77 叫びすぎだと思うんですよ
初めてづくしで波乱と衝撃に満ちた三日間だったが、とても楽しかった。 確実に、行く前よりも親しくなれた。
普通の服を着ても、るーちゃんはるーちゃんで相変わらずだったし、まだ三歳なんだから俺達との関係が変わるわけもなく。
メイドさん達どうしはアレをきっかけに急激に距離を縮めたようで、雑談で盛り上がるようになっていた。 近い年代の女の子達がキャーキャー騒いでいる様子は、世界が違っても変わらないようだ。
家ではそんな様子の見られないマールちゃんやチャロちゃんも、やっぱり年頃の女の子なのであった。
朝食をいただいて雑談を楽しんだ後。
最後にマールちゃんとツェツィーリエさんが謎の握手を交わし、俺達は皆さんに見送られてるーちゃんの家を後にした。
そして昼前に我が家へ帰ってくると、飛んで行ってしまいそうなくらいにテンションの高いお袋に迎えられた。
「おっかえりなっ、さあああ~~~~~~~~いっ♪♪」
「うわっ!?」
「ひゃう!?」
すりすりすりすりすりすりすりすりすり~~~~~~。
「あああっ、ジャスちゃあ~ん♪ セーレちゃあ~ん♪
寂しかったわぁぁぁ~~~~!」
「わわわわわわわわわわわわ」
「やんやんやんやんやんやん♪」
二人まとめて抱っこされると、三日ぶりの俺達の部屋に連れ込まれ、慣れた感触の絨毯に押し倒されて思いっきりすりすりされた。
「ああああっ、柔らかいわっ! あったかいわぁ~♪」
「うぷっ!? ぱぱぱぱぱぱぱ」
「ひゃんひゃんひゃんひゃあん!」
ほっぺや胸にぎゅーっ! 程度は当たり前。
俺達の片方を両手で全身を隅々までなで回している間も、もう片方は太ももに挟んで決して逃がさない。
髪留めが外れて飛んでいこうが、自分のブラウスやスカートがどれだけはだけようが、めくり上がろうが一切気にしない!
「むぐ、むむむーーーっ!?」
「きゃははははああ~~ん♪」
いやいや、確かに生まれて初めてのお泊まりだったし、寂しかったのは分かるよ?
俺もちょっと寂しかったしさ、帰ってきて嬉しいんだけどさ?
このスキンシップは、俺にとっては毒すぎるぅぅぅぅううううううーーーーーっっ!!?
「ご、ごゆっくりー……」
「あ、あははは……」
ちょ、ちょっと!? マールちゃん、チャロちゃん!
ドア閉めないでぇ! 助けてーーーっ!?
**********
――そして次の日。
夏のピークを過ぎたとはいってもまだ暑いからと昼前に帰ってきたのに、気がついたら夜だった。
出勤していたアナさんが作っておいてくれていた夕飯を食べると、今度は寝室に連れ込まれて以下同文。 ……もちろん、服は着てたよ?
お泊まりの疲れにそれがトドメになって、結局俺達が起きたのは昼前だった。
今日は精霊の日なので、幼児園はない。
「それでね~、調べてみたのだけれど――」
軽く食事をして、俺達の部屋に戻ってから。
最近、念願の「見習い」が取れたチャロちゃんと並んで座り、向かい合う俺に話を切り出すお袋。
ちなみにセーレたんは、お袋に膝枕されて「ふにゅ~」と甘え中。
「やっぱり、人間族や〈獣人族〉――えっと、普通の人には使えないものなのよ」
できるだけかみ砕いて話してくれるお袋。
その話題は『俺の触手について』。 俺も非常に気になっていた事だ。
……やたらお袋の肌がツヤツヤしていることや、セーレたんをなでる手つきが妙に艶めかしいことには目をつぶろう。
むしろ、積極的に気付かない方向でヨロシク。
「うーん」
右の手の平から、にょろりーんと触手を出して見せる。
それを見て、チャロちゃんが興味深げにちょっかいを出してくる。
耳をぴくぴく動かし、しっぽも大きく揺れているのを見ると、だんだん猫じゃらしで遊んでいるような気分になってくる。
「だけど、その『もやもや』がオドだというのは、間違いないと思うわ」
「なるほどー」
「ふにゃっ、はわっ」
……マジで猫化してない?
