79 驚きのサプライズ
「ただいまですー」
「ただいまー」
「ただいまぁ~♪」
草木が徐々に色づき、日が暮れると寒い風が吹くようになってきた。 十一月になり、秋の使節祭ももうすぐだ。
影法師を追いかけながら、チャロちゃんと手を繋いで帰ってきた俺達。
玄関をくぐった途端に全身が暖かい空気に包まれて、ほっとする。
「お帰りなさ~い」
「あ、ただいまー!」
「ままだ~♪」
廊下の向こうから、寝間着の上にゆったりとした白いガウンを羽織ったお袋が出てきて迎えてくれた。
「奥さま、大丈夫なんですか?」
「ええ、今日は大丈夫よ~」
柔らかく微笑むお袋だけど、いつもの七割といった感じ。
最近お袋は風邪気味らしく、部屋で寝ていることが多いのだ。 だから、幼児園の引率もメイドちゃんズのどちらかだけだし、食事も二階の部屋で取っている。
ここのところ、急に寒くなってきたしな……あまり普段は体調を崩さないだけに、一度悪くなると長引く体質なのかもしれない。
かなり心配だ。
「じゃあ……悪いけれど、また戻るわね~」
「うんー」
「はぁい」
俺達の頭を軽くなでると、お袋は手を振りながら階段を上っていった。
「ジャスさま、セーレさま、手を洗ってうがいをしましょうー」
「はーい!」
「は~い!」
階段の向こうに消えていくお袋を見送って、俺達はリビングへ向かった。
――今日も、お袋がいないリビングで夕食をとる。
配膳の終わったメイドちゃんズが席に着いて、マールちゃんが俺に確認を取ってから「では、食べましょうか」と声をかけた。
別に三歳児に許可を取らなくても……と思うんだけど、その辺は律儀なマールちゃん。
ちなみに今日は、アサリのような貝が入った海鮮風パスタとミルクがたっぷりのスープ。 チャロちゃん作である。
「ちゅるちゅるちゅるー。 んまんま」
「はふっ、はひゅ。 おいち~」
「ありがとうございますー♪」
静かに食べている中で一人、ついつい麺をすすってしまうのが日本人。 最初は「すごいですねー」と驚かれたが、今はそんなこともなく。
あまり音を立てると注意されるので、メイドちゃんズの食べ方を参考にして静かに食べる。 うん、スープに絡んでとてもおいしい。
「……まま、だいじょうぶかな」
「ええ、大丈夫ですよ。 ジャス様」
食事のたびに何度口にしたかも忘れたセリフだが、マールちゃんは毎回優しい笑顔で答えてくれる。
「うん」
そして今日もその笑顔に安心して、俺は止まった手をまた動かすのだった。
食事が終わってしばらくして、風呂に入ったその後。
寝る前に本でも読もうとしていた俺達は、お袋の部屋に呼ばれた。 どうしたんだろう?
「ごめんなさいね~、呼びつけちゃって」
メイドちゃんズが一人用のソファーをベッドの横に二つ並べてくれて、俺と妹様が座る。
お袋はベッドに入っていたようだが、今は上半身を起こしている。
「ジャスちゃんとセーレちゃんにも、話しておこうと思ってね~」
俺達の目を見て話しかけてくるお袋。
「奥さま……やっぱり、ですか?」
「……ええ。 今日、お医者様にも診ていただいたから」
セーレたんの後ろに立っているチャロちゃんと、何やら意味深なやり取りを交わす。
な、なんか雰囲気がおかしいぞ……医者って何だよ。 なあ?
「ジャスちゃん、セーレちゃん」
いつもの笑みが消え、お袋は声のトーンを落として口を開いた。
「……」
「……」
無意識に呼吸が止まる俺。 急激にのどが渇いてきて、うまく唾を飲み込めない。
隣のセーレたんもカチカチに固まっている。 後ろのメイドちゃんズも無言だ。
「実はね、ママ――」
「……」
「――――できちゃった♪」
「へ」
「うにゅ?」
……な、なにが?
「まま~、なにができたの~?」
言葉を失って口をパクパクさせている俺に代わって、セーレたんが聞いてくれた。
「赤ちゃんが、できたの~♪」
「……」
「あかちゃ~ん?」
「ええ、できちゃいました~♪」
い、いや。 そんな、どこかのマラソン選手みたいに気軽に言われても……。
まさかとは思うけど、赤いチャンチャンコ……の聞き間違いじゃ、ないよね?
「おめでとうございます、奥様っ!!」
「おめでとうございますー!!」
大きな拍手と共に黄色い声を上げるメイドちゃんズ。
えっと、その……本当に、そのまさかですか? まさかのアレですか!? 還暦じゃなくって?
内心でツッコミを入れたことで、徐々に<フィラスタ語>を思い出してきた俺は恐る恐る声をかける。
「あ……え……あ、ああ、赤ちゃーん?」
「ええ、そうよ~♪」
「ホントにご懐妊?」
「ええ♪」
「びょ、病気じゃ、なくて?」
「ええ、ごめんねジャスちゃん。 心配をかけて」
……ちょっと、整理してみよう。
お袋は長く体調不良だった。 ひょっとすると、悪い病気か!? でも実は妊娠だった。 つまり病気ではない。 すべては杞憂であった。
そ、それどころか――――!
「お、お、ぉぉぉ、おおおおおおーーーーーーーっ!!?」
「うきゃん!? ……おにぃ~?」
妹様は目を丸くしているが、俺の勢いは止まらない。 止まるものですかっ!
「すごっ、すごっ! すっっげーーーーーっ!!」
なんてこったぁーーーっ!? オメデタですと? なんとオメデタいっ! だってオメデタなんだもん!!
うっひょーーーーーーっ♪
「うっひょーーーーーーっ♪」
「うふふふふふっ♪ ありがとう、ジャスちゃん」
思わず立ち上がり、お袋の両手を取ってジャンプジャンプ。
不安がキレイサッパリと消え去ったどころか、逆方向にぶっ飛んだサプライズに俺のテンションは大気圏を突破した!
「うっひょーー!」
「ふにゃ……おにぃ?」
「うっひょーー!」
「よかったですねー、ジャスさま!」
「うっひょーー!」
「ふふふっ、ジャス様ったら……」
セーレたん、チャロちゃん、マールちゃんと、順番に手を取ってぴょんぴょん。
も、もう、なんて言ったらいいのか分からんけど、とにかくうっひょーー!
「うっひょぉおおーーーーーーっ!!」
「……旦那様も、きっと同じ反応をされるでしょうね」
「うふふふふっ、きっとそうね~」
「あははっ、想像できますー♪」
――その日の深夜。
近所に「うっひょーー!」という男の声が響き渡って。
「大丈夫ですかーーー!? 何かあったんですかーーっ!!」
「オリオールさーーーーん!?」
深夜パトロール中の保安隊の方々に、たいへんご迷惑をおかけしました。
俺とセーレたんも飛び起きたよ……。




