第九十話 炎の宮殿-フレイム・パレス-
ダンジョン攻略、始まります。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
ソードをリアアーマーに戻した私は、ゆっくりと白夜号の甲板に降り立つ。
武器はしまいつつ周囲を警戒してみるものの、しばらく経っても形を持つ炎たちが現れることはなかった。
んー、戦闘は終わったんだろうか?
『終わった……んですかね?』
「終わった、と思いたいですね。ここから第二ラウンドは面倒です」
「旦那ぁ、さっきはひでぇことしやがるなぁ〜。俺がおっちんじまったらどうするんですかい」
「ダグザスは冗談が上手いですね」
「……冗談のつもりはなかったんですけどねぇ」
ナインさんにあしらわれ、鼻先をぽりぽりと掻く男性プレイヤーはダグサスさん。
装備は、重そうな全身鎧に扱いづらそうな斧槍。
短いボサボサの金髪に、二つに割れた顎がセクシーな戦士系プレイヤーだ。
動きは全身鎧をつけているとは思えないくらいに軽快で、攻撃や回避の判断も的確な、まさにトッププレイヤーだ。
「ダグザスのことは置いておいて。ミオンさんの強さは素晴らしいですね。あれだけの炎をいともたやすく蹴散らしてしまうとは」
『いやぁ、あの程度ならナインさんたちだって蹴散らしてたじゃないですか。私が特別強いわけじゃありませんよ』
「いえいえ。炎たちと戦いながら、他の飛空艇の様子も見てくれていたようで、ありがたいことです。私は、この飛空艇の指揮だけで精一杯でしたからね」
「ま、旦那がいなくても動けるように俺たちは鍛えてるんだけどな」
ナインさんの言葉にダグザスさんがドヤ顔で続けた。
確かに、【唯我独尊】は一人一人がかなりの実力を持っている。さすが三大ギルドと名高いギルドなだけはあるね。
……まぁ、誤解されて周囲からはやばいギルド扱いされてたみたいだけど。
私たちのギルドは戦闘メインじゃないから、練度が違うのも当然だよね。そこで無理してうちのギルドも強くしなきゃ〜なんて思っちゃダメだ。
うちにはうちの、【唯我独尊】には【唯我独尊】の強みがあるってね。
「さて、これで道が開けてくれるといいのですが……」
「旦那ぁ! 大陸を包んでいた炎が消えていきますぜぇ!」
食い気味のダグザスさんの言葉にそちらを見てみると、さっきまで大陸全体を包んでいた業火が大陸の中央へと退いていくのが見えた。
つまりあの炎は、その場所にいるなにかが生み出していた炎ってことか。つまりこの場合だと、朱雀だね。
自由に炎を操れるボスかぁ……生身だとやけどダメージが心配なところだ。
改めて浮遊大陸を確認してみると、さっきまでこの大陸を包んでいた炎はそこにあるものをなに一つ燃やしていなかったことが分かった。
全体的に深い木々に囲まれた浮遊大陸で、その中央には燦然と光り輝く炎の姿が見て取れる。
しかもその炎は宮殿の形を作っていて、一通り見た感じこの浮遊大陸にはこの炎の宮殿以外にめぼしい場所はなさそうだった。
『あれに突っ込んで行かなきゃいけないんですかね?』
「ん〜、そいつぁ勘弁してぇな。この森が燃えてなかったからといって、俺たちもそうなるとは限らねぇわけだしよぉ」
「しかしあの場所以外に行ける場所もなさそうですね。幸い炎の宮殿の近くには飛空艇が何隻も着陸できそうな空き地がありますし」
『これみよがしですよねぇ』
「森を歩かせない運営の優しさだと思うことにしますよ」
「んじゃ、とっとと行きましょうや」
白夜号を含めた数隻の飛空艇が浮遊大陸の中央を目指し、炎の宮殿近くの空き地に着陸する。
港では浮かび上がりっぱなしだった飛空艇だけど、地上に降りる際には着陸脚が展開されるみたいで、地面に底を擦り付けることにはならないみたいだ。
足元のぐらぐらとした感覚がなくなるのを確認して、私たちは浮遊大陸の大地を踏む。
「しっかしまぁ、近くで見るとすんげぇ明るいなぁ」
「こうも明るいと、あまり目に優しくなさそうですが……どうやって中に入りましょうか」
『熱気は感じませんけど……ナインさんたちもですか?』
「ええ。熱を感じない炎とは、少し不気味ですね」
私たちはぞろぞろと歩いて炎の宮殿の前までやって来た。
