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そだ☆シス  作者: Mie
さらに園児編
81/744

70 群雄、相集う

挿絵(By みてみん)





 ぽかぽか陽気を通り過ぎ、汗ばむような日差しが続くこの頃。

 お袋は用事があるそうで、今日はマールちゃん一人に引率されてやってきた。


「こんにちは、今日はまた暑いですね」

「ヴェオラさん、こんちゃー!」

「んちゃ~♪」


「はーい! こんにちはー♪」


 いつも明るく挨拶してくれる園長さん、手を振ってくれている服は半袖だ。

 ほっそりとしたその腕は、とても子供二人を同時に抱えられるようには見えない。


「今日は、たくさんいらしてるんですね……」


「はい、とても珍しいですよー」


 手続きを待っている間「まだかな、まだかなー♪」と、セーレたんと一緒に首を右へ左へ傾げてみる。 新ネタだ。

 それを見た園長さんが、同じように首を動かしながらニコニコと笑っている。


「ジャス君、セーレちゃん、またねー!」


 園長さんに手を振りながら廊下を歩き、いつもの部屋の中へ。




「うへー」


 入った瞬間に分かるくらいの混み具合。 十組くらいはいるだろう。


 お母さんたちは二~四人くらいのグループに分かれ、子供たちの世話に回っている人も――あ、白銀メイドさんとお姫様を発見。 相変わらず浮いてるなー。

 アナさんが側でメイドさんと話をしているが、近づこうとしている子達はことごとく「(あか)の魔眼」で吹き飛ばされている。 唯一エミーちゃんだけが、対決するように正面から見つめ合っている。

 いや! あの普通君がエミーちゃんの背後で、台風に逆らうように身体を倒した体勢で何とか踏ん張っているぞ! けっこうやるなぁ。

 ……ただ近付くだけで非常に大層なようだが、実際に半径二メートルに入ってしまった子供が、壁にぶつかったように跳ね返されてるし。 ○Tフィールドかよ。


 そして、部屋の隅っこの方で退屈そうにわんこ座りをしているわんこも発見。

 つーか俺、まだあの子の名前聞いてなかったよ! 普通君の名前さえもう聞いて……あいつの名前、なんだったっけ?


 こうして見てみると、今日は全員集合してるな。

 これはいい。 せっかくなので、全員顔合わせといきますかー。



「セーレたん、おひめ……るーちゃんとこに行っといてー」


「はーい♪」


 あっさりと俺の腕から離れて歩いていく妹様。 ちょっと寂しいような気もするが、仲のいい友達ができたのはいい事だ。

 するりと結界を通り抜けていくハニーを見ながら、俺はうなずいていた。



『よおねーちゃーん、ちゃーシバキに行かへんかー』


 何故か関西弁でわんこに近付いて声をかける俺。


「……?」


 俺に気付いて顔を向けてくれるわんこちゃん。 返事は例によって、しっぽでふぁさりと。

 首を傾げているが、まあ意味は分からなくて当然だ。 だって俺、日本語で喋ってたし。

 こっちの言葉に、関西弁なんてないのですよ。

 ……それにしても、なんかこの前よりも雰囲気が柔らかくなっているような気がする。


「おげんきぃ~?」


 取り敢えず、脚を広げてしゃがみ込み両手を前に付くというクイーン・オブ・わんこな彼女に、右手を差し出しながら話しかけてみる。


「――わん」


 ぽん。

 俺の手の上に置かれる彼女の左手。 つまりは、お手……じゃない、おかわりか。


「……」


 彼女の顔を見る。 やっぱり無表情だが、その目はパッチリと開いている。 その黒い瞳に映る俺の顔。

 背中の向こうでは、大きなしっぽが左右に揺れている。


「わん」


「ぉ。 ……ぉぉぉぉおおお!」


 なにこの子っ!? 相変わらず、むっちゃカワイイんですけどっ!!


「よーしよしよしよし♪」


 ついつい、○ツゴロウさんモードが発動してしまう俺。 右手はそのままに、左手で頭をなでなでする。


「ん」


 目を細めるわん子。 耳がへろーんと下がっていく。

 やべぇ! 「ナデポ」なんて言葉があるが、なでてる方が逆に「ポ」とか新しすぎる!

