第九話 ロマン武器は最高だぜ!
今回から章が変わり、【集いし仲間】編になります。
この先も琴宮紫音……ミオンのVRMMO生活をお楽しみください。
今回は少し長めの、生産回です。
イベントをリアル時間一週間後に控えた翌日。私は朝から鎚を振るっていました。
トンテンカンカンホイカンカンとリズムよく鎚を振るい、熱せられた鉱石をインゴットへと変える。インゴットを炉に突っ込み、柔らかくなるのを待つ。え、リズムがどこぞの水差し作り歌と同じだって? HAHAHA、気にするな!
熱せられてぐにゃんぐにゃんに曲げられる状態のインゴットを取り出し、耐熱性のある棒に絡ませてちょうどいい大きさの筒を作っていく。
私がなにを作っているのかと言えば、ビームサーベルの持ち手の部分だ。既に鍔(普通の剣とは違いビームの刀身が現れる部分)とENタンクとなる研磨魔導石は完成している。あとは持ち手を作り、細かい部分を調整していけば念願のビームサーベルの完成だ。
研磨魔導石を使用した装備には《属性変更》スキルが付くのがわかっている。ならば《属性変更》で光属性を選択し、魔導石から魔力を使用し光の剣を作れるはず。どうやら魔力伝導率が高いとそれだけ魔力を思い通りに動かせるらしく、その性質を利用した武装というわけだ。
火属性や水属性でも剣は作れると思うが、私はビームサーベルが使いたい……っ! 光属性以外はありえないっ!
そうして現実時間で三時間、ゲーム内時間で九時間をかけた大作がこれになる。
[武装・片手剣]マギアサーベル レア度:EX 品質:A- 魔力伝導率:A 魔力保有量:2500/2500
固定ダメージ:3000
スキル:《魔力自動吸収》《光属性》《状態変化・片手剣》
かつての超古代文明ですら作ることがなかった超兵器。
刀身が存在しない持ち手のみの剣だが、本体に内蔵されている魔力を用いることで刀身を出現させ、圧倒的な熱量で相手を焼き切る。特殊なコーティング技術が使われており、刀身の熱で溶けることはない。
もはやこの兵器に攻撃力という概念は存在せず、触れただけでダメージを与える一振り。
もし希少な素材で作られた場合、その破壊力はどうなってしまうのだろうか。
説明文から分かるこのやばさ。特に、攻撃力という概念が存在しないという一文がやばさを助長させている。
と、とりあえずスキルを確認しよう。
《光属性》:このスキルを持つ装備は光属性を持つ。武器なら攻撃に光属性の判定が追加され、防具なら防御に光属性の耐性を得る。
《状態変化・片手剣》:魔力を片手剣の形へ変えることができる。形状は使用者のイメージによって変わる。
概ね想像通りのビームサーベル……もとい、マギアサーベルが作れたとみて間違いないかな。《属性変更》が《光属性》に姿を変えたのは意外だった。光属性の攻撃を無効にしてくる相手が出てくるまでは大丈夫そうね。
それにしても、固定ダメージが3000か。今の私のHPと比べてみよう。たしかステータス画面でHPとMP……もといENは見れたはずだ。
[ステータス]
PN:MION
種族:魔機人
レベル:--
HP:7600/7600
EN:3400/3400
称号:引きこもり生産者
スキルの数も少ないし、こんなものかな。っていうか、最後のなに!? 引きこもり生産者なんて称号が……。
《引きこもり生産者》:作業場に長い時間引きこもり生産活動を行っている者に贈られる称号。住人からの好感度微減少。生産品の品質微上昇。
ん、んー。まぁ、効果的にはいい効果かな? 現状街の住人とは話す機会もないし、ほんの少しでも品質が上がるのはいいことね。あってないような効果だけど。
