61 ときめきの、告白
太陽が薄い雲に覆われ、普段よりも少し涼しい昼下がり。
小さな家が並ぶ区画の中に、その十軒分程度はあるだろう大きな二階建ての建物がある。
机とイスが大量に並ぶ、代わり映えのない部屋ばかりが続く中の一室。
何十人もの子供達がイスに座っており、その最前列の更に前には並んでいるものとは異なる少し高めの机があり、唯一の大人である女性が立っている。
そして、その女性と机を挟んで立つ一人の女の子。 彼女は、女性から一枚の紙と共に賞賛の言葉を受け取った。
「はい、カプティーニさん。 最近よく頑張ってるじゃない」
「ありがとうございます」
やや大人びた穏やかな笑みを浮かべて両手で紙を受け取った少女は、その内容に軽く目を通すとゆっくりと振り返った。
赤茶色の、先端を少しカールさせた長い髪。 そして真っ赤なブラウスと、黒地に赤のチェックが入ったプリーツスカート。 回った際に髪と短いスカートがふわりと広がり、黒いニーソックスに包まれていない、太もも上部の肌色が僅かに覗く。
しかし彼女に大して気にした様子はなく、そのまま髪を靡かせながら颯爽と自分の席へ歩いて行った。
「……よっし♪」
紙で片手を隠して密かに拳を握る少女。
思わず声が漏れ、年相応の笑顔をこぼす。 その一連の動作と笑顔を見ていた何人もの男の子が、頬を真っ赤に染めて一斉に目を逸らせた。
「ねーねー、どうだったの!?」
席に着くと、彼女の前に座っていた女の子が声をかけてきた。
「えへへっ――――満点」
「ふわっ!? すっごーい、エルネちゃん!
難しい問題もけっこうあったのにぃ~……そういえば、この前も満点じゃなかった?」
「うんっ。 これで三回連続」
「すっ……ご~い。 でもどうしたのエルネちゃん? 最近急に点数上がったよね!」
「う、うんっ。 ちょーっと本気で勉強しなきゃ、て思って……ね♪」
はにかむような笑顔を見せるエルネスタ。 対面していた女の子も、思わず頬を染める。
さっきからチラチラ横目で見ていた近くの男子などは、女性教師から大声で名前を呼ばれている事にさえ気付かずに、ぽーっと見つめている。
遂にしびれを切らしてやって来た先生に頭を教科書で思いっきり叩かれ、ようやく我に返る男の子。 その見事な音によって我に返った、他の男子も何人かいた。
その様子に呆れる、周囲の女の子達。 『ホントに男子って……』といった囁き声もちらほらと。
「そ、そうなんだー。 ひょっとして来年、〈初等学校〉を卒業したら〈高等学校〉を受験するとか?」
「……うん。 ちょっと本気で考えてる」
「ふわ~……ガンバってね?」
「ん、ありがと」
――その後の答案返しは、滞りなく進んだ。
夕日が差し込む、放課後の教室。
人気のない部屋に立っているのは、少年と少女の二人だけ。
朱く染まった教室の中でも鮮やかさを失わない紅の少女に、夕焼けよりも顔を真っ赤にした少年が僅かに震える声で話しかける。
「あのさ、エル……いや、カプティーニ、さん」
「……なに?」
「やっぱり、考え直してくれない……かな?」
「どうして? 前に言ったよね」
「いや! だから、本気なんだって!」
「ふぅん。 前は、本気じゃなかったんだ」
「だから違――いや、うん。 で、でも今度は本当に!」
「……まあ、最近誰にも声かけてないのは知ってるけど」
「あ、ああ! 本気で好きなんだ!!」
「そ、そう。 ……でもあたし、子供には興味ないって、言ったよね」
「あ、ああ! だから俺、大人になるから!
年上になるのは無理だけど、それ以外だったら、全部君の理想通りになってみせるから!!」
「うぐ。 ま……まあ? そこまで言われて、悪い気はしないけど……。
でもなんで、そこまで本気になったの?」
「そ、それは……」
「それは?」
「それは――」
「……」
「――」
「…………」
「――――られない、んだ」
「え?」
「忘れ、られないんだ」
「な、何を?」
「忘れられないんだっ! あの…………刺激が!!」
「――は?」
「だからっ! あの時の電気アンマの刺激がっ!!!」
「……」
「ああっ、あのズッキュンズッキュンと来る感覚が、なんとも……」
「――あー。 うん。」
「?」
コツ、コツ、コツ。
何やら頷くと、少女はおもむろに木の床を歩いて少年に近づく。
「……分かった。 あたしも、本気になるわ」
「えっ。 そ、それじゃあ……!」
「ええ♪」
にっ……こり。
「――本気で、記憶飛ばして・ア・ゲ・ル♪」
ぎゃあぁぁぁああぁぁぁああぁ、あっ、あっ、あああああああぁあぁーーーーーー!!
「うんっ、良いコトしたから気分がいいわ♪」
軽い足取りで教室を出て行く少女。
残された少年は、「卍」のような体勢で手足を曲げ、床に転がっていた。
「……ふぇ、ぼ、ぼくは、ダレ? ぽ、ぽこあ……ポコ?」
空には、一番星が輝いていた。