 まるで子犬……じゃないな。 彼女の方が俺より背は高いから、むっちゃ気の優しい大型犬みたいだ。



「そういえば、名前なんてーの?」


 しかし、本来の目的を忘れてはならぬ。 名前を聞いて全員集合させるのだ。


「ぼく、ジャスってゆーの。 キミは?」


 なで続けていると答えてくれなさそうなので、一旦やめて彼女の手をきゅっと握りながら聞いてみる。


「…………くりむひると。」


「クリム、ヒルト……くりむ?」


 えらく珍しい名前だなー。


「わん」


「ぼく、ジャス」


「じゃす」


「うん! よろしく、くりむたん!」


「ん」


 おおっ! 難航するかと思ったが、一発で名前覚えてくれた! ……何気に初めてじゃない? いつもボケ入るし。

 心なしか、しっぽの振れ方が大きくなったような気がするわん子ちゃんの頭をまたなでながら、俺は誘いの言葉をかける。


「くりむたん、こっち来てくれるー?」


「……?」


 数度まばたきをするわん子ちゃん。 だけど立ち上がって握った手を軽く引っ張ってみると、彼女もすんなりと立ち上がる。

 やっぱり背が高いなー。 間違いなくエミーちゃんよりも高いぞ。

 俺の顔をじーっと見つめている彼女だが、嫌そうな気配はない。 ……このまま連れて行くか。



「じゃ、こっち来てー」


 手を引いて歩き始めると、とことこ付いてきた。 なんか散歩みたいだ。 和むわー。

 ほわーんとした気持ちになって、お姫様のもとに()せ参じる。

 目指す方向に目を向けていると、タイマンだったお姫様とエミーちゃんの二人にセーレたんが加わり、手を繋いで輪になる例のアレが始まっていた。

 すっかり恒例になってしまったな……。 もしくは交霊? イボじゃないのよー。

 で、アイツはいつまで「非常口」をやってるんだろう? すれ違いざまに軽くチョップして目を覚ましてやる。


「おきろー」


「もろ?」


「……」


「べこっ!?」


 なぜか、くりむちゃんも俺に続いて一撃入れた。 しかも、かなり容赦なく。

 前傾姿勢から叩き潰された普通君が床の上で痙攣(けいれん)しているが……大丈夫か?



「はいはーい、ちゅーもーく」


 遠足先で話を始める担任のように手を叩きながら声をかけて、交霊会を中断させる。

 そして輪を広げさせて、わん子ちゃんをエミーたんと妹様の間に座らせる。


「る?」


「……?」


 視線を交差させるお姫様とわん子ちゃん。 お互いに、きょとーんとしている。

 たぶん大丈夫だろうとは思っていたが、やっぱりこの子も魔眼の影響を受けないようだ。

 なんか、受け流すというか透過しているような感じ。



「おーい、いきてるかー?」


「※〒●×ふじこ~」


 まだ起き上がらないので、普通君のところへ戻って声をかける。

 相変わらず面白いことを言ってるが、なかなか起き上がらないので背中を突っついてみた。

 脳天、思いっきりイったからなぁ……。


「おーい、ふじこー」


「ぅぇぃ、ぅぇぃ」


 突っつくと、ピクリ、ピクリと反応する。

 今度は、背骨に沿って指でつつつーーっとなぞってみる。


「おーきーろー」


「ぅひーーーーー」


 ビクビクッとはするものの、まだ起きる気配はない。


「ほれーおきろー、こちょこちょこちょ」


「あぴょっ!? ひょひょひょひょ~っ!?」


「ほれほれー」


「おにぃ~?」


「はっ!?」


 しまった! ついつい俺のくすぐり癖がっ。 妹様のツッコミに感謝。

 思い起こせばコイツ、途中からは起きようとしてたのに俺が妨害してた!


「いやぁ、めんごめんごー」


 普通君の上からどいて立ち上がると、コイツの身体を転がして仰向けにし、両手を掴んで引っ張り起こした。


「はらほろ~」


 なんか、とろーんとした表情をしているが、そのまま立ち上がらせてお姫様とエミーちゃんの間に座らせる。 そして俺は妹様とわん子ちゃんの間に。

 すると、みんなの視線が俺に集まる。



「んじゃめな~」


 ……いや、一人だけまだ異世界の方を向いていた。 具体的には、チャド共和国方面。


「エミーたん」


 真っ直ぐに伸ばした腕を胸の前に曲げ、再び前に伸ばすジェスチャー。


「そいー!」


「もぶ!?」


 こくりとうなずいたエミーちゃんからイイ感じの逆水平チョップが放たれ、みぞおちにクリーンヒット。 いや、だからもう少し手加減してあげてってばー。

 重心に近い位置への衝撃に後ろへ倒れることもできず、ムンクのような表情で震えるモブ君……じゃなかった、普通君。

 一応、目の焦点は戻った。



「よーし! みんな、じぶんの名前をゆーじょー。

 まず、ぼくはジャスだー!」


 初めて合わせる顔もいるはず、ということで自己紹介から入ることにする。


「はい、ジャスー!」


「おにぃ~♪」「じゃすー」「……じゃ、す」「じゃす」「がふ……」


 両手を広げて、みんなに唱和を促す。

 さすがに一斉にとはいかなかったが、口々に俺の名前を言ってくれる一同。 なんかこれ、ちょっと気分がいいゾ♪ 


「はい、ちゅぎー」


「は~い♪」


 時計回りにセーレたんの肩を叩くと、おててを挙げて元気よくお返事するセーレたん。 金の髪がひらりと揺れる。



「せーれ~♪」


『せーれ!』「へぶ」


 もう片手も挙げて、バンザイしながら名前を言う妹様。

 二度目の唱和でタイミングもバッチリ。 盛り上がってきましたよー! ……微妙にコンパみたいだけど。


「る~♪」


「……る~」


 俺を真似て、隣のるーちゃんの肩を叩くセーレたん。 お姫様は正面を向いたまま身じろぎ一つせず、目線だけをゆっくりと動かして一同を見渡す。

 あ、普通君の背筋がピーンと伸びた。 その勢いで一瞬、アイツの身体が宙に浮いたよう見えた。


「る~」


『るー!!』


 おもむろに両手を挙げて、呟くように喋る。

 しかし、その声は周り騒音などモノともせずにハッキリと聞こえ、それに続く俺達民衆も一糸乱れず御名(みな)を唱える。

 全員で万歳である!