っと、称号より今はマギアサーベルよ。単純な数値だけ見たら私だと三回切られて終わりだけど、魔機人には属性に対する耐性があるから一概には言えないかな。ただ、単純な火力で判断するならヤバいの一言ね。
十中八九この武器はバランスブレイカーだ。幸いなのは、これが魔機人しか使えないってところと、これを作るには魔導石が必要だから現状私以外に作れるプレイヤーがいないってことくらいか。
『ま、作れちゃったものは仕方ないし、もう一本作ってバックパックにでも取り付けますか』
先ほどよりも短い時間でもう一本のマギアサーベルを仕上げ、背部パーツに取り付けるためのジョイントを付ける。気分はエールス〇ライクね。腰につけたらフリー〇ムっぽくなるし、次に強化した時には腰用のジョイントと一緒に作ろうかな。いっそ腕につけてトンファーでもいいかも。
お次は大出力のサーベル……大型のビームソードかな。形状はまだ決めてないけど、取り付けるとしたら肩の部分になりそう。
新しい装備を作ろうとしたところで、ゲーム内アラームが鳴る。おっと、危ない。昼ご飯の時間だ。
ログアウトしてご飯の用意をしてくれた兄さんと一緒にそうめんを啜る。夏といえばそうめんかそばかな。うどんも捨てがたいけどね。
食べ終わり、「ちょっと食べすぎたかな」とお腹をさすっていると、洗い物を終わらせた兄さんが話しかけてくる。
「紫音ちゃんどうよ?」
「どうっていうのは、フリファンのことでいいんだよね?」
「そうそう。俺の方は攻略の最先端だな。もうすぐ階層ボス……このゲームだと浮遊大陸の守護者だったか。そいつがいるフィールドにたどり着けそうだ」
「普通にすごいじゃん。さすがトッププレイヤー?」
「おう。紫音ちゃんは掲示板とか見なさそうだもんな……一人で黙々とソロプレイしそうなイメージ」
「む、失礼な。私にも一緒にプレイしてくれるフレンドくらいいますよーだ」
頬を膨らませてむくれていると、兄さんが苦笑しながら冷えた麦茶を出してくれた。喉が渇いていた私は音を鳴らして飲み干す。
ぷはー。暑い夏に飲む冷たい麦茶は美味しいですなぁ。
「そりゃよかった。それで、いつ頃始まりの街に顔出すんだ?」
「んー、どうかな。今やっとビームサーベルができたとこだから、もう少し武装の数を増やしたいかも」
「ファンタジーの世界でなに作ってるの紫音ちゃん……」
「まあ、レア素材でちょちょっとね。安心していーよ。多分私以外に作れる人いないから」
「いたら困るなぁ。それ、どんだけ強い?」
「光属性の固定ダメージ3000」
「えぇ……想像以上にヤバいもん開発してる……光属性の耐性あればいくらかは減らせるだろうけど、こんな序盤にそのダメージ量はえぐいよ」
「参考までに聞きたいんだけど、今の攻略組の最高HPってどのくらい?」
「そうだな。タンク役でHPと防御に振ったビルドだと大体今の時点で30000あればいい方じゃないかな」
「耐性なしでも十回切らないと倒せないかー」
「十回切っただけで最高峰のタンクが倒せる方がおかしいんだよ……すでに攻略組超えてるんじゃない?」
「必要最低限のスキル以外取ってないから、ステータスは低いよ。ビルド考えないとなー」
「恐ろしい……よくもまああのスタートからそこまで」
「錆び朽ちてる状態だと動きにくいわ見えにくいわで大変だったよ。ま、それでもモンスターは普通に狩れたかな。動き方の癖さえ掴んじゃえば楽だよ?」
「一般人にはそんなことできません」
なぜか兄さんに呆れられてしまった。なにもおかしなことは言ってないのにどうして?