「それでね、ちょっと確かめたいことがあるから、ジャスちゃんにお願いしたいの」
「うんっ」
「ひゃっ、うにゃっ」
「……いいかしら、チャロちゃん?」
「ふひゃ!? ……あ、はいっ!」
そうして、実験? が始まった。
とはいっても、既に俺自身が確かめたことが大半なんだけど。 まあ一応ね。
よく見えるらしいチャロちゃんが観察係になって、進められていく。
まずは、人によってハッキリ見えたり見えなかったりする、ということの確認。
ひょっとして……今まで誤魔化せたのって、このせい?
「私でも、かろうじて見える程度だから……かなりの〈魔力量〉がないと見えないようね~」
「はい、たぶん『〈魔術師〉四級』以上じゃないと見えないと思います……」
どうも、見えるためのハードルはそこそこ高いらしい。
四級って何よ? とは思ったが、真剣に話し合う二人に割り込めずにその場では流された。
その後は、触手を伸び縮みさせたり、硬さを変えたり、物を持ち上げたり――といったことをやって見せた。
そして最後に、触手自体に感覚はないことと、俺の身体から切り離すと徐々に空気中に拡散して消えてしまうことを確認。
で、結果としては。
「――やっぱり、オドね~。
ジャスちゃん、これからも使って大丈夫だけれど、切り離してオドをなくしちゃうと疲れてしまうから気をつけてね~。
失っても量は少しずつ元に戻るけれど、一度にたくさん失うと倒れちゃうこともあるからね~」
「はーい」
おおぅ、それは気をつけないと。
これからは、マメに空気中のマナを取り込んどこうかなー?
「それと……」
「ん?」
「そのオドを操れる力は、人よりも精霊様に近いんじゃないかと思うの」
「えっ……せいれい?」
「せ、精霊さまですかっ!?」
おいおい。 俺、マジで人外ですか?
「ええ。 精霊様の身体はオドで出来ているらしいから、精霊様にとってオドを動かすことは文字通り、手足を動かすのと同じだと思うのよ」
「あー」
「なるほどー」
そういや、肉体がないって本に書いてたっけ。 触手がその代わり?
俺の中で「精霊=クリーチャー」っていう図式ができ始めたんだけど……。
「だから、精霊様に直接お話を聞くことができたら、もっと詳しいことが分かるかも知れないわね~」
「んー」
「精霊さまに、直接ですかぁ」
チャロちゃんと二人でなるほどーと、何度もうなずく。 でも、直接聞けんのかな……無理じゃないの?
と思っていると、更にお袋から言葉が紡がれる。
「だけど、だからこそ、逆に分からないかもしれないけれどね~。
例えば……チャロちゃんにとって、しっぽを動かすのはごく自然なことでしょうけど、私達には分からない感覚ですもの」
「あー」
「うーん、そうですねー」
一通りの話が終わったようで、しーんと静まりかえってしまった。
まあ、これで大体分かったし……あんまり大っぴらにするのはマズそうだけど、これで安心だな。
と、俺が脳内でまとめに入っていると、お袋が一転して明るい声で話しかけてきた。
「――さあ、難しいお話はこれくらいにしてぇ~。
ジャスちゃ~ん、そろそろ……」
「……ああっ!?」
「え?」
な、なんだ?
チャロちゃんはすぐ分かったみたいで、急に目が輝き出しましたよ?
「ジャスちゃ~ん♪」
「ジャスさまーん♪」
「え……な、なに?」
「また、あれで私を包んで欲しいなぁ~♪」
「わたしも、ぷるんぷるんしてほしいですー!」
え、え、え。
またですかーーーーーーっ!!
――はい。 また夜まで、それで潰れました。
オトナの女の人がスライムに首まで浸かって「ほぇー」としている図は、なかなかシュールです。
「そ、そんな、私が出かけている間に、そんな羨ましい……ぐすっ」
お休みで出かけていたマールちゃん。 帰ってきて肌がツヤツヤしてる二人+妹様を見て、マジで泣きかけ。
いちばん気に入ってるのってマールちゃんだしなぁ……。 スライムは全く見えないらしいけど。
結局、マールちゃんには寝る直前までお付き合いすることになりました。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~ん♪」
やたら皆さんの肌がツヤツヤしてるのって、本当にオドの効果なんでしょうか?




