56 あなたは宇宙人の存在を信じますか?
暖かい日差しの中で、柔らかい絨毯に座って笑顔で両手を取り合う、溜息が出るほど可愛らしい子供達。
もしもこの場に何かしらの芸術家がいれば、絵画でも楽曲でも詩でも、それはもう時を忘れて一心不乱に書き殴りることだろう。
周りにいる人達も、至福の表情で感嘆の溜息と共に二人の光景を眺めている。
の、だが――――。
「る~」
「にゅ~」
「る~る~♪」
「にゅ~にゅ~♪」
「……」
会話が意味不明すぎる……。 何だこれ?
最初はお姫様―― もう呼び名は決定だな―― の完成され過ぎた綺麗さに固まり、次に妹様の、最早世界の常識とも言える可愛さとのコラボレーションに脳細胞を殲滅されかけた俺だが。
普段からセーレたんをはじめとして美幼女・美少女に囲まれて耐性がそこそこできている上に、こうして恐らく二、三〇分もの間、ずーーっとこんな宇宙的交信のなされる様を見続けていると、さすがに俺も意識と理性を取り戻した。
……後頭部はタンコブになったっぽいが。
「る~る~る~!」
「にゅ~にゅ~にゅ~!」
「…………」
――ねえ?
俺、もうツッコんでいいよね? ゴールしていいよね?
ていうか、実は俺のツッコミ待ちなんじゃないのかなコレ?
でないと永遠に終わらないような気がしてきたよ?
「る~」
「にゅ~」
俺はおもむろに立ち上がり、躊躇うことなく二人の元に歩み寄った。 当初の緊張がウソのようである。
そして……。
「いみ分かんねーお」
つんつん。
「りゅっ!?」
「ふにゃん!?」
ダンディー○野的なスタイルで、両者のほっぺたに同時に軽くツッコみました。 ゲ○ツ。
『……!!!?』
「あらあら~」
「ぷっ! ……お、お見事なツッコミですー♪」
はっと我に返る保護者の方々。
お袋とチャロちゃんはやはり既に意識を取り戻しているようで、普通なリアクション。
そして、同様にお姫様を見慣れているだろう白銀のメイドさんは、一見ノーリアクション。
だが俺は、彼女が声を出さずに口だけで『なかなかやりますね』と呟いたのを確かに見た。
その直後に目が合ったら、ちょっと気まずそうに逸らされたし。
「セーレたん、お姫……る~ちゃん? なにしてるのー」
まあ取り敢えず、俺もコンタクトしてしまったので話を振ってみる。
うっかりお姫様と呼びかけたが、気にしない。 なんかメイドさんがピクリと反応したのが視界に入ったけど、それも気にしなーい。
「おはなし、してたの~♪」
「うん、おはなし」
にっこりと答えてくれる妹様と、急に普通に喋り出すお姫様。
「えっと……なにを?」
「ふく、かわいいね~♪ とか~」
「……はじめ、まちて」
「みみ、かわいいね~♪ とか~」
「よろしく」
「かみ、ぴんくだね~♪ とか~」
「そっちも、かわいいよ?」
「ね~!」
「る~!」
「そ、そっか……」
あのやり取りにそんな意味が!?
会話として、微妙に成り立ってないようで成り立ってる、というか。
この短時間ですっかり意気投合した様子の二人。
ひょっとして、あれは実は非常に高度なコミュニケーションだったの……か? うそーん。
「……る~」
「おにぃ~♪」
「ぉ?」
なんか、二人が繋いでいた手を片方ずつ離して、俺の方に手の平を向けてきたんですけど。
そのタイミングは全くのドンピシャ。 初代○リキュアも驚くシンクロっぷりだ。 必殺技か?
「……て」
「おにぃも~」
「すわ、って」
「ちゅなぐの~」
「ぉ、ぉぅ」
って、セリフまで互いに補完してるぞ!? まるで双子みたいだ……って、俺の立場がねぇよ!
