83 喜んでいいんでしょうか?
静かに、穏やかに。 それが冬の過ごし方。
年を越して、お袋の体調はだんだん落ち着いてきた。
チャロちゃんの魔力で常に暖房を効かせた部屋の中、お袋はよくソファーに腰かけて編み物をしている。 もちろん、膝かけを使って下半身を冷やさないように気をつけている。
おかげで、俺達の冬物グッズは非常に充実している。 ……ムチャクチャ編むのが早いんだよ。
「うわーーーー」
「ふわぁぁぁぁ~♪」
マールちゃんが玄関のドアを開けると。
頬を刺すような寒さも忘れて、俺達兄妹は揃って感嘆の白い息を吐いた。
周り中が白、白、白。
灰色の雲からはひらひらと雪が降り続け、地面はもちろん、塀の上、木の枝、屋根――あらゆるところを白く飾りつけている。
だけどさすがに昼を過ぎていることもあって、未踏の純白とは程遠い。
玄関から門まではメイドちゃんズのものだろう何往復分かの足跡がついてるし、門の向こうの道は馬車のわだちや無数の足跡で踏み固められているところも多い。 しかし土や石畳はほとんど見えず、その雪の深さがうかがえる。
「はぁ……まだ寒いですね。 しっかり頭にかぶってくださいね」
茶色いコートをしっかり着込んだマールちゃんは、両手でフードを頭にかぶるジェスチャーをしながら、俺達に注意を呼びかけた。
「はーい! ……うぅ、さむ」
「は~い、なの♪」
マフラーをいじって首の隙間をなくしてから、深めに上着のフードをかぶる。
セーレたんも同じようにするが首元が寒そうだったので、マフラーを引っ張ってあごのラインがすっぽり隠れるようにしてあげる。
「よしっと。 これであったかい?」
「うんっ」
少しほっぺの赤いセーレたんは、そう言うと俺の腕に抱き付いて肩を寄せる。
「……こっちのほうが、あったかいの♪」
「そっか」
「うんっ!」
その笑顔には、積もった雪も溶けてしまいそうだなと思った。
――幼児園に近づくと、塀の向こうから甲高く騒がしい声が漏れ聞こえてきた。
「なんだ?」
「おにぃ~、なにかな~?」
「賑やかですね……どうしたんでしょう?」
門に近づくと、入ってすぐのところでヴェオラさんが傘を片手に立っていた。
声が聞こえてくる庭の方をずっと見ていた園長さんだったが、俺達に気づくと白い息を吐きながら挨拶してくれた。
「あら、こんにちはー♪」
「ヴェオラおねーさん、こんにちはー」
「こんにちは~」
「こんにちは……どうされたんですか?」
「ええ、子供たちが雪遊びをしてるんですよー」
すっと指をさすその先を見る、と――。
『せーれーさまだー』
『せいれいさまだー!』
『かわいい~』
『ありがたやー』
舞い落ちる雪の中、両手を胸の前で合わせて雪の上に膝をつき、ぺこぺこと頭を下げたり上げたりしている子供たちの向こうで。
正面以外の周囲を、子供たちが作ったんだろう雪の壁に囲まれたその子は。
純白のふかふかの大きな帽子とロングコートで全身を包み、立ったまま目を閉じて、祈るように胸の前で手を合わせている。
それはまさに、天から雪と共に舞い降りた雪の精霊――。
「……る~」
『ははーーーーーーっ』
――ではなくて、るーちゃんだった。
「……」
「……」
「る~ちゃん、かわいい~♪」
呆然としているマールちゃんと俺。 セーレたんはお喜びだけどさ。
普通「雪遊び」っていったら、雪玉を作って投げ合ったり、雪を盛ったり固めたりして何かを作ったり……そーゆーのをイメージするじゃない?
なのに、お手製の祭壇に奉られて崇められてるって……。
これ、あまりに斬新すぎるだろ!?
「る~ちゃあ~ん」
長靴でぎゅむっと雪を踏みながら、ゆっくり祭壇へ駆けよるセーレたん。
「ちこう、よれ」
「こんにちは~♪」
「……うむ」
どこで覚えたんだか、やたら尊大な口調で妹様を迎え入れて抱き合った。
その途端。
『おおーーーーーーっ!』
『〈みつかい〉さまだー』
『みつかいさまよー』
『ひっくし!』
『ありがたやー』
なんか、信者どもが騒ぎ出した!
たしかにセーレたんも白い上下を着ててペアっぽいけどさ……「御使い」って、個人的に精霊を味方につけた〈精霊使い〉のことだっけ?
