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そだ☆シス  作者: Mie
幼児編つづき
58/744

51 メジャーデビューですよ

挿絵(By みてみん)




 年が明けて、()かい冬の日々が過ぎ。

 庭には少しずつ、緑が帰って来始めた。 ……そんな日の夜のこと。

 我が家の食卓ではいつも通り、かちゃかちゃと食器の音が響いていたその最中。

 ナイフとフォークの二刀流でハンバーグを相手に、熱くて美味しい攻防を繰り広げていた俺達へ、お袋からいつも通りではない衝撃の発言が飛び出した。



「ジャスちゃん、セーレちゃん。

 春になったら、〈幼児園〉に行きましょうか~♪」



「ようちえんー!?」

「よ~ぢえ~?」


「幼()園ですよー、ジャスさまっ」


 むむっ! それはなんぞや!?

 俺の知っている幼稚園みたいなもんか? ……()れぞ、教えてたもれ!


「ままー、ようじえんってなにー?」

「まま~、な~に~?」


「そうね~……。

 ジャスちゃんやセーレちゃんと同じくらいの子が、たくさん集まって遊ぶところなのよ~」


「おおーーっ!」

「おお~?」


 まさに幼稚園!

 遂に俺も園児デビューですかっ!?


 ――なんか聞いてみると、「幼児園」というのは託児所の性質を持つ前の世界のものとは違い、三歳を過ぎた子供が保護者同伴で足を運んで交流を図るという、親にとっては社交と教育の場、子供にとっては出会いと遊びの場であるらしい。 前世での「公園デビュー」みたいなもんだね。

 ちなみに毎日通う必要はないらしく、俺達も週に何度か通いましょうか、という話のようだ。


「いいねー!」

「いいね~♪」


 握り拳に親指を立てて突き出す俺達に、お袋はにっこりと答えてくれた。


「うふふふふ~♪ じゃあ、きまりね~」


「わーーーい!!」

「きゃは~ん!」



 ――俺も、生まれてもうすぐ三年目。

 セーレたんを立派に育てようと心に決めた俺。

 毎朝毎晩ふかふかのベビーベッドで寝起きする度に『元気に育ってねー♪』と言われ、釣り下がる事などあり得ずたわわに実る○っぱいを飲み、背中を叩かれては「げっぷ」と言った。

 シモの世話までメイドちゃんズに任せ、おててとあんよを動かす訓練をして、触手で妹様をとことん(いじ)り倒した。

 お袋達はたくさんの本を用意してくれたが、チャロちゃんはその中に地雷と宝石を巧みに混ぜた。

 俺は『できる限りの知識を得るのだ』と思い、自ら本を取っては何度も屍になった。

 それでも俺は知識を詰め込み続け、それを見たお袋達は新しい本棚を追加してくれた。

 そうして二年間、語()を増やして運動能力を高め、触手を使ってはセーレたんを訓練した。

 やがてセーレたんは立派な触手フェチとなり、俺は『やべぇ、どうしよう』と思ったが、マウントポジションを取られて萌え死んだ。

 そんな臥薪嘗胆(がしんしょうたん)な日々が、新たなステージに進むのだ!


 ……って、どこが臥薪嘗胆やねん!

 俺のこれまでを故事成語になぞらえてみたが、甘々な上にフリーダムやん。

 とっても楽しかったぜ!


 まあとにかく、俺もセーレたんもできる限りの事はやったし、そろそろエルネちゃんやエミーちゃん以外の子供達や外の社会にも、積極的に触れていかねばなるまい。

 まさに、渡りにテツ……もとい、船である。 どこかの軍団の人は関係ない!



「奥様……それでは、ジャス様とセーレ様の外出用の服を買わなくてはいけませんね!」


「うんうん♪ カワイイ服を着て、いっぱい見てほしいですよねっ!」


「そうね~♪ 次の〈精霊の日〉にでも、みんなで買いに行きましょうか~」


「はいっ、奥様♪」

「はーーーーい!」


 おおっと、俺がボケーっとしている間に話が進んでいるではありませんか!?


「おでかけいくー!」


「しぇーれも~♪」



 ――――さあ、春よ! 早く来いっ!!




**********



『一度でいいから見てみたい、パンを咥えた転校生。

 出会いの季節で一句詠んでみました。 ……初めまして、ハル・スプリングフィールドです』


 うん、いつも以上に訳が分からんな。

 テンションが上がるあまり、俺の脳内で謎の外人落語家キャラが爆誕してしまった……。 本当に意味が分からん。

 しかし、季節が変わってしまったのだから仕方がない。 だって春だもの!



 この日が、とうとうやって来ましたよ!

 園児デビューが決まってからというもの、冬の団らん生活で特訓時間が取れにくくなったのを逆に幸いと、言葉や一般的なマナーといった社会的スキルの特訓に費やした。

 食事はスプーンやフォーク――俺はナイフも使えるし、簡単な服なら脱いで着ることもできる。

 自分でおまーる子ちゃんへ行くから、昼間はオムツも完全に卒業したし、手洗いや歯磨きだってしてるもん!

