7 油断は禁物
最近、絵本を読んでもらえるようになった。
まだ言葉も喋れない、それどころか首さえ据わっていない乳児に読んで聞かせてくれる、というのは正直意外。
しかし、言葉と文字を習う上で非常に助けとなっている。
身体を動かす練習も兼ねてだが、積極的にメイドちゃんズ・お袋・乳母さんにコミュニケーションを図っていた甲斐があったというものだ。
彼女たちの名前を知る機会も得たし――これも愛称っぽいから、本名じゃないかも知れないが。
言葉の理解も急速に進んだ。
前世の俺はあまり勉強が好きではなかったけど、今は「知る」という事が楽しくて仕方がない。
限度を超すと気味悪がられる恐れもあるので、気をつけながら今後も彼女達と積極的にコミュニケーションを取っていこう。
――今日は雨。
外は薄暗いが、魔導具? ……の照明を点けているので、室内は明るい。
カーテンはそのままだが窓は閉められており、少し肌寒い風が入ってくるのを防いでいる。
すきま風はない。
雨が降ると中止になる仕事が多いのか、メイドちゃんズは二人そろって俺達兄妹に付き合ってくれている。
青髪ちゃん――マールちゃんは、俺を。
ネコミミちゃん――チャロちゃんは、セーレたんを。
それぞれ膝の上に抱いて、同じソファーに座っている。
白いソファーはとても柔らかそうだが、俺達はそれ以上の極上品に包まれているので気になりはしない。
ちなみに、読んでくれる本は紙製。
何から作られた紙なのかは不明だが、あまり上質ではなさそうな感じ。少し茶色いし。
だが、ページをめくる手つきは慎重である。
羊皮紙みたいな高価なものではなく、大衆用にも出回っている比較的安価な物かと思われる。
まあ、それでも決して安い物ではないと思うが。
――紙すきを発明して将来大金持ちに、という野望は早くも潰えた。
いや、製法にもよるか?
まあ、今はいいや。
ところで、メイドちゃんズは交代交代で本を読んでくれるのだが、そのチョイスはてんでバラバラである。
「――――そして、めでたく王子様と結婚しました。 おしまい」
マールちゃんが選んでくれたは、幼児向けの典型的な絵本だ。
絵本は、文化や道徳を学ぶ上でも非常に有効な媒体である。
時々シュールなストーリー展開をする物があり、ちょっと理解に苦しむ事があるけど……それは前の世界でも同じか。
全体的にあまり宗教色の強い話は見当たらず、わりと近代的な匂いを感じる、ような気がする。
この国……または、この町に限る可能性も捨て切れないが。
魔法はやはり存在するようだ。
技術としてそれなりに確立され、利用されている模様。
前の世界のニュアンスに近い「魔法」もあるようで、それは〈精霊〉を介するようだ。 ……セーレいたん?
非常に興味をそそられる話題だが、あくまで絵本レベル。
詳しい事はまたいつか、だ。
「あーー、あーーーぅ♪」
女の子向けの内容だったので、物話としては個人的にはちょっとアレだが勉強にはなった。
手を叩く……事はまだできないので、笑顔で彼女を見上げながら感謝と賞賛の意を表してみる。
「ふふふ……ありがとうございます、ジャス様♪」
きゅっと優しく抱きしめて頭を撫でてくれる。
喜んでくれて何よりだ。
――――胸の大きさについては、上方修正しておくべきだな。
「あーーっ! お姉ちゃん、いいなぁ……」
「仕方ないじゃない、セーレ様はお休みになられたもの」
「あーうーー」
「……ほら、ジャス様はまだお聞きになりたいそうよ。
次はチャロの番よ。 読んで差し上げて」
「はーーーいっ♪」
一方、チャロちゃんは完全にノンジャンル。
ランダムとも言う。
いきなり聞いた事のない言葉が―― 本人にも読めなくて詰まる事もあるが、それはご愛嬌―― 飛び出すのもしばしば。
そのため、マールちゃんからダメ出しを受けて中断する事も多く、勉強になるかどうかというと……。
頭の片隅に残った単語がふとした拍子に別の日常会話などで飛び出す事があり、これが意外と役立つ。
雑学的な知識も増えていく。
前に図鑑を読んでくれた時は、本当に勉強になった。
……普通はゼロ歳児に読むような物じゃないしなぁ。
ちなみに、ドラゴンが載ってました。 マジで居るんだ!?
素で俺が感嘆の声を上げて喜んだら、それからもたまに読んでくれるようになった。
だけど、そればかりではない。
油断していると――――。
「さーて、次はこれを読んでみようねー♪♪」
喜々として一冊の本を手に取るチャロちゃん。
「おぉーー?」
じーっと、チャロちゃんを見上げる俺。
見知らぬ本なのか、首を傾げるマールちゃん。
お姫様は「すぅすぅ」と寝息を立てている。 完全に夢の中だ。
「えーーっと、なになに? タイトルは……」
「……『くそみs』」
「ぶふーーっ!!?」
「ちょーーっと待ってぇーーーーーーっ!?!?!?」
「ふぇっ……!?」
――――油断していると、大変な事になる。
てゆーか、この世界にもあるのか!?
しかもマールさんよ、何故知っている……。




