第八十八話 情報の対価
続きです。
引き続き本作品をお楽しみください。
兎にも角にも、まずはそのイベントフィールドになった浮遊大陸を見つけないとね。
情報を探している時は、掲示板を見てみると意外なところに情報が落ちていたりするものだよ……とは、ヴィーンの談。
早速いくつかのスレを見て回るけど、それっぽい記述はないねぇ。
なんか面白そうなことやってる人はちらほらいるんだけど……って、ああ、このスレ私のファンクラブの人たちのだ。
なんだか見てはいけないものを見てしまいそうだね……うーん、このスレは見なかったことにしよう。そうしよう。
で、だ。掲示板を見てもいい情報がないということは、誰もその情報を見つけていないか、見つけた人が流していないかの二択になる。
こういう場合、情報を知ってそうな人に聞くのが一番かな?
えっと、私のフレンドで一番情報を知ってそうなのは……そういえば、フリファン三大ギルドの皆々様とフレンドでしたね私。
ナインさんかユージン兄さんか……そもそもいきなりギルマスにチャットを送ってもいいのかな?
まぁ、ダメだったらその時だ。まずはナインさんに聞いてみよっと。
『お久しぶりですー』
『お久しぶりです。それにしても珍しいですね。ミオンさんが私になにか用ですか?』
『用っていうか、ある情報を探してて、ナインさんがその情報を知ってたらいいなって思ってチャットさせていただきました』
『なるほど。イベントフィールドの浮遊大陸のことですか』
『えっ』
私の考えてることが分かるなんて、もしかしてこの人エスパーか!?
などと驚いていると、『簡単なことですよ』とナインさんは言う。
『先ほどの運営からのサイレントアップデートのお知らせ、そして掲示板にも見当たらない新しい浮遊大陸の情報、さらに、普段連絡のない相手からのチャットとなれば、答えは簡単に導き出せます』
『おお……』
『私はミオンさんが求める情報を持っています。ですが、この情報をタダでは……渡せませんよね?』
実際に顔を見てるわけじゃないけど、ナインさんの黒い笑みが見えるようだよ……まぁ、情報に対価が必要なのは当然だよね。
さて、私に支払えるものならいいけど……そこは聞いてみるしかないかな。
『ちなみに、私がその情報をもらうにはなにをすればいいんです?』
『ああ、安心してください。アイテムやお金などがほしいわけではありませんから。私はミオンさんの力を貸してもらいたいのです』
『力?』
『はい。身も蓋もないことを言えば、これから挑むボス戦に一緒に挑んでもらいたいんですよ』
ふむ、なるほど。
確かにそれなら私も余計な出費をしなくて済むし、むしろそのボスによっては有用な素材が手に入るかもしれない。
それに、挑んでもらいたいってところがミソだね。
仮に挑んで負けたとしても情報は貰えるわけだから、私に有利な条件ってことだ。
まぁ、新しい機体の調子も確かめたかったところだし、ちょうどいいっちゃちょうどいい話だよね。
『オッケーです。私の方もパーツを新しくして調子を確かめたかったので、渡りに船ってやつですね』
『おや、それは楽しみです。では、集合時間はゲーム内時間で二時間後、場所は南の港町、レッドハーバーの第三港ということで』
『了解!』
ナインさんとのチャットが切れる。
さて、つい流れでボス戦に挑むことになっちゃったけど、準備くらいはして行こうか。
とは言っても、私たち魔機人にポーションとか使えないし……あ、ちょっと武器を新調しようかな。
機体は新しくなったけど、武装はほぼほぼそのままだからね。一つくらいは追加しておきたい。
時間に遅れないように先にレッドハーバーに移動して、空いているスペースにガレージを展開する。いやほんと、どこでも拠点にできるって言うのはとんでもないね。
ガレージの中に入った私は、集合時間の十五分前にアラームをセットして武装作製に入る。
作製って言っても、やることはブランシュヴァリエを作った時とあまり変わらない。
私はインベントリから錆び朽ちたソードを取り出した。
そう、どうせならこいつを甦らせてあげようかなって思ってね。
今持ってる素材でも十分な性能にはなるはずだ。
残り時間は一時間とちょっと。時間は無駄にはできないぞう。
《パーツクリエイト》に必要な素材と錆び朽ちたソードを入れて、焦らず、尚且つ急いで作業を進めていく。
今後新しい素材が手に入って強化することも考えて、伸び代は残しておく感じで。スペック自体はそこまで高くしなくても、ブランシュヴァリエとスキルのステータス補正でかなりの威力が出ると踏んでるんだけどなぁ。
魔力武器だとダメージ値が固定だけど、実剣はステータスでダメージが決まるからね。今まであまり活用してこなかったステータスさんの出番ですよ。
それに、白い機体には実剣がよく似合うと思うんですよ。翼を持ってる機体ならなおさらね。
流石に刀身が赤くなるとか、そういう機能は付けられないけど。いや、新しく手に入る素材しだいではできるかも?