ゴウゴウと炎が燃える音がするものの、かなりの距離に近付いているのに熱気を感じないこと以外におかしなことはなさそうだ。
強いて言うなら、炎で作られたこの宮殿がかなり精巧に作られているんだな、くらいか。
細かな装飾すらも炎で作られていて、仮にこの宮殿が普通の素材で建てられていたなら観光スポットにでもなりそうなほど豪奢な雰囲気を感じる。
私たちが燃え盛る宮殿を前にしり込みしていると、不意に宮殿の扉が開いた。
どうやら、あちらさんは私たちのことを待っているらしい。
私はナインさんと顔を見合わせて、お互いに肩を竦めた。
「このままこうしてても埒が明きませんね。こうやって扉を開けてくれるということは、そのまま入っても大丈夫ということでしょう」
『ここの主が朱雀なら、環境ダメージで殺してくることはなさそうな気もしますし』
「さて、皆さん。気は進まないのは分かりますが、せっかくお招きくださっているのですから、先に進んでみましょう」
「ま、旦那がそう言うなら仕方ねぇなぁ。よぅし、お前ら、行くぞ〜」
「「「おう!」」」
ダグザスさんの号令で、【唯我独尊】のメンバーたちが整列する。
これもダンジョン探索の時の配列なんだろうけど、私がナインさんと一緒に一番前なのはなぜ?
それをナインさんに聞いてもニコニコしているだけなので、指示を出しているダグザスさんに聞いてみた。
「ん、だってあんたはめちゃくちゃ強いじゃねぇか。強いやつが先陣を切ってくれると、不安に思ってる後ろのやつらもそれに続け! ってなるわけで……すまんが、頼むぜ?」
『はぁ。まぁ、そういうことなら謹んで受けさせていただきますよ』
他のメンバーのため、なんて言われちゃ仕方ないよね。
それに、私自身は別に先頭でも問題ないし。さっきの戦いが消化不良だったから、もう少し骨のある相手と戦いたいよね。
……ん、なんか思考が戦闘狂チックになってる気が……いやいや、気のせいだよ気のせい。オラよりつえぇやつを探しに行くわけじゃないんだから。
「それでは、ダンジョンを進んでいきましょうか。中で炎のダメージがなかった場合はいつも通りのやり方で進んでいきますからね?」
「当たり前でさぁ」
『よし、しゅっぱ〜つ!』
私とナインさんを先頭に、【唯我独尊】+αの混成レイドパーティーは炎の宮殿の中へと入っていく。
外から見た炎の宮殿も凄かったけど、これまた中も凄い。
私たちが踏みしめているのは、炎で作られた大理石っぽい感じの床だ。
壁や天井、並べられてる絵画にいたるまで、この宮殿の中は全て炎で作られているらしいね。
そしてなにより、炎の熱さを感じない。
辺り一面が炎で覆われているのに、どこか心がほっこりするような暖かさの空間が広がっている。
いくら現実ではないゲームの世界とはいえ、現実離れしたこの空間に、私はしばらく言葉を失っていた。
「こいつぁ、また……」
「……床の温度も、ほんのり暖かい程度ですね。しかも触った感触がつるつるの石のような感触でした。恐らくモチーフは大理石でしょうか」
『ひとまず、この場所にはモンスターもいないみたいだし、ここを拠点に攻略を進めて行きましょうか』
「ですね」
玄関と思われる扉をくぐった私たちは、ロビーのような、エントランスのような空間に出ていた。
外から見たよりもこのダンジョンは大きいらしく、このエントランスだけでも相当の広さがある。これなら【唯我独尊】のメンバーも全員入りそうだね。
このエントランスから続く扉は四つ。
一つは私たちが入って来た玄関の扉。残りの三つはそれぞれ右と左と前に一つずつ扉が見える。
気付けば私たちの後ろの扉は閉まっており、炎の鎖で雁字搦めになっているようだ。つまり、このダンジョンを出るには死に戻るか、攻略するしかないわけだね。
「それでは、各PTは三PTごとにまとまって探索を開始してください。なにかあればチャットを。自分たちの手に負えないようなモンスターが現れた場合も同様です」
「「「はい!」」」
こうして、【唯我独尊】と私による、ダンジョンアタックが始まった。
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