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改札を過ぎ、僕はロータリーがある入り口へと向かった。

外に続く階段を下りていくたびに、とても懐かしく思えた。

佐久平駅に来たのは3年ぶりだった。

風がピューと音を立てながら階段下から構内に入ってきて僕のスカートをほんの少しフワッとさせた。

(まぁ、こんな姿で帰って来るとは思ってもみなかったけどね)

ククッと苦笑いをした。

(そうだ。あの時、僕はノリコおばさんの運転する車で来たんだった)


入学式の前日、僕は一人で東京に向かうことになっていた。

入学する1カ月前に母と父と三人で住むアパートも決め、アパートには家電や食器など生活に必要なものは揃っていた。

一旦、長野に帰郷したのだが入学式は僕だけが出ることとなっていた。

平日ともあって父親は仕事でいなかったし、母はその日、パートのなかったノリコおばさんと僕を見送った後に二人でランチに行くというので僕はノリコおばさんが運転する車で佐久平駅まで送ってもらった。

(なんだか僕のことはおまけのようだ)

僕と同じく進学する祐美は、ノリコおばさんもヒロシおじさんも二人とも仕事を休んで入学式に出るらしい。

それに比べ、僕など期待をされていない。

もちろん祐美が僕よりも頭がいいのかもしれない。

第一志望の国立川崎大学に落ちたとはいえ、後期日程で川崎市立大学の商学部に受かったのは頭がいい証拠なのだろう。

でも僕には女装を始める夢の方が受験よりも大事だった。

英単語を一つ覚える時間があったら、動画サイトにアップされているメイク動画を見ることを優先させた。

僕は東京に出ていきたいという一心で親や学校の先生の反対を押し切って地元の短大や専門学校ではなく、東京の専門学校に進学したのだ。

僕だって勉強に力を入れたらそれなりにもっと違う進学先があったと思っていた。

だが後悔はなかった。

これで気兼ねなく女装を開始できる。

心はワクワクしていた。

「孝之君。これ祐美の携帯番号なんだけど」

佐久駅に着くと運転席に座っていたノリコおばさんが僕に一枚の紙を差し出してきた。

僕は思わず「えっ」と驚いた。

「祐美も4月から東京の方にいくじゃない。きっと何かと困ることも起きると思うの。よかったらいとこ同士、仲良くしてあげてくれないかな」

そうおばさんは申し訳なさそうに小さく笑った。

祐美が僕に助け?

そんなことは絶対にないだろう。

僕はそう確信していた。

なぜなら隣に住んでいるというのに中学生のころからずっと会話らしい会話をしたことがなかったからだ。

だからといってノリコおばさんを困らせるほど僕はガキではなかった。

「はい。わかりました」

僕はノリコおばさんから紙を受け取るとポケットに入れた。

新幹線に乗ってからその番号を携帯のアドレスに登録したが、きっとこの先にこれを使うことはないと僕は思った。

だが、僕の予想は見事に外れてしまった。

この作品のジャンルを何にしようかすごく悩んでます。

うーん、恋愛でもなければSFでもないし、推理でもホラーとも言えないし。

なのでとりあえずノンジャンルのままにしておきます(笑)


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