思わず顔を見合わせてしまう私とナインさん。
少し整理しよう。
えっと、多分この人? たちは大扉の向こうにいるであろう朱雀の近衛兵かなにかなんだろう。
で、彼女たちはこの扉を守るためにこの扉の周りから動けなくて、門の前にいた巨人を討伐することができなかったと。
そこに、邪魔者だった巨人を討伐して私たちがここにやってきたわけだ。
そこでお願いされることって……なんとなく予想がついちゃうよね。
そもそも、この宮殿の主は朱雀だ。その朱雀が住まう宮殿の中に、炎の巨人っていう不法者が平然と存在していることが怪しいよね。
だって、恐らくここに来るまでの道中に出てきた炎の形をしたモンスターたちは、侵入者対策に朱雀が生み出しているはずだからだ。
そんな朱雀が、門の前を塞いでいた炎の巨人を見過ごすとは到底思えない。
朱雀に、なにかある。
そしてその予想は、彼女の口から放たれた言葉によって現実となる。
『頼む。我らが主を……朱雀様を、元に戻してくれ』
私たちの前に立つ炎の少女は、今にも泣きそうな表情でそう言った。
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