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“あなたに手紙を書きました。

ただ、あなたがどこで暮らしているのか分からないので横浜郵便局にあなた宛の手紙として郵便局留めで保管しておきました。

時間があるときにでも取りに行ってください。

もう私はあなたと二度と話すことはできません。

あなたのことは誰にも言っていないので安心してください。

それではさようなら”

祐美からのショートメールにはそう書かれていた。

僕はすぐに祐美に電話をかけた。

発信音は鳴っていても祐美が出ることはなかった。

(なんで出ないんだよ!)

僕はスマホを机にバンっと叩きつけた。

(手紙ってなんだよ。いいたいことがあるのなら話せばいいじゃないか)

祐美は僕を完全に拒否することに腹が立った。

でも本当は祐美の気持ちを僕は分かっていた。

あの会った日の祐美の顔を見れば理解できた。

「気持ち悪い」

そう僕を評価した祐美は目に涙を浮かべていた。

祐美は僕を怖がっていた。


受け取りには身分証明書が必要だが、僕宛ての手紙だということで僕は自分の学生証を持って行くことにした。

退学する際に学生証を返却しなかったためだ。

運転免許を持っていない僕にとってこれが僕の唯一の身分証明書だったので退学手続きの時には紛失したと嘘をついた。

(まさかこんなことで使うなんてね)

既に退学した学生だということも問題があるが、それよりも問題なのはすでにその学生証の有効期限が過ぎているということだった。

(本当ならもう卒業して社会人になっているのだろうな)

僕がやってきたことはみんな無駄だったのだろうか。

きっと祐美の手紙には僕を愚弄する内容しか書かれていない。

見なくても分かる。

すごく虚しくなった僕は「はあー」という大きなため息をついた。


トランクスなら普段から穿いているので大量にあったが、男性物の服は持っていなかった。

しかたなく、部屋着として使っているグレーのパーカーとベージュのパンツを合わせることにした。

パンツも女性ものだったが、見る人が見なければ分からないだろう。

僕は長髪を纏めると、急いで通販で買った短い黒髪のウィッグを被った。

もともと中性顔だと言われていたのだが手術で頬骨を削ったためにノーメイクでウイッグを被っても、ベリーショートの女の子という印象は消えなかった。

(そうだ、眉毛だ)

僕はペンシルで眉毛を太く描いた。

するとだいぶ印象が違った。

(うわー、美少年だ)

自分でも惚れてしまうくらいの男子が鏡に映った。

(これであと10センチ、背が高かったら絶対に逆ナンされるね)

僕はニヤニヤとした。


男の姿で街中を出るのは一年ぶりだった。

パンツは女装でも何度かやっているので違和感はなかったが、バッグを持たずポケットに財布やスマホを入れるという感覚は久しぶりだった。

(落ち着かないや)

それに意識しないでいるとすぐに内股になってしまう。

(早く元に戻りたい)

そう心から思った。

でも一年ぶりに男子トイレで立ったまま尿を出すと、スッキリとした気持ちから思わず「あぁ」という声が出てしまった。


「ではこちらになります」

特に問題なく、手紙を受け取ることが出来た。

「金子孝之様」と書かれた封筒をポケットに押し込むとすぐに郵便局を後にした。

そして郵便局前のあまり広くない広場に置かれていたベンチに腰を下ろした。

(うわっ、冷たい)

ベンチはかなり冷えていた。

それに秋の乾いた風がピューと音を立てている。

寒いのは重々承知していたが、僕は一刻も早く祐美の手紙を見たかった。

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