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はるちゃんは何度も何度も僕に頭を下げた。
お金も差し出してきたが僕は頑として受け取らなかった。
財布から自分の免許証がなくなっていることには気がついていないようだった。
別れ際に、携帯を家に置いてきたということになっている僕に自分の連絡先を書いた紙を貰った。
「家に帰ったら連絡してね。来週も東京に就活で来るから会おうね」
はるちゃんはそう言った。
でも僕はそれっきり彼女と会うことも連絡することさえなかった。
罪悪感も要因の一つだったが、もしも勝手に身分を借りていることがバレた時に居場所を特定されないためということが大きかった。
はるちゃんと別れてからすぐに僕は大宮駅近くのネットカフェに向かった。
まずは銀行口座を作らなきゃいけない。
そのための情報収取だった。
だが調べれば調べるほど問題は山ほど見つかった。
銀行で口座を作ると後々、銀行からキャッシュカードが自宅に郵送される。
しかも書留郵便だ。
書留は自宅で本人が受け取るか、若しくは郵便局に本人が住所を記載した身分証明書を持参して受け取るしかなかった。
僕がはるちゃんの住む家で受け取ることは出来ない。
ただ僕がはるちゃんの運転免許証を持参して郵便局で受け取ることは出来る。
しかし、郵便局で受け取るというのは、郵便局員が配達した際、家に誰もおらず不在者通知が自宅ポストに入っていた場合に再度郵送を頼むかそれとも郵便局に直接出向くかというケースで選べるものであって、書留を最初から郵便局で受け取ることは出来なかった。
じゃあ住む場所を確保するのが先なのだろうか。
でもそれにも多くの問題があった。
住む場所を手に入れるということは賃貸契約が必要となり、契約者の身分証明書の他に保証人の身分証明書や印鑑証明が必要となる。
はるちゃんの運転免許証があるので、彼女を契約者にすることは出来ても保証人の問題を解決させることは出来ない。
保証人は契約者の親族とするのが通常であるので、はるちゃんのお父さん若しくはお母さんの身分証明書と印鑑証明がどうしても必要となるがそれらを手に入れるのは不可能だ。
(あーもうダメなのか)
諦めかけていた時、ふと1カ月前まで住んでいたアパートを思い出した。
僕の住んでいたアパートの隣に大きな家があり、その家がアパートのオーナーの家だった。
アパートは1階に4部屋、2階に4部屋という構造で僕は2階の角部屋に住んでいた。
僕がその部屋に決めたのは値段の安さもあったが、隣の部屋に誰も住んでいないということが大きかった。
僕の隣の部屋はオーナーの荷物置き場になっていて普段は誰もいなかった。
(あのオーナーの部屋が使えないだろうか)
あの部屋の住所にはるちゃんの住所を移す。
それから都内の銀行で口座の開設をする。
免許証に記載されている住所と異なるが、区役所で発行する住民票を持参すれば免許証の住所変更をしなくても住所が栃木県になったままの彼女の免許証で口座は開設できるらしい。
銀行からの郵便物はあの物置部屋で受け取れば良い。
銀行口座を作り、携帯電話を契約したら、すぐにはるちゃんの住民票を元の栃木県に戻せばいいのだ。
そうすればきっとばれることはない。
計画を立てると僕はすぐに行動を起こした。




