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そだ☆シス  作者: Mie
園児編
74/744

65 そーれ、それそれ

挿絵(By みてみん)





 六月に入り、少し汗ばむような陽気の日も出てきた、この頃。

 最近の幼児園へはずっと裏道……というか大通りを通らずに二等区内から通っているんだが、人通りが少し増えてきていた。 元々が少ないから混雑とは程遠いけど。

 で、なんでだろうと聞いてみたら「春の使節祭」とやらが始まったらしい。 秋は聞いたことあったけど、春にもあるんだそうで。


「へー、そうなんだ」


「ええ~。 他の国から、たくさんの人達が来てね――」


 日が長くなり夕方の気配が遠くなってきた帰り道、俺は手を繋いでいたお袋からいろんな話を聞いていた。




 ――そして、次の精霊の日。

 今日はアナさん親()も含めた全員で、大通りにある使節祭の露店を見に行くことになった。

 本来の使節祭のメインは初日にある使節団のパレードらしいが、使節団がいつ到着するかは直前まで分からないらしく、露店などが増えて本格的に賑わうのはパレードが終わってかららしい。

 また、最も賑わうのは王都の真ん中にある「中央通り」だそうだが、そこの人混みはトンデモなく凄まじいということで、俺達の安全のためにも近場にしようという事になった。

 俺が見たあの大通りよりも大きな通りがあるというのも驚きだが、そんな通りが人で一杯になるというのにはもっと驚きだ。 ……まさか、一〇〇万人とか来るんじゃないよね?


「ごめんなさい、あたしだけで……」


「気にしないでね~、エルネちゃん」


 申し訳なさそうに、お袋に頭を下げるエルネちゃん。

 元々は勤務日だからと、幼児園辺りじゃなくてこの家に来てくれる事になっていたアナさん達だったが。

 だがエミーちゃんがちょっと風邪気味らしく、来たのは彼女だけだった。


 ちなみに本日のファッションは、ピンクに近い赤のワンピース……いや、チュニックっていうのか? 肩からは黒いポシェットを掛けている。

 半袖のトップはゆったりしていて肩が出ており、アンダーはなんと超ミニ。

 それを隠すため、黒のTシャツの長袖部分を腰で縛ってオーバースカートのように巻いているが……それでも十分に膝上までの長さしかない上に、シャツの胴の部分を左脚の少し後ろ側に当てているので、右脚の前部分はスリットが入ったように太ももがチラチラと覗いている。

 しかも、今回はタイツではなく黒の短いソックスなので、完全な生脚。 そしてパンプスという出で立ち。

 いつもながら、ファッションへのこだわりっぷりが半端ではない。


 なお、俺達兄妹はいつもの幼児園ルック――俺は青いTシャツに黒いズボン、セーレたんはピンクのフリル付きワンピース。

 お袋もよく着ている白いワンピースで、メイドちゃんズにいたっては普通にメイド服である。


「え、エルネちゃん、大胆ね……」


「カワイイけど、わたしも着れないかな……」


 メイドちゃんズも目を丸くして驚いている。


「うん、かわいいけど……なぁ」


 俺にしがみ付いているセーレたんは特にコメントはないみたいだが、いくら小学生な年齢でもちょっと凄いと思う。

 家の門の前にいる俺達だが、実際道を通りかかった人達もエルネちゃんの姿をチラチラ見ている。


「ほ、ホント? よかったぁ~」


 そんな人の目など全く気にせず、カワイイの連呼にはにかんでいるエルネちゃん。

 末恐ろしい娘である。




 二等区の端まで歩き、大通りに出た。

 相変わらずの人、人、人。 確かに、前に見た時よりも混み合っていて賑やかになっているような気がするが、よく分からない。

 まあ、この辺りは日用品や食材とかを売ってる店が多いみたいだし、あまり変わらないのは当然かも。

 ガヤガヤの「ガ」と「ヤ」の区別さえつかないような喧噪。

 売り子さんの高い声やダミ声、そして必死に値切ろうと交渉しているお客の声。 木や金属らしい何かを叩いて、その音で客の目を引こうとしている店の人もいる。 「使節祭セールだよー!」なんて、ちゃっかり便乗しているかけ声も多い。 ハッキリとは聞こえないけど、何か演奏しているっぽい音もかすかに。

 更には、いろんな料理や食材の匂いがゴチャゴチャになって漂っていて、美味しそうなんだかフルーティなんだか生臭いんだか、よく分からい事になっている。

 まあ、俺は背が低いので音や声の大半は頭の上を抜けていくから、多少はマシか。 ……その代わり、石畳を歩く無数の靴音や砂ボコリ、そして人混みでほとんど何も見えないのがうっとうしいけど。


