685 イケイケとオラオラ
「うっ、まだゾクゾクする……」
そう言いながら、着いた席で身体を震わせる殿下はちょっと涙目であった。
以前に体験した親父が言うには「生理的に受け付けない感覚」だったそうだけど、この人もそんな感じの反応だ。 なんでだろう?
お茶をゴクゴク飲み始めた彼を見ながら、俺は首を捻る。
「カスパルさん、できたら後でレポートを書いていただきたいんですけど」
「君、なかなか容赦ないな……」
また王妃様が小さく噴き出し、王女様がきゅんきゅんと笑い出す。
自分でもそう思うんのだが、コレもすべては研究のため。
ご容赦願いたい。
「で、どう書けばいいんだ?」
「ええっと――」
それでもノーと言わない王子様。
とってもいい人だ。
「あぁ……♪ とても面白かったですわ」
レポートの書き方について話していると、子犬のように鳴いていた王女様が復活したらしい。
吊り目がちな目尻を畳んだハンカチの先で押さえながら、ちょうど話が終わったところでお兄様に話しかける。
「お噴きになった際に虹でも出してくだされば、もっと完璧だったのですが」
「出せるか!」
ふ、フリーダさん……。 兄妹ゆえの気安さもあるんだろうけど、なかなか素敵な追い打ちをおかけでいらっしゃる。
見た目の印象通り、けっこうSな人のようだ。
「ニアは出せるよー?」
すると、いまだに王妃様の頭に乗ったままのマイドーターが、更に追い打ちになりかねないことを言い始めた。 そろそろ頭から降りようよ。
っていうか、ミスティナさんも口元を手で隠して「ほほほ」と笑うだけで、止めはしないんだね……。
最初は「王族一家」と聞いて身構えていたのだが、だんだん親しみが湧いてきた。
「是非、お願いしますっ!」
「がってーん♪」
「もう好きにしてくれ……」
ついニアちゃんを止めるツッコミを忘れていると、その間に王女様がノリノリでGOサインを出してしまった。
ガックリとうなだれる殿下の頭上に、本当にキラキラとした七色の橋が架かる。
「す、素敵ですわっ!」
「あら、とても綺麗♪」
ノリノリの女性陣は大喜び。
広い食堂に、王族ご一家の拍手の音が響き渡る。
「おお……下から見ると、これはこれで面白いな」
それに殿下も、上や横に手を伸ばして「やはり触れないんだな」と納得してうんうんとうなずいている……。
俺まで拍手していいかと迷っていたのだが、それで吹っ切れた。
ほどなくして、俺達全員の頭上に虹の橋が架かったのであった。
「――お二人は、何かしたい事や行ってみたい所などございます?」
『うーん』
そろそろ誰も飲まなくなったお茶を片付けたミスティナさんのお言葉に、そろって小首を傾げる俺とニアちゃん。 実をいうと、今日の俺達の予定は夜までフリーだったりする。
今日は城全体が休業状態であり、さすがに全員がまとめて休むワケにいかないオルスターマイナも、序列持ちの人はほとんどが半日以上の完全な休みか、それに近い待機状態だという。 当然、王族のみなさんも完全フリー。
マリエルさんも本当は夜まで休みだったのに、今朝はわざわざ俺のために来てくれたらしい。 ちなみに聖母様は、意気揚々とどこかへ飛んでいった。
なお、かわいい妹ちゃんから仕事を禁止されたトゥキおにーさんは、母親と入れ替わるように部屋へ入ってくると、俺達の寝ていたベッドを整え始めたのを皮切りに部屋中を掃除し始めた。 ……それが、本人にとっては癒しになるらしい。
だからそのまま、俺とニアちゃんはこの食堂へとやってきたのであった。
「今でしたら、玉座の間で王様ごっこもできますよ?」
「いやいや」
なにそのゴージャスすぎる「ごっこ」遊び。 王妃様は冗談っぽく笑ってるけど、「じゃあやるー!」なんて言ったら本当に連れて行かれそうな気がするぞ。
今の俺の外見が子供だから、遊ぶはまあいいとしても……まさかモノホンの王の間でモノホンの王族さん達と「王様ごっこ」なんて、それはもうちょっとした職業体験じゃないか。
一日署長どころの話ではない。
「それじゃ、私のお部屋でお絵描きでもする?」
「えっ」「おおーっ」
丁重にお断りしていると、お次はフリーダさんからのお誘いが。
高校時代には既に「プロ並」と評判だったという、お姫様とお絵描き、か。 ちなみに彼女は十三歳、既に卒業している。
ちょっとハードルは高そうだが……教えてくれるなら、それもいいかも。 我が娘も乗り気っぽいっし。
なーんて考えていると。
「あなた、きっと似合うと思うの」
「?」
え、何が?