「そうだ。紫音ちゃんは一ヶ月記念のイベントに参加する?」
「まだどんな形か決まってないって話だけど、一応参加する予定ではあるよ」
「なら、イベントの時には会えるかもね。向こうでの俺の名前はユージンだ。見かけたら挨拶くらいしてくれよ?」
「はいはい。見かけたらね。じゃ私続きやってくるわー」
「てらー」
兄さんとの会話を切り上げ、自室に戻る。ベッドに横になりVRヘッドセットを装着。電源を入れ音声認証で向こう側の世界へと旅立つ。
『さて、やりますか』
気合いを入れてビームソード作りを始める。
ちなみにヴィーンは一日中散華の森・中層に潜るみたいで、朝から会っていない。素材のお土産が楽しみだね。
当然だけど、出力を高めるためにマギアサーベルよりも大型に作ることにする。キャパシティ以内なら多少大きくても大丈夫だと思うからね。
研磨魔導石を二つ用意し、魔導ケーブルでその二つを繋いでいく。
魔力が通ったことを確認したら、お次は持ち手と刀身が出現する部分の作成ね。
インゴット化した鉱石を熱して柔らかく加工しやすいようにして、鎚を振るう。持ち手はマギアサーベルよりも長く、両手でも握りやすく加工しないとね。
何度か形を修正しつつ、希望通りの持ち手が完成した。
別のインゴットを取り出し熱し、鎚を振るい形状を整えていく。マギアサーベルの時よりも大きく、刀身が太くなるように。
研磨魔導石を連結させるスペースも作っていく。マギアサーベルみたいに装飾もなにもないのも味気ないし、明らかに威力が高いですよーと言わんばかりの装飾にしよう。
そうやって鎚を振るうこと一時間。持ち手といくつかのパーツを繋げ、小型の両刃斧のような形状の鍔を持つビームソードが完成した。
ENを流せばサーベルのようなビームの刀身部分だけでなく、両刃斧の部分にもビームの刃が現れる仕様にしてみた。その分予想以上に大型化してしまい、肩に取り付けるための専用のジョイントを作る羽目になったのはご愛嬌かな。
その性能はマギアサーベルを遥かに凌ぐものになった。
[武装・両手剣/片手剣]大型マギアソード レア度:EX 品質:A 魔力伝導率:A+ 魔力保有量:5000/5000
固定ダメージ:6000
スキル:《魔力自動吸収》《光属性》《状態変化・バスタードソード》《消費魔力増・大》《魔力収束》
かつての超古代文明ですら作ることがなかった超兵器。
刀身が存在しない持ち手のみの剣だが、本体に内蔵されている魔力を用いることで刀身を出現させ、圧倒的な熱量で相手を焼き切る。特殊なコーティング技術が使われており、刀身の熱で溶けることはない。
鍔の部分にも魔力の刃を出現させるため、取り扱いには注意が必要。
もはやこの兵器に攻撃力という概念は存在せず、触れただけでダメージを与える一振り。
もし希少な素材で作られた場合、その破壊力はどうなってしまうのだろうか。
はい、やってしまいましたぁ!
兄さんに固定ダメージ3000でもヤバいって言われてたのにダブルスコアを叩き出してしまった……。
と、とりあえずスキルを確認しようか。
《消費魔力増・大》:この武器を使用する際の消費魔力がかなり増大する。一秒間に100の魔力を消費する。
《魔力収束》:自身の魔力をこの武器に流し、一撃の威力を上昇させる。上限値は武器によって異なる。上限値以上に魔力を流した場合、攻撃の後に自壊する。
つまり、マギアソードは最長でも五〇秒しか使えないってわけね。その分一撃の威力に優れてるし、切り札としては申し分ない性能だ。
二つ目の《魔力収束》スキルによる一撃の強化も嬉しい。上限を超えないように魔力……私の場合はENだけど。そのENを注げばさらに火力がアップするわけね。どれだけのダメージが出るのか楽しみだ。
早速左肩に取り付けたジョイントにマギアソードを接続する。引き抜く際に邪魔にならないようにジョイント部分を可動式にしたのは正解だった。少し体勢か崩れていても引き抜ける。
こうなると実体剣も欲しくなるね。マギアサーベルもマギアソードも光属性の剣だ。もし相手に光属性に耐性があったり、光属性無効のスキルがあったら戦えなくなってしまう。
でも、実体剣を作るには鉱石のランクが低い。手持ちの素材だと満足のいく剣は作れないだろう。
そうなると、散華の森・下層まで足を運ぶことになるのだけど……。
『んー、実際に使ってみないと固定ダメージがどれだけの威力かわからないよね』
ヴィーンは最近いい狩場を見つけたらしく、ガレージに戻ってくる時にはホクホク顔で帰ってくることが多い。今日も遅くまで狩りをしていることだろう。
近場で手頃な相手はいないものか、と考えていた時ふと思い浮かぶ。
そういえば、近場にあるじゃん、ダンジョンが(字余り)。
そう、アーティファクト・ソードマンがボスのあのダンジョンだ。魔導石を見つけた場所とも言える。
んー、まあボスだし、どれだけのダメージかを判断するにはいい相手かな。
そうと決まれば早速行動あるのみ!