急いで作業を行ったおかげか、集合時間の二十分前くらいには完成したよ。
黒の持ち手に蒼紫の鍔、白銀の刀身を持つブランシュヴァリエに相応しい片手剣だ。
[武装・片手剣]ブランシュヴァリエ・ソード レア度:EX 品質:A+ 耐久値:6000/6000
ATK△△△△
スキル:《不壊》
おや、なにやら見慣れないスキルが。
《不壊》:このスキルが付与されている武器は耐久値がゼロにならない。
なるほど。武器なんかは耐久値がゼロになると修復不可能になって砕け散っちゃうからね。それが防げるのはありがたい。
というか、これって初期装備を改造したからってことでいいのかな?
それにしては、ブランシュヴァリエにはこの《不壊》のスキルはつかなかったけど……まぁ、細かいことは気にしない気にしない!
私は早速、できあがったブランシュヴァリエ・ソード……長いからBSソードでいいかな。BSソードを左腰のリアアーマーに取り付ける。
元々取り付けてあったマギアサーベルはインベントリでお留守番だ。
これで近接武装が、右腰にマギアサーベル、左腰にBSソード、背中にハイパーマギアサーベルという形になった。
インベントリの中にも色々入ってるし、これでボス戦も大丈夫だろう。
私はガレージの外に出て、ガレージを収納。
そのままの足取りでレッドハーバーの第三港に向かった。
レッドハーバーだけでなく、私たちが拠点にしてるホワイトハーバーでもそうなんだけど、港町って言うだけあって港の数が多いんだよね。
第一から第十までの港があって、一つの港に何隻もの飛空艇などが止まっている。
私たちの黄昏の戦乙女や、ダリベさんのところの暁闇の戦乙女なんかは普通の飛空艇と違って場所を取っちゃうから、少し多めに停船料を払ってるんだよね。
ギルマスの私が言うのもなんだけど、よくうちのギルドって金欠にならないよね……それだけ頑張ってくれてる人がいるってことなんだけどさ。
私って基本的にポケットマネーからしか出さないから、ギルドの共有財産がどれだけ増えてるのか知らないんだよね。
前に転移ポータルを買ったから、そこまで多くはないと思うんだけど……不思議だ。
目的地である第三港は、港の入口からほど近い場所にある。初心者でも、最低限のマップさえ持っていれば迷うことはない場所だ。
さて、集合時間十分前だけど誰かいるかなーっと。
私が第三港のゲートをくぐると、中には既に大勢のプレイヤーでごった返していた。
そりゃ、【唯我独尊】だけじゃなくて他のギルドやPTなんかもいるだろうから当たり前か。
「こっちですよー」
私が入口の近くでキョロキョロしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。そちらの方を向くと、身長の低い男の子がこちらに向かって手を振っているようだ。
久しぶりにナインさんを見たけど、相変わらずちっちゃいな……いやまぁ、アバターだから弄らない限りは大きくなることはないんだけどさ。
私が駆け足でそちらに向かうと、私の姿を見た数名のプレイヤーから「ほぅ……」と感嘆の声が漏れた。
うんうん、わかるよその気持ち。
ブラッドラインも相当かっこよかったけど、ブランシュヴァリエはから感じるかっこよさはその比じゃないよね。なんというか、気品? みたいなのを感じるよ。
「随分と変わりましたね、ミオンさんは」
『イベント終わってから色々とね。ナインさんは……あんまし変わってない?』
「ええ。防具はあまり変えていません。しかし、武器の方は結構凄いんですよ? ボス戦で見せられるといいのですが」
『楽しみにしてるね。私の方も、今までの私だと思ったら大間違いなんですから』
「それはそれは。戦うのが楽しみですね」
『いやぁ、PvPはちょっと……』
「むぅ。残念です」
むくれたように頬を膨らませるナインさん。
くっ、こやつ、ショタの身体の使い方を熟知しているっ!?
そんな顔されたらPvPしてあげたく……はっ、いけないいけない。
いやまぁ、別にPvPが嫌いってわけじゃないんだけどね。ダリベさんともやってるし。
ぶっちゃけ装備の性能がダンチだから、PvEならともかくPvPだと負けることはないんじゃないかって思っちゃう。
慢心……なのかな? カタログスペックはあるけど、対人戦の経験が浅いのは事実か。
まぁ、ナインさんが戦いたいなら、暇のある時間にでもやればいいよね。
『まぁまぁ。PvPは今度やりますから、今日はボス戦です』
「絶対ですよ! 約束ですからね!」
『は、はい』
文字通り目の色が変わって……って、後ろの皆さんもなにやら不穏な雰囲気に。
ああ、そういえば【唯我独尊】って戦闘狂が多いって話だったっけ……たまには対人戦も悪くないか。
『分かりましたから、今度皆さんとPvPやりますから……』
「「「っっっっっし!」」」
息のあったガッツポーズ!
まぁ、私の方も勉強することがあるだろうから、その時は頑張ろう。
「ほらほら、ミオンさんとのPvPは魅力的ですが、今日はボス戦です。非常に残念ですけどね」
ナインさんが【唯我独尊】のみんなを連れて、港の奥へと向かっていった。
そんなみんなの様子に私は肩を竦めて、みんなの後ろについて行く。
さてさて、今日戦うボスはどんなボスなのかな。ちょっと気になるところだけど。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




