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祐美の手紙を読むと僕は急いで駅に向かった。

川崎に行かなきゃ。

祐美の家に行かなきゃ。

人込みを縫うようにして走った。

電車に駆け込んだ時にはもう体力はほとんど残っていなかった。

ハアハアと肩を揺らして息をする。

幸いにも電車は混雑しておらず、席は空席ばかりだった。

扉近くの席にドカッと座り込むと僕は頭を両手で抱え込んだ。

(なんでだよ!)

祐美の手紙はお別れの手紙だった。

僕ともう二度と会わない。

そういった意味の絶縁状ではなかった。

本当の意味でのお別れの手紙だったのだ。


“金子孝之様

 

 お気づきかとは思いますが私はあなたのことが嫌いです。

 昔からあなたのことが大嫌いでした。

 私とそっくりなあなたのことが憎くて仕方なかったのです。

 だから私は出来る限りあなたから離れることにしました。

 地元の公立中に進学しなかったのもあなたのせいです。

 本当は私立の中学なんて行きたくなかった。

 友達がいる中学校に行きたかった。

 でもあなたと同じ中学に行けば私はずっと驚異の目で見られる。

 なんであなたと私はそっくりなのかと。

 双子でもない。

 ただのいとこなのに。

 あなたは知っていましたか?

 小学校の頃、同級生の間では私たちのことを本当は双子なのだという噂が立っていました。

 私のお母さんか、みちこおばさんのどちらかが本当の母親で、私たちはどちらかが養子なのだという嘘が広まっていました。

 そんな陰口を私は中学校でも味わいたくなかった。

 だから私立の中学に行きました。

 どうして傷つくのは私の方なのでしょう。

 どうして損をするのは私の方なのでしょう。

 そう思いながらも、私は中学校、高校とあなたから離れられた喜びを謳歌しながら楽しく過ごしてきました。

 その間、あなたは男らしく私は女らしく成長しました。

 私は日々成長するあなたを見るのが好きでした。

 体つきも顔つきも、私と乖離していくのが嬉しくて仕方なかったのです。

 でも、あなたはまた私を追ってきた。

 あの日、ファミレスであなたを最初に見たとき私は恐怖で声が出ませんでした。

 まるでドッペゲンガーを見ているような気持ちになりました。

 しかもあなたは私が一番嫌なタイミングで現れました。


 私は1年前、アルバイト先の塾で一人の男性と知り合いました。

 そして半年前に妊娠しました。

 彼は私と子供をずっと守ると話してくれました。

 社会人である彼はそれが出来ると私も思い、産もうと思ったのです。

 でも、結局産むことはありませんでした。

すぐに流産をしてしまったのです。

そしてそのことで私は自分に先天的な遺伝子異常があることを知りました。

私はこの先、一生子供を産めない体だったのです。

子供好きだった彼は私から離れていきました。

何のために私はこれまで生きてきたのでしょう。

何のために私は頑張ってきたのでしょう。

女で生まれてきたのに女じゃないと言われた気がしました。

この世界で私は必要がないのだと思いました。

そんな時です。

あなたが私の前に現れたのです。

男であったあなたが女装の姿で、しかも私とそっくりになっていました。

それに私と同じなのは外見だけじゃないのです。

あなたは私と同じで赤ちゃんを産めないのです。

今の私と今のあなたで違いなどあるのでしょうか。

そう思うと生きているのが本当に馬鹿らしくなりました。

あなたは女になりたいようですがそれは無理な話です。

戸籍だけ女性になったところで、本当の意味で女性になることは無理だときっとこの先、気がつくことでしょう。

 それまでせいぜい頑張ってください。

 

 あなたのスマホにショートメールを送ってから私は大量の睡眠薬を飲んで死にます。

 私と連絡がつかなければ親や友達の誰かが心配して、いつかは私のマンションを訪れるかもしれません。

 でも発見が遅れ悪臭等で周りに迷惑をかけたくはありません。

 これを読んだらあなたの方から警察などに連絡をしてもらえますか。

 玄関のドアは施錠していません。

 

さようなら”

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