第八十九話 炎の浮遊大陸-フレイム・ファンタジア-
続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
ナインさんたちに遅れてついて行くこと少し。
【唯我独尊】が所有していると思われる飛空艇が何隻か着艇している港にたどり着いた。
飛空艇の大きさは全長約50m、幅約20m程度の小さいものだ。そりゃ、戦艦と大きさを比べちゃダメだよね。
見た目はまんま船! って感じなんだけど、船と違うのはマストがなくて側面に折りたたみができる翼がついてる所かな。
飛空艇の後方には高さ5mほどの、飛空艇と同じ材質の建物がくっついている。多分、艦橋と搭乗員用の個室なんかが入っているんだろう。そこから飛空艇の中にも入れそうだし。
「戦艦を持っているミオンさんから見たらあれかもしれませんが、これに乗って目的地まで向かいます」
『いえいえ。こういったThe・ファンタジーって感じの船もいいですね』
「ありがとうございます。これらは全部、【唯我独尊】の資金で購入したものなんですよ。これを買ったおかげで行動できる範囲が拡がって助かっています」
『空を飛べるのと飛べないのじゃ大違いですからね』
「全くです」
どうやら目的地にはこの飛空艇に乗って行くみたいだ。
搭乗員の振り分けは既に終わっているのか、【唯我独尊】のメンバーが各々飛空艇に乗り込んでいく。
さて、私はどの飛空艇に乗ればいいのかな?
「あ、ミオンさんは私と一緒の飛空艇に来てください。むしろ、この飛空艇しか空きがありませんので」
『なるほど。分かりました!』
私はナインさんの後についていって、飛空艇へと乗り込む。
足を踏み出した瞬間、ぐらりと飛空艇が揺れる。どうやら、既にこの飛空艇は空に浮かんでいるみたいだ。
んー、ちょっとフラフラするかも。船が苦手な人は酔い止めを飲まないと厳しいかもしれないね。
【唯我独尊】のメンバーの中にも船酔いに弱い人がいるみたいで、酔い止めなのかポーションのようなものを飲んでいるプレイヤーがちらほら見えた。
私は飛空艇の縁に立ちながら、ぐらぐら揺れる飛空艇の下を覗き込んでみる。
やはりと言っていいのか、既にこの飛空艇は空に浮かんでいて、地面のようなものはなに一つ見えなかった。
ずっとこの大きさのものを浮かせていられるってことは、まず間違いなくこの飛空艇には大型の魔力結晶炉か、それに近しいものが使われてるはず。
もし飛空艇を作ってる工場とかがあるなら見てみたい気もするけど……まぁ、今日はボス戦に集中しよう。
『そういえばまだ聞いてなかったんですけど、目的地ってどこなんですか?』
「ああ、言っていませんでしたね。私たちの目的地は炎の浮遊大陸と呼ばれる、真紅の炎に包まれた浮遊大陸です」
『炎……ってことはもしかして?』
「ええ。【自由の機翼】が東、【極天】が西を解放していますからね。そろそろ南も解放してみようかと思いまして」
第二陣がやってくる前、私たちギルド【自由の機翼】が発見した、今では自由工場と呼んでいる謎の浮遊大陸。
そこを探索した結果、ボスである青龍ことセイリュウオーさんを倒し、私たちはギルドが使える施設として自由工場を獲得したんだよね。
しかも、セイリュウオーさんっていうおまけ付きで。
セイリュウオーさんって言うのは、私たち魔機人と似て非なる存在。同じ親を持つ子供同士……みたいな関係かな。
そういえばセイリュウオーさんをプレイヤーたちに負けないように改ぞ……もとい、強化しないといけないんだけど、挑んでくるプレイヤーがいないからすっかり忘れてたよ。
今やらなきゃいけない諸々が終わったら着手してみようかな……まぁ、ギルドメンバーが色々セイリュウオーさんと交流してるってのは聞いてるけどね。
で、東が私たちで西はユージン兄さんたちが解放したんだよね。
詳しい話は聞いてないけど、屋敷のある浮遊大陸と白虎のメイドさんを手に入れたって聞いてる。
スクショを見せてもらった感じ、かなりかわいい女の子みたいだね。実際に会ってみたい気もするけど、それも色んなことが終わってからだ。
ここまで言えば分かると思うけど、この第二の浮遊大陸には、それぞれ四方にそういった存在……四神がいるわけ。中央には黄龍っぽい存在を示唆する山もあるしね。
今回向かうのは南で、尚且つ炎に包まれるって話だから……十中八九そこにいるのは朱雀だろう。
「お恥ずかしい話、我々だけでは手に負えない可能性もありまして……そこで、ミオンさんに手助けしてほしかったのです」
『私自身も朱雀がどんな感じなのか気になっていたので、むしろありがとうございますってところですね。それに、ナイスタイミングでしたし』
そう言って、私は自身の機体を指さす。
「新しい機体……ですよね?」