「私の、昔の服」
「ぶほっ!?」
お、俺がモデルかよ!?
お絵描き、っていう建前の着せ替えごっこだった!
「あら、私の服ではご不満?」
キツイ目のお顔立ちで色っぽい流し目をくれるけれども、誰のであろうと「女の子」の服を着させられるって時点でご不満でございます。
いや、もしもセーレたんに「お揃いで着ようよ~♪」なんて言われたら、気持ちがグラつくかもしれんが……。
一瞬思い浮かべてしまった映像を必死に首を振って脳内からかき消し、丁重にお断りを入れる。
「い、いいいいえあの! ぼ、僕は男なので、そういうのは……」
「そう? 絶対似合うと思うのに」
そういう問題ではゴザーセン。 ニアちゃんもうんうんってうなずかない。
それと王妃様も、俺の顔をじーっと見て「確かに」とか呟かないでください。
「そ……残念だわ」
断固として首を横に振り続けていると、なんとか難を逃れられた。
と思っていたら、あまりにも予想外な方へ流れ弾が。
「でしたら、またお兄様に着てもらうことにしますわ」
「え゛っ」「はあ!?」
その弾が当たったのはお兄様である。 ……っていうか、「また」?
俺はもちろんのこと、全員の注目が彼に集まる。
「おーじさまも着るのー?」
「あら、いつの間にそんな楽しそうな事を」
「……」
我が子の発言にも突っ込みたいところだが、ミスティナ王妃様にもなかなかのツッコミどころが……。
しかし同じく女装させられたものどうし、カスパル殿下にはますます親近感が湧いてくる。
と、思っていたのに。
「き、着たことなんか、ある訳ないじゃないか!? あってたまるかッ!」
王子様の反駁に、お姫様はそれをすんなりと認めた。
着せたのはドレスではなく、濡れ衣であったと。
「ええ、想像の中でですわ。
……描いてみたのは本当ですけれど」
「!?」
「ふふっ、似合わなすぎて笑いますわよ?」
「すっ、すぐに捨ててくれ! 頼むからあああああ!!」
「……」
なんだろう? この世界には、身近に絵心のある人がいると女装姿を描かれる法則でもあるんだろうか……。
俺はカスパル王子に対して、これ以上ないくらい親近感を覚えていた。 髪と目の色も日本人に近いしな。
思わず顔がほころぶ。 春の陽光のような、悟りの笑みである。
「ところで、先程――」
「!」
と、不意にお兄様をいじり倒していた王女様がこっちを向き、その目がキラーンと光った。
視線の先にはマイドーター。 続いて俺の顔へ。
「王子様『も』って、言いましたわね? と、いうことは……」
「あ」「……」
案の定、俺には実際に女装させられた経験があることがバレた。 ニアちゃんがテレパシーで『ママ、ごめーん』と謝ってくるが、まーバレちゃったモノは仕方ない。
でも例の絵については絶対に言わないように、と釘を刺す。
我が娘は『うん、絶対言わなーい!』とうなずき、両手で自分の口を塞いだ。
「で、それはいつのこと?」
「どんな服だったのかも聞きたいわね♪」
「え、ええっと……」
それぞれ、灰色と黒の瞳を輝かせる王女様と王妃様に、赤裸々な ――「どんな」メイド服だった、などはぼかした上で ――告白をさせられていると、王子様がとっても温かな目差しと微笑みを俺に向けてくれていた。
「ま、そう気を落とすな。 なに、君の歳なら大丈夫だ!」
「……どうもです、殿下」
確かに、大人になってから描かれるよりはダメージは少なかろう。 ……間違ってもそんな返しをしようものなら今度こそ殿下はイスから落ちると思うので、ここは黙って慰められておく。
王妃様はニコニコと微笑み、黙って俺を慰める自分の息子のことを見つめていた。
「はっはっは! 殿下、なんて呼ばなくていいさ。 俺のことは遠慮なく、クァスとでも呼んでくれ」
「えっ、王子様なのにカス呼ばわり?」
「呼ばわりとはなんだ!?」
おおっと、お兄様にトドメを刺したそーに微笑んでいる妹君を目で牽制していたら、微妙に発音を聞き間違えちゃったらしい。 また王妃様とお姫様が噴き出す。
