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そだ☆シス  作者: Mie
さらに園児編
80/744

69 取れ取れ、ピッチピッチ

挿絵(By みてみん)





 人間万事塞翁(さいおう)が馬、とでも言うべきか。


 触手はバレちゃったけど、思っていたような悪い方向には行かず「すごいねー!」で済んでしまった。

 触手の性能については三歳児としてあまりにオーバースペック過ぎだし、かなり控えめに話しておいたけどな。

 それと、セーレたんとのプレイも内緒である。 言えるかよ!

 ……スライムプレイも、とても人様には言えないが。


 聞いたところ、自分の体内にある魔力の素――すなわち『オド』を動かすというのは、「自分で自分を抱えて持ち上げる」くらいに難しい、と言われているらしい。 つまり不可能だと。

 ……よくできたよね、俺?

 でも、生まれて間もないあの時期に必死で練習していなければ、きっと無理だっただろう。

 前から考えてはいたけど、これは俺の特技というか切り札的なものとして今後も鍛えていこうと思う。




 ――そして、翌週の幼児園。

 ようやく晴れた空に呼応するかのように、エミーちゃんが復活してきた。


「えみちゃ~ん♪」

「あーい」


 再会のハグを交わす二人。 前は少しぽっちゃり気味だったけど、やせたね……。

 今日はマールちゃんが一緒に絨毯に座って、二人に絵本を読んでいる。 妙にテンションが高いように見えるが、その理由は肌のツヤからお察しいただこう。

 ちなみにアナさんも、マールちゃんの横に並んで座っている。 さっきからチラチラと横目で彼女の顔を見ていますけど、気になりますか?



 ……ところで、俺はどうしよう?

 一緒に絵本に付き合ってもいいんだけど、せっかく幼児園に来てるんだし、できれば人見知りなセーレたんに新しい友達を増やしてあげたい。

 今日、来ている子は……あと三人。 お姫様も普通君もいない。

 その内二人は、いつものバイトのお姉ちゃんが積み木を使って遊んであげている。

 だったら、オモチャ箱のところに一人でいるあの女の子がいいかな?


 ちなみに、俺が女の子ばっかり目をつけているように見えるかもしれないが……それは半分濡れ(ぎぬ)だ。

 いや、怖いんだって男の子は!

 やんちゃな女の子もいるけど、男の場合は更に容赦がないし身体も俺より大きい子が多い。 話もなかなか通じないし。

 それに、セーレたんと友達になってくれそうな子を探すのが目的だし、だったら男はむしろ避けて当然! ……普通君は別にいいや。 無害そうだし。



「ねーねーかのじょー」


 最初の第一声はたいがい通じずに首をかしげられるので、最近はけっこう適当な声のかけ方をしている。 悩むだけムダムダ。


「――?」


 オモチャ箱の前に座ったまま、ゆっくりと振り返る女の子。

 ナチュラル系の黒髪のショートはクセがなく、横からぴょんと上向きに飛び出ている大きな三角の耳が目立つ。 毛がふさふさしてて、触りたくなるな。

 眠そう、もしくはだるそうな表情をしているけど、シャキッとしていればつり目かもしれないその瞳の色は黒い。 そんな表情をしていても、顔のパーツは整っているのがよく分かる。 大きくなったら美人になりそう。

 服はピンクのパーカーとズボンで、靴下は白。 まあ普通だ。

 でも、おしりの上から出ている大きなしっぽがすごく目を引く。 俺の方に向いているから特に。

 チャロちゃんのとは違って、整った毛並みはとても長くてツヤがあり、まるで大型犬のようである。 擬音で表すと「ふぁさっ」。 今は絨毯の上に横たわっているが、振っているところを見てみたい。

 そういえば、耳も大型犬っぽいね。



「――?」


 俺がじーっと……特に耳としっぽを見ていると、女の子は首をかしげた。

 おっと、声をかけねば。


「ねー、あそぼー」


「……」


「あ、あそ、ぼ?」


「……」


「えっと」


「……」


 ノーリアクション。

 俺と合わせた目線はずっとそのままだから、全く関心がないということはないと思う。

 一人でいたことから先に察するべきだったかもしれないけど、もしかして無口系の子?