「うにゅ? みつかい~?」
セーレたんは首をかしげているが、お姫様は構わず芝居を続ける。
「そう。 このものは、みつかい、なるぞー。
ひかえー、ひかえよー」
『ははーーーーーーっ!!』
『くしゅっ』
セーレたんの片手を取って天に掲げ、感心するほどの長ゼリフを喋るお姫様。 ……なんとなく、水戸の副将軍っぽくなってきてない?
つーかさ、もうそろそろお開きにした方がよくないかな?
子供達はずーっと雪の上に膝をつけてじっとしてるから、くしゃみしたり震えたりしてる子もいるぞ。
うっすらと頭に雪を乗せてる子もいるし。
……よーし、この手でいくか。
「はーーっ、はっはっはっはっはあーー!!」
俺は走りながら祭壇へ駆けよると、精霊さまと御使いさまの手を同時に掴んだ!
「るぅ?」
「おにぃ?」
「はっはっはー! せいれいとみ使いは、このマ王がいただいた!
返してほしくば、わが城についてくるのだー!!」
信者どもの方を向いて、大声で宣言する俺。
こうやって、二人を連れて幼児園の中へダッシュするのだ!
「……さむいからさ、中であそぼうよ。 な?」
そして突然の超展開にぽけーっとしているプリンセシーズに、小さな声でネタばらし。
「……うん。 なかで、あそぶ」
「は~い、おにぃ~」
「よっし。 ……じゃあ、行くぞ?
そりゃーーーーーーーーーっ!!」
三人でうなずき合って、転ばないように気をつけながら走り出す。
「あーーーはっはっはっはっはー!」
「あー、さわられるー♪」
「ひゃぁぁぁぁぁぁ~ん♪」
誘拐されてるハズなのに妙に嬉しそうな感じがするが、ちゃんと演技をしてくれる二人。
でもるーちゃんよ、それだと俺がまるでチカンみたいじゃねーか!?
『お、おいかけるんだー!』
『おーっ!』
『あ、あしが……』
『へっくし!』
やっぱり子供たちも厳しかったようで、脚をがくがくさせながら立ち上がろうとしている。
てか、そんなになるまで無茶しなきゃいいのに……。 これもお姫様のカリスマのなせる業か?
「はいはーい! じゃあみんな、中に入りましょうねー」
「ヴェオラさん。 私が誘導しますから、タオルと温かい飲み物をお願いします」
「あっ、すみませんラリマールさん」
子供たちが動き始め、見守っていた園長さんとマールちゃんも撤収作業に入ってくれる。
「中に入るじょー」
「おー」
「は~い」
騒がしくなってきた後ろを振り返らずに、俺達は幼児園の中へ駆け込んでいった。
――そして、少し時間が経った。
身体を拭いて温かい飲み物をもらってから、ゆっくりと部屋に戻ってきた子供たちの見たものはいかに?
「おにぃぃぃ~、あったかいの~~~♪」
「あった、かいね……♪」
「お、おう……」
部屋の真ん中にあぐらをかいて、左右両側に御使いさまと精霊さまをくっつけてはべらせている魔王の姿、だったんだけど……。
だけど入ってきた子供達は普通に自分のお母さんのところに行ったり、オモチャ箱を漁りに行ったりしている。 どうやら、宗教ごっこは終わったらしい。 もしくは洗脳が解けた?
まあ、それは別にいいんだけどさ――。
「るーちゃん。 なんで……それ、きてるの?」
ところで、雪で湿った上着を脱いだら、るーちゃんが下にワンピースを着てたんですけどー!?
女装、やめたんじゃなかったの?
「る。 ……にあって、ない?」
「い、いや。 にあってるけど、さ」
むしろ、そっちの方が似合うけどさー。
「……えへ♪」
ほんのりと頬をピンク色に染めるお姫様。 まさか、自分の意思で着たの?
あとお願いだから、その表情やめて! ズギューンって来るから。
「おにぃ~。 せーれは? せーれは~?」
「お、おう! かわいいぞー♪」
「あはっ、にゃはははは~……♪」
「る~も、かわいい?」
「え、お、おう」
「る~ちゃん、かわいいよ~」
「えへへへ♪」
なんかもう……いいや! 本人がいいって言ってるんだし。
もっと大きくなれば、意識も変わるでしょう。
……俺がそっちに目覚めなければ、大丈夫だ!!
『男の子はぁはぁ。
……でも、そっちの子はイマイチね』
「……」
「る?」
「おにぃ?」
お姫様はどうやら、ショタお姉さんのタイプではないらしい。
よかったね、るーちゃん。