「る~」

『るー!!』


「るー」

『るーー!!』


「るー!」

『るーーーーー!!』


 だんだんお姫様の長い耳が立ち上がり、目が生き生きと輝き出す。 ちょっと頬も紅潮してきた? みんなのテンションもうなぎ登りだ!

 でもねー。


「る……」

「もういいから」


 このままいくと、みんなが洗脳されて怪しい新興宗教が生まれそうだったので、何とか中断させる。

 ほら、周りの人達が目を丸くして見て……ないな。 既にみんな慣れた!?


「――流石は、るー様」


 うん、あなたはきっとそう言うと思ったよ、メイドさん。


「……るぅ」


 表情は変わらないが、しょんぼりした声で両手を下ろすお姫様。

 ほぼ垂直まで立っていた耳も、再びへろ~んと垂れてしまった。 な、なんか、凄い罪悪感が……。



「……るっ」


「っ!?」


 だけどすぐに落ち気を取り直したお姫様は、次の番である普通君の方を見る。 触れてもいないのに、普通君は社長に肩を叩かれた新入社員のようにシャキッとなった。

 ……なあお姫様、キミも実は触手とか持ってない? 見えないだけでさ。


「にっ、ににににに……」


 美幼女アイドル達の視線を一心に受け、ガチガチになっている一般人。 まあ、その気持ちはよく分かる。


「にににににに、にごー」


『にににににごー!』


「ちがっ!?」


『にににににごー!』


 非常に言いにくいのも関わらず、見事なハーモニーを見せる俺達。 しかも二度。

 あれ? でもコイツ、そんな名前だったっけ? と一瞬思ったが……そんな細かい事はどうでも良いだろう。

 とっとと次へ行ってもらいたい。


「はい、にににににごー君、つぎー」


「ぅぅぅぅ……うん」


 見事なハモり具合に感動でもしたのだろう。 先を促す俺を潤んだ藍色の目で少し見た後、おもむろにエミーちゃんの肩を叩く。


「あい! えみー!!」


『えみー!!』「ぅぅ」


 腕を振り上げ、赤茶色の髪を振り乱しながら思いっきり力強い声で叫ぶエミーちゃん。 うん、元気でいいんだけど……ちょっとプロレスラーっぽいね?

 続いてみんなも大きな声で唱和するが、涙目のにににににごー君だけが――って、言いにくいなオイ! 「に」が五つだから、略して「にご君」とても呼ぶか?

 そのにご君だけが言おうとしない。


「えみーっ!!」


『えみーっ!!』「え゛べっ」


 それを見たエミーちゃんが、再び逆水平を入れながら繰り返すとようやく彼も加わった。 今度は少し手加減したかな?

 もはやこの二人、俺にはジァ○アンとス○ネ夫に見えて仕方がない。


「うん♪ つぎー!」


「ん」


 満足したらしいエミーちゃん。 チョップで乱れた髪を直しながら、いよいよ最後の使徒であるわん子ちゃんの肩を叩く。 ……こういう、何気ない仕草は女の子っぽいんだけどなぁ。

 くりむちゃんは一瞬だけ黒い耳としっぽが上に跳ねたが、おおむね緊張した様子は見られない。

 大声を何度も出したおかげで、緊張はほぐれたらしい。


「……くりむ」


『くりむー!』


「……ん♪」


 最後の唱和に、一際張り切って声を揃える俺達。

 大きなしっぽをゆらりと左右に振っているわん子ちゃんは、表情には出ないがとても嬉しそうだ。



「うっし! みんな、よろしくなー♪」


「は~い♪」

「るー」

「うぅ……」

「あーい!」

「ん」


 それぞれの言葉で返事をするみんな。

 うむ! 少々キャラは濃いが、うまくやっていけそうだ!




「るー」


 と思っていたその時、お姫様がいきなり両隣の手を握った。 それに連鎖して、次々と手を繋いでいく一同。

 おいおい、まさか――。



「かんてらー」


『かんてらー』



 ……俺、うまくやっていけるんだろうか?




**********



「この子達……何をしているのか、時々意味不明なのよね」


「るー様、素晴らしいです」


「ああっ、ジャス様……」


「……」



 恍惚の表情を浮かべる色違いのメイド達に挟まれ、眉間に寄ったしわを揉みほぐすエリアナであった。





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