「ちゅ、ちゅげざー、しよう、ぜ?」


「……」


 あ、しっぽがちょっと動いた。 ふぁさっ、って!


「うお……あ、あり?」


 と思ったら、立ち上がってオモチャ箱を漁りだした。

 お、俺の存在は無視ですか……?


「……」


「お、おーのー」


 両膝と両手を床についてちょっぴり切ない気分になっていると、不意に頭上に影が差した。

 そして、視界の上の隅に緑色の丸い物体が。


「……」


「――え?」


 顔を上げると、正面を向いて膝を床につき俺をじーっと見つめるわんこちゃんが!

 その膝元には緑色のボールがひとつ。 と、いうことは。


「おれ……おっと。 ぼ、ぼくとあそんで、くれるの?」


「……」


 こくり、と(うなず)く。

 見つめる瞳はさっきと違って、しっかりと開いている。 黒曜石のような黒に、俺の情けない顔が映る。


「お、おおおお……」


「……」


 もう一度無言で頷く彼女の顔は無表情に見えるけど、俺には聞こえるぜ!


『ほら、顔を上げて。 そんな顔をしないで、私と遊びましょうよ――ねっ?』


 そんな、彼女の慈愛に満ちた心の声がっ!!



「ぉ、ぉおおおおーーー!

 ありがたやー、ありがたやーー!!」


「っ!」


 思わず彼女の両手を取り、上下にシェイクする俺。 な、なんて心優しいわんこ様なんだ!

 感激する俺に目を丸くする彼女。 耳がぴくんと動き、しっぽが一度波打つ。


「よ、よろこんでお相手ちゅかまちゅりまちゅ……ぴちゅ」


「……?」


 し、舌がうまく回らんかった……。

 握った手を放し、恥ずかしさ紛れにボールを掴む。

 すると彼女の背中の向こうで、絨毯の上のしっぽが左右に動き始める。



「で、ではまいりましょうぞー」


「……」


 再び彼女の片手を取り、まるでダンスでもするかのように部屋の中央へ誘――あれ?

 俺の手をスルーされて、すっと部屋の中央を指差しておられますが?

 しっぽは踊るように振られ続けていて、顔を見てみると耳もぴくぴくと上下に動いている。


「えっと……ひょっとして、なげろと?」


「……」


 こくりと。


「よ、よーし! パパ、がんばっちゃうぞー♪

 そりゃー!」


「――っ!!」


 わんこ様の期待に応えんと、部屋の中央めがけて振り返りざまにトルネード投法……と同時に、視界の端から目の前をよぎる黒い影!

 四つん這いの影は、軽く放物線を描いて落ちてゆく緑色に追いつき……。

 ダイビングキャッチ!


「ぬおっ!?」


 ホームスティールの様に、両腕を前に伸ばして絨毯の上を滑る女の子。

 その手の中にはしっかりとボールが!


「は、速ぇー」


 つーか、速いってもんじゃなかったよ!?

 斜め上じゃなくほぼ真正面に放ったのに、ノーバウンドで追いついちゃったよ!


「……」


 しばらくそのままの体勢で寝そべる彼女。

 しかし、しっぽがぴくりと動くと身体を起こし、ゆっくりと戻ってきた。

 そしてボールを俺に手渡す。 気のせいか、俺を見る瞳がキラキラしているように見える。


「す、すごいじょー」


「……♪」


 ついいつものクセで頭をなでなでしてしまう。

 わんこちゃんは嬉しそうにしっぽを振り、耳も上下に動かす。 表情は変わらないものの、瞳もキラキラしているような……。


「か、かわいい……」


 あのお姫様と同じように、無口・無表情の不思議ちゃんかと思ってたが……。

 最初が取っつきにくいだけで、とっても素直だった!



「……」


「お、おう」


 再びボールを受け取る。

 相変わらずのだんまりだけど、耳としっぽを見れば何を望んでいるかは一目瞭然だ。


「よーし、もういっちょー♪」


「……ん」


「そりゃーーーー!」


「っ!」



 それから何度も、俺はボールを投げ続けた。

 結局わんこちゃんは、一度もボールを床につけることなく完璧にキャッチ。



 ……後に伝説となる、名野手の出会いであった。


 この世界に野球があるのかは知らんけど。





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