さすがに今後とも会う機会というのはそう多くはないだろうけど……この人達とは、仲よくやっていけそうな気がした。
「――どうだい、一緒に?」
カス――誤解のないように、より発音に近い表記すると「クァス」さんの言葉に、俺は首を縦に振る。 女装ではなく、武術のお誘いである。
改めて午前中に何をしたいかという話題に戻ったところ、そんな話が飛び出したのだ。
「城の中を見て回るのもいいだろうが、昨日もある程度は見ただろう? だったら、俺と食後の運動をしないか? 良ければ教えるぜ」
『おおっ』
まるで少年のような笑みを浮かべ、自分の手のひらにもう片方の拳を打ちつけて音を鳴らす王子様。 俺のとニアちゃんの声が重なり、我が娘の頭頂にあるアンテナっ毛がピコンと跳ねる。
第一王子――グレゴールさんの温室を見せてもらおうかなーと思っていたけど、それは魅力的なご提案だ。 多趣味で多才なことでも有名な彼は、武術の腕も相当なモノだと聞く。
そんな王子様と手合わせができるなんて、俺の男心に火がつかないワケがない。
するとなんと、彼のお母様から更なる魅力的なお言葉が!
「ほほほっ。 それなら、私も軽く運動させて頂こうかしら?」
『おおおーー!』
もしかして、王妃様vs王子様、なんて対戦が見られちゃったりする!?
一般人なんかじゃまずお目にかかれない、超々レアカードですよ?
「クァスは今日も練習、するのでしょう?」
「勿論だとも」
「……」
ミスティナさんが言葉の中につけた小さなアクセントに、クァスさんが目つきを鋭くする。 気づかずに聞き流すところだったが、彼のリアクションでそれに気づいた。
そういえば――。
今度の武道大会、この人も出るんだよなー。
もちろん特別枠などではなく、正式に予選を突破した上でだ。
出場者決定を報じる新聞に、大きな字で書かれてたよ。
「ぜひお願いです! というか見たいです!」
「では決まりね?」
「ああ」
いつの間にやら二人の対戦がメインになっちゃってるが、むしろ臨むところのケンカ上等。 や、ケンカじゃないけど。
お二人の手合わせに比べれば、俺の稽古なんて前座ですよ。
当然、じーっと聞いているフリーダさんにも誘いをかける。
「フリーダさんも見ましょうよ!」
「……そうね。 たまにはいいかしら」
「っし!」
ついつい小さくガッツポーズをしてしまった俺を見て、お姫様が小さく微笑む。
ちょっと恥ずかしい。
「せっかくだから、お兄様の絵を持って観戦しましょう」
「持って来るなああああーーー!?」
「……」
この人、とことんお兄様をイジってくるね。
きっとSに違いない。
食堂の外で待機していた二人のメイドさんに声をかけ、運動に適した服がないか聞いてみる。
廊下にも絨毯が敷かれているとはいえ、すぐにひざをつき俺と目の高さを合わせてくれる。 さすがロイヤルメイドさん。
「はい、すぐに」
「では、一度お部屋に参りましょう」
しかも、すぐに要望に応えてくれるのもさすがである。
一礼してその場を離れていくお姉さんの背中を見ていると、我が娘を肩に乗っけた俺はもう片方のお姉さんに言われて元の部屋へ。 もちろん俺達二人だけではなく、そのお姉さんが横についてエスコート――俺の手を握ってくれる。
「外にお出でですか?」
「いえ、そうじゃなくって――」
食堂での話をすると、「まあ」と目を大きくするお姉さん。 キレイな瞳が宝石のようにきらめているところを見るに、彼女も興味があるようだ。
敢えて言わずとも、客人である俺を一人にはしない――役目としてついてくるんだろうけど、ココはちゃんとお誘いするとしよう。
「ありがとうございます、ぜひ♪」
嬉しそうに笑ってくれた。 釣られてこっちも笑顔になるね。
やがて元の部屋に着き、ほとんど直後にさっきのもう一人のお姉さんが新しい服を持ってきてくれた。 あらかじめ用意してあったんだろうが、仕事が早い。
