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「そうだ。すっかり忘れてたよ」

駅のホームで電車を待っているとはるちゃんは徐にバッグから手帳を取り出した。

「はるちゃんは大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫だよ。そこに学歴や自己PRとかいろいろ書いてあるから、質問事項の用紙が配られたら見ながら書いてね」

白色のA5サイズの手帳を受け取った。

「はい。わかりました」

僕はすぐに手帳をカバンに仕舞った。

(今すぐにでも見たいけど、そんなマジマジと見るのは可笑しいよな)

自分の願望を押し殺し、ホームに到着した電車に乗った。


大崎までは20分程度で到着した。

はるちゃんは申し訳なさそうに「ありがとう。本当にありがとう」と言って電車から降りた。

でも彼女はお礼などいう必要は全くなかった。

電車が大崎を発車させ、プラットホームから僕に手を振るはるちゃんが見えなくなるとフーと肩を落とした。

そしてまずはジャケットのポケットに指を突っ込んだ。

僕は取り出したカードを確認するとニヤッと微笑んだ。

それは運転免許証だった。

(はるちゃん、可愛い)

免許証はもちろんはるちゃんものもだ。

写真は2年以上前のものらしく今よりも幼く見えた。

(有効期限は半年先しかないのか。でもこれさえあれば銀行口座と携帯は作れる)

そう思うと嬉しくてたまらなかった。

僕は免許証を自分の財布に丁寧に仕舞うと次に手帳を取り出した。

中を開けると綺麗な字がビッシリと何枚にも渡って書かれていた。

(うわー、凄いな)

自分の長所短所、自分の強み、学生時代の印象深い思い出などなど。

ありとあらゆる項目について一つ一つ丁寧の字で書かれていた。

パラパラと捲り、最後のページには生年月日や学歴などパーソナルデータが事細かに記載されていた。

(もうこれを読むだけで本当に自分がはるちゃんだと思っちゃいそうだ)

そう思うともう我慢できなかった。

途中の恵比寿駅で僕は電車を急いで降りた。

そして、早足で女子トイレの個室に忍び込んだ。

(あー、もうダメだ)

下半身の重装備を下ろすとテッシュに向かって気持ちを思いっきり外に出した。

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