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クリーニング店をやめてもすぐには困ることはなかった。
はるちゃんに出会う前とは異なり、お金もあるし、住む家もあった。
だがそれも永久ではなく有限であることにはかわりなかった。
僕は女性として生きることに限界を感じた。
けれども男に戻って生きるのは死んでも嫌だった。
このまま女性として生き続けたい。
性同一性障害者として自分の戸籍を女性に変えて女性になろう。
男性器を失うのは嫌だったが、その道しか僕には考えられなかった。
そのためにはまずは親に相談をするべきだろう。
そう思ったのは夏から秋に入りかけた、10月頃のことだった。
家に戻って説得するにはどうしたらいいだろうか。
親を説得する際に、誰か傍にいてもらえたら・・・・
そう考えたとき、ふと頭に浮かんだのが祐美だった。
もしかしたら祐美なら味方になってくれるのではないだろうか。
そう思ったからだ。
直接電話を掛けると祐美は出てくれた。
手術で声が高くなっているので僕はワザと低い声色を使った。
「たかちゃんなの?」
そう尋ねる祐美の問いに僕は「うん」と答えた。
それから色々質問攻めにあった。
「何をしていたの?」
「今どこにいるの?」
「何で学校をやめたの?」
「何で急にいなくなったの?」
僕は一つ一つ丁寧に答えた。
ただ僕は二つだけ嘘をついた。
一つは性同一性障害者であるということ、そして二つ目に同性が好きだということだ。
嘘をついた理由は僕の現状を言っても普通の人間には僕の思考を簡単には受け入れてくれないと思ったからだ。
だったら性同一性障害者とした言った方が分かりやすいし、同性が好きだと答えた方が状況を把握し易いと僕は考えた。
電話口から次第に祐美の声が小さくなっていくのを感じた。
(ああ、きっと祐美には受け入れてはもらえないのだろう)
そう僕は悟っていた。
それでも祐美は直接会いたいと言ってきた。
僕は拒否する必要はなかったので、僕たちは翌日会うことになった。