私は最低限の片付けをしてガレージを出る。もちろん、私とヴィーン以外には入れないようにロックをかけた。
そしてやってきた懐かしのダンジョン。と言っても、素材集めのためにちょくちょく来てたんだけどね。ボスモンスターだからソードマンもダンジョンを出れば復活するし。
そう時間も掛からずにボス部屋にたどり着き、扉を開ける。待っていたのはいつものソードマンさんです。
私はマギアサーベルを二本引き抜き、いつでも刀身を出せる状態にしておく。そのままソードマンが動き出す部屋の中心まで歩いた。
ヴン、という音と共にソードマンの瞳に光が宿り、床に突き刺さっていた剣を構える。
『見せてもらおうか。マギアサーベルの性能とやらを!』
私は両手のサーベルに微量のENを流しビームの刀身を出現させる。剣を構えこちらへ近づいてくるソードマンに対してクロスするように剣を振り下ろす。
金属が溶けるような感覚と共にバチッ、と火花が散り、ビームの刃はソードマンの体へと吸い込まれていく。刃はソードマンのボロボロの装甲になんの抵抗もなく吸い込まれていき、そのまま通り抜ける。チラリと頭上のバーを見てみると三本あったHPバーがちょうど二本ほど削られてなくなっていた。
ひゃっほう! ロマン武器は最高だぜ!
固定ダメージ3000の攻撃が二回で6000ダメージ。HPバー一本が3000だとするとソードマンの総HPは9000か。
錆び朽ちた武器で一回の攻撃で与えられるダメージが約1%ほどだったから、その時のダメージはおよそ30くらいになる。うわ、初期装備の百倍ものダメージを叩き出してるよ。この高火力、癖になりそう。
振り下ろされる剣の一撃を横に躱しつつ、通り抜けざまにソードマンの胴体を薙ぐ。
きっちりと最後のHPバーを削り切り、ドロップアイテムを手に入れる。もう何度も倒しているので見慣れたアイテムだけど、パーツ作りには必要な素材だからね。いくらあっても困らんのですよ。
『しかし、とんでもないねこいつは』
刀身を消したマギアサーベルを見る。バランスブレイカーにも程があるでしょ、この武装。やっぱり、魔導石はあの段階で手に入れていいアイテムじゃなかったって事だね……運営にメールしてもバグではないって言われたから、正規の手段で手に入れたことには変わりないんだけども。
『ガレージに戻って持ち物整理したら、中層で試し斬りにでも行きますか』
マギアサーベルをバックパックに戻し、意気揚々とダンジョンを後にする。ふふ、二週間も引きこもった成果はあったかな。
軽い足取りでガレージに戻ってきた私は準備を整え、ヴィーンのいる〈散華の森・中層〉へと向かった。
[所持スキル]
《魔機人》Lv.36(3up↑)《武装》Lv.32(3up↑)《パーツクリエイト》Lv.--《自動修復》Lv22《自動供給》Lv.30(2up↑)《刀剣》Lv.30(MAX)《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.14《直感》Lv.25《敏捷強化》Lv.28(1up↑)《採掘》Lv.21《鍛冶》Lv.42(5up↑)《裁縫》Lv.19(2up↑)
残りSP62
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
続きもどうぞ、お楽しみください。