『うん。名前はブランシュヴァリエ。こう言うとあれだけど、ブラッドラインとは比べ物にならないくらい強いよ』
「それはそれは……楽しみが増えたと思っておきましょう」
あ、この人相手が強ければ強いほど燃えるタイプだ。すっごい嬉しそうにしてる。
ナインさんは私に対して笑みを深めながらも、他のギルドメンバーに指示を出していく。
「さて、そろそろ出発するとしましょう。白夜号の発進を急いでください。他の船にも連絡を」
「「はっ!」」
ナインさんの指示に従ってきびきびと動いていくギルドメンバーたち。
あれよあれよと発進の準備は整い、第三港から飛び立つこととなる。
飛空艇の乗り心地は、戦艦とはやはり違い、風をダイレクトに感じれるところが爽快感を感じさせるね。
ただ、手すりのようなものがあるとはいえ、こんな高さから落ちることになったら死に戻りは免れないだろうなぁ……私は空飛べるから関係ないんだけどさ。
甲板に出ているのは私とナインさん、それと数人のプレイヤーだけで、この飛空艇の速さに慣れてない人や、高いところが苦手な人は室内で待機しているらしい。
この世界特有のカードゲームやボードゲームなどで遊んでいたりもするらしいね。私も今度町を見て回ってそういったアイテムを探すのも悪くないかも。ゲーム内でTRPGとかも面白そうだよね。
『そういえばナインさん。この飛空艇って誰かが操縦してるんですよね?』
「ええ。飛空艇を購入する時にギルドメンバー全員でスキルを習得しまして。練習はしていますから基本的にうちのギルドメンバーであれば誰でも操縦できますよ」
『なるほどです。そこもうちの戦艦とは違うんですね』
そもそも、黄昏の戦乙女を動かすのに特定のスキルって必要なのかな? ヴィーンたちからは特になにも聞いてないんだけど。
まぁ、明らかに飛空艇とは技術体系が違うから、そこも関係があるのかもね。機械化が進めば進むほどスキルはいらないのかもしれない。
そんな雑談をしつつ、目的地へと飛び続けることおよそ三十分ほど。
《遠視》スキルを使うと、ぼんやりとだけど赤い輝きが見えてきた。恐らくあれが炎に包まれているという浮遊大陸だろう。
私がこの距離で見えたと言うと、ナインさんに驚かれた。
なんでもこの浮遊大陸、昼間はとても見えづらいらしく、炎の欠片どころか陽炎のようにゆらゆら揺らめいている箇所を見つけるのも難しいらしい。
偶然にも夜間にここの付近を通りかかった際に、燃え盛る浮遊大陸を見つけたことによって判明したようだ。
『それで、その炎に包まれている浮遊大陸とやらにどうやって着陸するんです?』
「問題はそこなんですが、一つ案があります。この浮遊大陸に近付くと実態を持たない炎系モンスターが多数襲ってくるのですが、これを全て倒せば道は開かれるのではないか、と」
『あー、まぁありがちなパターンですよね。閉ざされた部屋でモンスターを全部倒したら扉が開く、みたいな』
「ええ。ここの運営であれば古きよきRPGのお約束は守ってくれそうな気がしましてね。ただ、飛空艇の上で戦えるプレイヤーはそう多くないので、ミオンさんにも手伝っていただけたらと」
『オッケーです。肩慣らしには申し分ない相手ですね!』
私は肩をぐるりと回しつつ、武装の調子を確かめる。
サーベルもソードも大丈夫そうだね。翼の可動も上々。せいぜいみんなの邪魔にならないように、空を飛び回ってモンスターを倒すとしますかね。
そんなことを思っていると、ナインさんがインベントリから大きな杖を取り出した。
柄は2mはありそうなほど長く、その先端には銀色に輝く宝玉のようなものがはめ込まれていた。
装飾自体はとても地味で、色合いも派手とは言えない。でも、目を離せないなにかがその杖にはあった。
それにあの杖、かなりの重さを持っているはずだ。ナインさんがインベントリから取り出した瞬間、飛空艇が揺れたもんね。
鉄か、鋼か。それに近しい鉱石で作られていると思われる。
「そろそろです。戦闘の準備を」
「とっくに準備はできてますぜ!」
「船酔いが酷いやつらは下がってろよ! 危ねぇからな!」
「ミオンさんもよろしく頼むぜ! 滅神機姫の力、存分に発揮してくれよな!」
なんだろう。みんなからの視線が痛いや。
いやまぁ、PvPをする前に私の武器や戦い方を見ておきたいってことなんだろうけど……望み通り見せてやろうじゃないか。
見ただけで対策できるほど、柔く作ってはないつもりだからね。ここは、私のブランシュヴァリエを信じるよ。
私は背部パーツに取り付けてある翼のフレームパーツを動かす。
翼膜のない骨格のような翼に、翡翠色の輝きが宿る。
瞬間、周囲に翡翠の粒子が舞い散り、翡翠色の結晶のようなものがフレームパーツの間に現れた。
これが私の新たな翼。マギユナイトリオン・オーヴァウィング!