ちなみに、トゥキにおにーさんは部屋にはいなかった。 ニアちゃん経由で聞いてみると、今は風呂場の掃除をしているらしい。
石の浴槽をピカピカに洗って、指で擦ってキュッキュって音を聞くのが、癒されるんだって……。
きっと、いいお嫁さんになれると思う。
当然、服を持ってきてくれたそのお姉さんも観戦に誘い、花がもう一輪咲いたところで服を着替え――。
「お手伝いします♪」
「させてくださいっ♪」
「……」
――させてもらえないらしい。
俺は、ご奉仕に飢えているメイドさん達の、餌食になった。
着せ替え人形中に聞くと、運動場は地下にあるらしい。 繁華街や学校では馴染みのある地下施設も、家にそれがあるのは一等区かそれ以上に限られる。
伸縮性のあるトレーナー上下になった俺は、再びメイドさんズの案内で階段を下りていく。
階段だけでもちょっとした運動だよなーと思いながら着いた先は、やはり立派な地下体育館であった。
「よっ、来たな」
「よく似合ってますね」
着替えずにそのまんまの王子様と王妃様が迎えてくれる。 クァスさんはもともと動きやすそうな格好だからいいとして、ミスティナさんはロングスカートで大丈夫か……なんて心配はしていない。
壁際には見学用か休憩用らしきイスとテーブルがあり、フリーダ姫様はそこに座っていた。 さっき食堂でお茶を飲んだばかりなので、テーブルの上には何もない。
……絵は持ってきていなかった。
見たかったような、見なくてよかったような。
「準備運動代わりに軽く手合わせするから、君はしばらく見ているといい」
「はーい」「ほーい」
王子様に言われ、俺とマイドーターはメイドさんズを伴って姫様のテーブルへ。
イスを引いてもらい、向かいの席に座る。
「フリーダさんもよくココに来るんですか?」
「あまり来ないわ。 運動は苦手だから」
「そなんだー」
相づちを打ったのは我が娘である。 俺の肩からテーブルに映り、大きな頭を横に傾けている。
まあ、見かけによらないのがこの世界の人ではあるけど、彼女はあんまり武術をたしなんでいるようには見えないしな。
「目の保養になりそうなとき、たまに見に来るくらいね」
「保養ですか」
俺とフリーダさんの隣に別れたお姉さんズを見ると、にっこりと笑みを返してくれる。 どうやら、王族だけでなく彼女達も来るようだ。
……そりゃあ、目の保養になるな。
「では、軽く始めましょう」
「ああ」
王妃様が息子に声をかけ、互いに距離を取った。 「軽く」というわりには、本格的な武具を装備していらっしゃる。
ミスティナさんが持っているのは、長さ一メートル弱くらいと思われる鉄扇。 パッと見た感じは薄い鉄の板に見えるけど、彼女の武器として有名だ。
もちろん現役時代に使っていたものとは別物だろうが、ロングスカートのドレスに、長い髪を頭の後ろにまとめて更にウェーブがかった先をポニーテールのように垂らしている姿は、今なお当時を容易に想像できる貫禄と優雅さを兼ね備えている。
一方、カスパルさんは何も持っていない……というか、服の上から両手にひじまである金属製の籠手を装着していた。 しかも腕の外側には、亀の甲羅みたいな膨らみのある、細い流線型のパーツが取り付けられている。
単なるプロテクターというよりは、たぶん相手の攻撃を受けてもよし、またそれで殴ってよしっていう攻防一体の盾なんだろう。
彼が格闘主体のスタイルだということは、新聞にも書かれていてわりと知られていることである。
「いつでもいらっしゃい?」
王妃様は特に構えるでもなく、畳んだ鉄扇を持った手をだらんと垂らしているのみ。
しかし王子様は、剣のように鋭利な視線を彼女に向け、しっかりとファイティングポーズを取って対峙していた。
そして――。
「フッ!」
ほとんど踏み込むポーズも見せず、一瞬のうちに間合いを詰めてジャブを放つ!
