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“栃木県立壬生女子高等学校普通科に入学。
高校時代はバレー部に入り、3年生の県大会ではベスト4。
高校卒業後は県内の宇都宮市立大学の法学部に進学。
会社法を専攻するゼミに所属しており、自己株式についての卒業論文を作成する予定。
サークル活動は手話愛好会に入っており、月に2回ほど手話を通じて市町村主催のボランティアに従事。
特技は英語で大学2年生の時にカナダに3か月間の留学経験。
エトセトラ、エトセトラ”
免許証を手に入れた以上、もうはるちゃんに付き合う理由など僕にはなかった。
でも手帳を読み込むうちに僕は大宮駅に着くころにはすっかりと『持田はるか』という女性になりきっていた。
これから説明会を受ける会社は『持田はるか』にとっては行きたい企業の一つなのだ。
説明会を受けなければ選考は開始されない。
今日受けないと大事な手駒が一つ減ってしまう。
それにこれから無断で彼女の身分を借りることのせめてもの罪滅ぼしの意味も大きい。
僕には受けないという選択肢はなかった。
会場となった建物の一階では受付に就活生の列ができていた。
しかも学生の大部分が女子だ。
(ファション会社だから男より女性の方に人気があるのだろうな)
最後尾にいた長身の女性の後ろに僕は並んだ。
僕よりも高いっていうことは170センチ以上はあるだろう。
(それにしてもリクルートスーツってエロいよな)
僕はついつい彼女の形の良い尻やスカートから細く伸びる脚に目を引き寄せられてしまう。
リクルートスーツは残酷だと僕は思う。
ほぼ同じデザインであるリクルートスーツは女性をある意味では彼女たちを真っ裸にしてしまうのだ。
太っている人、痩せている人。
背の高い人、低い人。
胸が大きい人、小さい人。
お尻が大きい人、小さい人。
同じ服だからこそ、個々人の容姿の優劣が明確になってしまう。
リクルートスーツが嫌いという女性は結構いるに違いない。
(きっと前の子はリクルートスーツが嫌いじゃなさそうだけどね)
僕がニタニタと観賞に浸っていると急に目の前の女性がクルッと僕の方へと上半身を振り向けた。
最初に振り返った時の表情からして彼女は明らかに怒っていた。
けれども僕の姿を見るなり彼女はとても驚いていた。
僕と目が合った彼女は申し訳なさそうに「ごめんなさい」と言って体の向きを再び前へと戻した。
(きっと後ろに男が立っていると思ったのだろうな)
僕のいやらしい視線を感じ取ったのだろう。
(分かる。分かる。)
僕も女装をするようになってから男性の目線が嫌というほど向けられていた。
しかも今日はリクルートスーツを着ているせいか、やけに男性の視線が多いような気がしていた。
本当の女性なら鼻の下を伸ばす男の顔を見ると嫌な気持ちになるだろうが、むしろ僕は逆だった。
僕で興奮する男を見ているのが嬉しくて楽しい。
だがそうした視線は会場に入ってからは全くなかった。
(やっぱり女性ばっかりだからだよな)
女性が同性同士だと安心するという気持ちが痛いほど良く分かる。
そんな女子だらけの場に僕は堂々と紛れ込んでいる。
しかも身分はれっきとした女子大生だ。
バッグにははるちゃんから盗み取った運転免許証もあるし、はるちゃんと別れた後に彼女の目元にある黒子を真似て、僕はアイライナーで自分の右目下に点を描いた。
良く見比べなければ、運転免許証の顔写真が僕の顔と一致しないことはわからないだろう。
なのでこの場で誰かに怪しまれたところで何も怖いものはない。
宇都宮市立大学法学部3年、持田はるか。
それが今の僕なのだ。
会場全体がとてもいい香りで覆われていた。
(目の保養。目の保養)
僕は就活生達をニヤリと微笑みを浮かべながら観賞し続けた。