オーヴァウィングがヴン、と震えるように光ると、ふわりと身体が宙に浮かぶ。そして、飛空艇と同じ速度で飛び、その場で滞空する。
なんか、この浮き上がり方ラスボスっぽいな……まぁ、かっこいいからヨシ!
私は左手にインベントリから取り出したマギユナイト・ライフルを、右手にブランシュヴァリエ・ソードをそれぞれ構える。
そして甲板に出ているみんなが戦闘準備を整え終わったその時、私たちの周囲を数えるのも馬鹿らしいほどの炎系モンスターが取り囲んでいた。
鳥の形をした炎、獣の形をした炎、剣の形をした炎など、多種多様な形状の炎が私たちを取り囲み、睨めつけている。
炎たちは、私たちの姿を捉えるとその口を開いた。
『タチサレ……タチサレ……』
『コレイジョウススメバハイジョスル……』
『サッキュウニタチサレ……』
『……って言ってますけど?』
「もちろん、戦闘開始です!」
『んじゃ、先手必勝!』
ナインさんの開戦宣言。
私はスラスターを噴かせて一気に間合いを……って、はぁ!?
いつもの感覚でスラスターを噴かせた私は、炎たちを置き去りにして炎たちの後方までやって来ていた。ついでにここまで来る途中で当たった全ての炎たちを消滅させるおまけ付きで。
加速力が今までの比じゃない! これは早く慣れないとまずそうだね。
私は改めて控えめにスラスターを噴かせて、炎たちに接近する。
炎たちはそんな私を迎撃しようと各々構えるが、動きが遅すぎた。
私はあっという間に炎たちに近づき、右の剣を横薙ぎに振るう。
すると振るわれた剣が炎の獣を消し去り、剣圧でその周囲にいた炎たちまでもを消し去ってしまった。
実体がないモンスターだから威力の程は分からないけど、かなりのダメージを与えられてるっぽいね。
「手応えはない……ですが、数は減っているみたいですね」
「旦那ぁ、近接主体の俺には空に浮かぶ相手はちっと厳しいんですがね!」
「頑張ってください。【ホーリーレイ】」
「そりゃないぜ〜」
ナインさんの構えた杖の先に、魔法陣のようなものが出現する。
その魔法陣は一瞬淡く輝き、真っ白い閃光を放った。
放たれた閃光は一つの線状に束ねられ、軸線上の炎たちをかき消していく。
ナインさんの近くにいた全身鎧を着込んだ男性プレイヤーも、口ではなんだかんだと言いつつ丁寧に炎たちを処理している。
見れば、他の甲板に出ているプレイヤーたちも各々の攻撃手段で炎を迎撃しており、その数を急速に減らしていっていた。
ならばと他の飛空艇の様子を見てみるものの、そちらも危なげなく炎たちを迎撃している。
やっぱり【唯我独尊】の人たちはPSが高い……みんな戦闘大好きみたいだからね。そりゃそうなるか。
んー、この炎相手だとちょっと消化不良なんだけど……まぁ、数を減らしていきますかね。
それから約十分後、私たちを襲っていた炎たちの姿は影も形もなくなった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