だがミスティナさんはしなやかに腕を振り上げ、難なくそれを弾き返していた。
「……ッ!」
「……♪」
二人とも、特に気合いの声はほとんど発していない。 ……というか、武器どうしのぶつかり合う音で聞こえない。
真正面から弾き返す衝撃音から受け流す際の擦過音まで、さまざまな金属音がホール内にけたたましく響き渡る。 ホールの音響は抑えられているようで、反響はほとんどないものの……音だけ聞いていると、工事現場かマシンガンでも撃ちまくっているみたいだ。
ものの例えではなく、時折本当に火花を散らせている。
「おおっ、すげー!?」
「ほへー」
「……耳が痛いわ」
お姫様はわずかに眉をひそめて耳を塞ぎ、我が娘はぽかーんとした顔で瞬きを繰り返している。
俺は二人のモーレツなラッシュと臨場感あふれる効果音に、大興奮であった。
「ッ! ……セァ! ハッ!」
最初のステップの時点で思ったが、クァスさんはやはりボクシングスタイルか。
しっかりと腰を据え、上半身は腕でガードするか身体を左右で振るなどして回避。 もしくはジャブを放って、攻撃自体を殴って弾き返す。
下半身は軽く足を開き、軽いジャンプやステップで前後左右に動くことでつかず離れずの距離を保ち、動きに変化を持たせ足元への攻撃にも対処していた。
「ほほほ」
対する王妃様は……さすがの安定感。 その場を一歩も動かず、スカートの裾や、後ろに垂らした髪の毛先さえ揺らさない。 右手一本で、すべての攻撃に対処していた。
肩、ひじ、手首の関節を柔らかく使うことで、まるでムチがしなるように鉄扇を振るっている。 端から見ていると、腕や武器がぐにゃぐにゃと曲がって見えるほどだ。 そのせいで非常に軌道が読みにくい。
加えて不規則に扇子を開閉することで、スピードが急変したり不意に視界を塞がれたりもする。
アレに対応するのって、とてつもなく厄介だぞ……。
「むっちゃ強いね……」
元オルスターマイナと大会出場者、どっちを「さすが」と言えばいいのやら。
相づちを求めてメイドさん達を見上げると、笑顔で解説してくれた。
「殿下はお立場上、直接お戦いになることはまずありませんから、守りを大事にした戦い方をなさいます」
「……」
あ、アレで防御重視ッスか。 まー確かに、攻めるパンチよりも相手の攻撃を弾くパンチが目立つけど……。
思わず顔を引き攣らせていると、もう一人の大姉さんからなるお言葉。
「ですけど、テクラお姉様と互角に打ち合われるんですよ」
テクラさん? ……ああ確か、クァスさん付きのオルスターマイナさんだったか。
第七位だったかと思うけど、それ以上に訓練生時代、片腕・片足を失う瀕死の重傷を負ったところから序列持ちにまで上り詰めたことで有名な人だ。
そんな人と打ち合えるんだから、大会に出られるのもうなずける。
しかし。
「ていうか、そんなクァスさんと片手で打ち合っている王妃様って……」
しかも「ほほほー」って楽しそうに笑いながら。 俺と親父の師匠といい、この国のアラフィフの人は戦闘力がどうかしている。
戦慄していると、メイドのお姉さんがもはや笑うしかないようなことを教えてくれた。
「王妃様は現役時代、魔獣狩りがご趣味だったらしいです」
「……」
いや、王族の護衛役なんだから護衛しようぜ……。 いくら魔獣や精霊に対抗できる、専用の魔導武器を持っているとはいってもさ。
ちなみにマリエルさんは超高熱で叩き斬る大剣で、対照的に現役時代の王妃様は超低温の液体を使っていたって聞いたことがある。
青いナントカ、って二つ名だったような――。
「――まだまだ、反応の遅いところが散見されるけれど。 まあ良いでしょう」
「母上は厳しいなあ」
在りし日の――たぶん今とあんまり変わらないだろう外見の王妃様を想像していたら、「軽い」運動が終わったらしい。
呼吸を整えている自分の息子に、母上は息ひとつ乱すことなくシビアな評価を下していた。
で、籠手をつけた手で乱れた髪を直すと、王子様が俺の方に顔を向け、白い歯と共に爽やかな笑みを浮かべた。
「さあ、軽くやろうか!」
「は、はあ」
あんなのを見せられた直後って、やりにくいな……。
ま、思いっきり胸を借りるとしますか。