 俺達は何とか人の流れに乗って、幼児園とは逆の方へ進む。 二列になって先頭は俺とお袋、真ん中にセーレたんとチャロちゃん、最後尾にマールちゃんとエルネちゃん。

 人混みを避けながらなるべく端に寄り、左側にズラリと並ぶ商店の売り物を見ながら歩く。 見たことのある物、ない物、それが何なのか見当もつかない物……お袋にいろいろ聞きながら歩く。

 ぶつ切りにされた、明らかにそれと分かる動物の手足とか、豚っぽい頭を見つけたときにはギョッとしたが。

 なんか目が合ったように感じて目を逸らすと、お袋がくすくす笑っていた。 むぅ。


「うきゃあああっ!?」

「うおっ!?」


 いきなり、後ろから何かがぶつかってきた! ……いや、この声と感触を俺が忘れるハズがない。

 ぶつかってすぐ左側に回ってきた、この柔らかくて温かい感触は。


「おおおおおにぃひ~っ……!」


「おー、よしよしー」


 もちろん妹様である。

 どうやら、俺の見た方向を同じように見て、例のお頭と目が合ってしまったらしい。

 両手が塞がって、なでなでができないので、肩に額をくっつけて震えているセーレたんの頭に、俺も頭を擦り付けてみる。


「すりすりすりー」


「ふわっ! ……はふぅ」


「ぐりぐりぐりー」


「うやっ! はう~」


「こつーん、こつーん」


「にゃっ! ひゃん♪ ……すり~っ!」


「おおっ!?」


 しばらく遊んでいたら、ハニーの震えも治まって笑みを見せてくれるようになった。

 しかもなんと、頬ずりで反撃ですよ? すべすべだっ♪


「はぁ~あ。 もうっ、セーレさま! わたしを頼ってくださいよぉ~」

「あーあ、仲いいなぁー」

「…………うらやましぃ」


 なんか、後ろからいろいろ聞こえてくるけど、気にしなーい。

 ついでに、周りの通行人からも、見られてニヤニヤされてるけど気にしなーい!


「はいはい、あんまりしていると、転びますよ~」


「はーい」

「は~い!」


 猫が二匹でじゃれ合っているような事を続けてたけど、確かにちょっと頭がくらくらしてきたので自重。

 そのまま先頭は三人で歩く。 あれこれ見ては質問する俺と、分かりやすく教えてくれるお袋。 こんな混雑の中でも、不思議とよく聞こえる。

 そしてセーレたんは、俺と同じ方向を見て「ん~?」とか「ぅわ~♪」とか言ってる。

 で、俺達の後ろには「ふーんだ、ふーんだ」と、拗ねる振りをして俺達の気を引こうとしてるチャロちゃんと、最後尾は雑談でけっこう盛り上がっているらしい、マールちゃんとエルネちゃん。

 するとだんだん、後ろからのボヤキが悲しげな声になってきたので、俺が質問を投げてなんとか復活に成功したりと、賑やかに歩いていく。



「は~い、もうすぐ広場に着きますよ~」


「お?」


 高くそびえ立つ、深い森のような人の柱の間を前にひたすら進む事しばらくして、お袋が目的地の到着を教えてくれた。

 三歳児の身長では今まで見えなかったが、どうやら、先の方の人の流れが左に曲がっているようだ。

 そして、そのカーブが始まる地点で、道の右側には動きの鈍っている……というか、動きがフラフラと不規則になっている、たくさんの人だまりが。 ブラウン運動か?


「さあ、露店を見て回りましょうか~♪」


 ああ、あの辺に露店が並んでるんだね? 全然見えねぇよ……。

 俺と妹様はお袋に手を引かれ、縦一列になってその群を切り裂くように突撃。 後ろも付いてくる。


「すみませ~ん」


「ゴーメンナサイヨー、ゴーメンナサイヨー」

「ぐにゅぅぅぅぅ~」


 はぐれないように、お袋の手とセーレたんの服を掴み、なんとか人の壁を突破する。

 すると――。



「おおおおおー」

「ふやぁ~~~」



 石畳の上に敷かれるシート、その上に並ぶ品々。 先程の大通りとは、明らかに違う品揃え。 小物やアクセサリー類が多いかな? 干物みたいな食べ物も少し。

 そして、しゃがみ込んでいる客と商品を勧めている店の人。 もちろん、大きな声で客引きをしている店主もいっぱいいる。 具体的にどこがと言われると困るが、なんとなく雰囲気の違う服を着てたり、やたらヒゲがモジャモジャした人もちらほら。

 あと、ミルクっぽい匂いも漂ってくる。 たぶん屋台だろう。



 ――そこには、近代的な今までのものより古い感じのする、俺が今までイメージしていた「ファンタジー」により近い光景が広がっていた。





 次回に続きます。

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