何だか危機感のようなものを覚え、俺は二人と正三角形を作る位置に座り、ちょっとドキドキしながら両方の手を取った。
うわっ! お姫様の手、ちっちゃー。 やわらけー。
「る~♪」
「にゅ~♪」
「お、おー」
そして始まる、謎電波の送受信。
「る~る~」
「にゅ~にゅ~」
「お……おお、おー」
周囲からは「まあまあ~」「すっかり仲良しね」「男の子はぁはぁ」といった声が聞こえる。
つーか最後のおねーさん、いつの間に来たんだ!? 最初いなかったよね?
「る~! る~? る~♪」
「にゅにゅっ! にゅ~」
「お、おーのー」
クマらしきぬいぐるみを三角形の中心に置いて、手を繋いで笑顔で言葉を交わす三人の幼児。
たぶん、端からはそんな感じに見えるんだろうけど……。
笑顔の内の一人は微妙に引き攣ってるし、交わす言葉はなんとも宇宙的だ。
な、なんじゃコリャぁぁぁぁぁぁぁ~。
偉大な俳優の名ゼリフを、まさかこんな状況でサイレントに叫ぶことになるとはぁああああ!!!
なんかね、真夜中にビルの屋上でUFOを呼ぶ儀式をする怪しい大学のサークルに、用件も知らされずにいきなり友人から呼び出されて来てしまった一般人のような気分ですよ? ベ○トラー。
「る~? るるる~」
「にゅっ! にゅにゅ~ん♪」
「おーまいがー」
周囲へチラチラとヘルプの視線を送ってみるものの、保護者の方々は相変わらず自分の子供達を放置してうっとりしてるし、お袋やチャロちゃんは……。
「うふふふふふ~♪」
「かわいいですねー」
二人とも微笑んで、チャロちゃんはそれに加えてしっぽを振り振りして見てるだけだし、メイドさんに至っては、目を合わせると何やら意味深な頷きを返されたし。
いや、何をしろと?
「る~る~。 るる~」
「にゅう~にゅっ。 ……おにぃ~?」
「ぅえ?」
急に二人の視線が俺に集中したぞ!?
えっ、なに? なにさ? どうすりゃいいのよっ!?
「る~」
「にゅ~」
何故か、俺の方にじりじりと詰め寄ってくる二人。
だから、何を求めてるのよ君達ーーーーーっ!!??
つーかね、せめてセーレたんは普通に喋ってくれないかなぁ?
「……」
「……」
「ぅ……ぁ」
えーい、ままよっ! なるようになれっ!!
「お、おっす。 おら、じゃすー……」
困ったときの自己紹介?
「……」
「……」
「……」
も、最早これまでかっ……!
「る~~~~~っ♪♪」
「きゃはあぁぁぁ~~ん♪」
へっ!? な、なんだ? あれでよかったのか? 正解したのかっ!?
繋いだ両手を離し、バンザイして大喜びの二人。
何が何だかサッパリだが、俺も取り敢えずバンザイしておこう。
「べ、べん○らー?」
「しぇーれー♪」
「る~!」
どうやら、自己紹介で本当に良かったらしい。
「べん○ら~!」
「べん○らぁ~!」
と思ったら、召喚の儀式が始まったし。
むしろUFOさん、俺をどこかに連れてって……。
「べん○らー、ね」
「べん○らー……です、わね」
「まあまあ、べん○ら~♪」
「よく分かんないですけど、べん○らー!」
「べん○らー、ですか。 不思議な言葉です……」
いやいや! なんで保護者の方々にまで伝染してるの!?
しかもお袋とチャロちゃんまで!! メイドさんも呟いてるし!
なんか、空前のオカルトブームが来たよーっ!!?
「男の子はぁはぁ」
……いや、うん。 おねーさんだけは、ブレていないようで何より。
逆に和んじゃった。




