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「まもなく佐久平に到着します。小海線は御乗換えです」

そのアナウンスを聞き終え、降りる準備を始めようとしたとき、スマホがブルブルと震えた。

画面には「ロータリーで待ってます」というメッセージが可愛い猫のキャラクターのスタンプと共に表示された。

(もう逃げられない)

僕はフーと深呼吸し終えると了解という意味で過去に何度も使っている、熊のキャラクターのスタンプを送った。


新幹線を降りると、寒さで体が竦んだ。

(もっと厚手のタイツにすればよかった)

そう思うと僕はハハハと心の中で笑った。

僕は意外に図太い神経をしているのだなと思ったからだ。

こんな状況でも寒さを感じることが出来るのは図太い神経を持っているからだ。

そう思わずにはいられなかった。

(なるようになる)

こんな姿を受け入れることが出来ないとなればきっと殴られるだろうし、勘当させられるだろう。

それに過去の自分の行為を許してはおけないとなればきっと警察に通報されて僕は処罰されるだろう。

だが、だとしても僕は殺されるわけではない。

きっと起訴されたところで懲役刑にはならないだろう。

むろん、世間からは驚異の目で見られることはあるだろう。

けれどそれは今まで僕が享受した喜びや興奮の対価と思えば安いものだ。

それにもしかしたら、僕は受け入れられるのかもしれない。

そうさ。

僕は家族からこの姿を受け入れてもらえる可能性だってあるのだ。

そうなれば、僕はこれからずっとこのまま人生を謳歌できる。


ホームのエスカレータを登り、駅構内の女子トイレと入った。

会う前に自分の姿を確認したかったからだ。

洗面台の前に立つと、僕は鏡の自分と対峙した。

茶色のコートに白いセーター、それにダークグリーンのスカート。

黒のタイツに、こげ茶のショートブーツ。

おかしな恰好ではない。

それに顔も体も何一つおかしい所はない。

(綺麗だ)

そう僕は自分を評価した。

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