 あいさつだって、ちゃんと覚えた。 コミュニケーションの基本ですよ。

 ただ、身分制度……つまりは上下関係による振る舞い方には不安があったが、子供は特に気にしなくていいらしい。 そりゃそうか。

 アナさん親娘は貴族じゃないが、ここにいる時でも最低限のマナーを守っている以外は普通だし。

 まあ、彼女の場合はお袋の友人でもあるから、かなり身内に近い関係だけどな。 労使関係でもあるから、けじめはしっかりしてるけど。

 ともかく、フォーマルな場でなければ最低限の礼儀だけで良い、といった感じのようだ。 無礼討ちとかの心配はなさそうで一安心。


 ということで、万全の体制を整えつつ三歳の誕生日を迎えて―― 俺達の誕生日って、三月二日なんだってさ―― 四月になった。

 ちなみに、誕生日は去年みたいな豪勢なものではなく、ちょっとしたご馳走と後日幼児園デビューのお祝いも兼ねて服を買いに行くのが決まったくらいで、つつがなく終了。

 まあ、その買い物がまた大変だったんだけどな……。


 着て脱いで着て脱いで着て脱いで、をエンドレスで繰り返す俺達。 しかも丸一日かけて店をハシゴすること三軒、更には四軒目で日が暮れたからと翌日まで持ち越す始末。

 ほんと、脱ぎ着しすぎて脱皮するかと思ったぞ。

『すぐおっきくなるから、おカネもったいないよー』と言って、何とか二日目の午前中に切り上げさせた俺を褒めてくれ。

 ……その代償? として、お袋とメイドちゃんズにエルネちゃんが加わった連合軍に、残りの半日ずーっと揉みくちゃにされたがな。


 そんな、苦難? ……むしろ女難? の日々を乗り越えて、今日、やっと園児デビューと相成ったのであります!



「うんうん、とても良くお似合いですよ、ジャス様っ♪」

「ありがとー、マールたん!」


 俺が着せられた……チョイスされたのを自分で着たんだが、グレーのレイヤード風のTシャツに黒のパンツ。

 ちなみにレイヤード風っていうのは、一着だけど重ねて着てるように見えるヤツな。

 グレーの濃淡でボーダーになっている半袖のシャツに、赤茶色の長袖がくっついている。

 二日もかけてそれか? と思われるかも知れないが、他に売ってた服に比べたら相当凝ってるぞ?

 しかも三歳の服って、俺自身が言ったようにすぐ成長して着れなくなるからか、元々数もデザインも少ないし。

 ワガママ言う振りをして買う数をかなり減らしてもらったけど……果たしていくら使ったんだか。


「あはっ♪ セーレさまっ、すっごくカワイイですー!」

「ありがと~、チャロた~ん♪」


 一方セーレたんが着ているのは、ピンクを基調にしたワンピース。

 胸からスカートまでがピンクで、胸から上と袖が白。 これもレイヤード風だな。

 首元はシンプルに丸襟、胸元には薄いピンクのリボンが付いていてスカートは膝下までの長さ、その下は白のニータイツなので転んでも大丈夫。

 髪も肩口まで伸びてきたセーレたん、キッズ未満で飾りの少ないベビー服ではあるけど、見事に着こなした姿はどう見てもお姫様です。

 明らかに俺のよりお金がかかっていそうだが、そんなのは当たり前だ!

 俺なんかに金をかけてどうする!?


「あらあら~、二人とも、よく似合っているわね~♪」


 支度して部屋にやって来たお袋は、よく着ている白いワンピースに、同じ白の薄くて丈の短いカーディガンを重ねている。

 肩から掛けているのは、革の小さいポシェットだ。


「それじゃあ、行きましょうか~。

 マールちゃん、今日は早めに帰りますから、それまでお願いね~」


 俺とセーレたんをなでなでしたお袋は、俺の手を取ってマールちゃんに留守を頼んだ。

 妹様の手を取っているのはチャロちゃんだ。 しっぽの付け根に巻いたスカーフがピンクなのは、セーレたんに合わせたのかな?


「はいぃ、いってらっしゃいませぇぇー……」


 涙目で手を振るマールちゃん。 チャロちゃんとどっちが付いて行くかを、じゃんけんみたいなモノで決めた結果、負けたらしい。

 まあ、次から代わり番こになるらしいから、今日の所は強く生きてくれい?


 チャロちゃんが部屋のドアを開けて、先に俺とお袋が廊下に出る。

 時間は既に昼を過ぎている。

 玄関まで伸びる真っ直ぐな廊下。 左側からは暖かい春の陽気が差し、廊下を白く照らしている。

 それ自体は見慣れているはずの光景なのに、それがまるで、新しい世界へと続く長いトンネルのように見えてくる。

 廊下の窓側から、チャロちゃんと妹様が手を繋ぎ、俺とお袋が同じく手を繋いで並んでいる。

 俺の左を見ると、セーレたんを目が合った。


「おにぃ~! おてて~♪」


 にっこりして伸ばしてくる右手。 当然、俺はすぐにその手を取って、ぎゅっと掴む。



「よーし、いくおー!


 ジャスパー・オリオールと、セレしゅティア・オリオール!


 いまから、もくひょーちてんを、くちくすりゅぞー!!」


 あふれ出す気合と共に、俺は出撃のセリフを叫んでみた。



「ええっ!? 駆逐しちゃうんですかっ!」


 突然の言葉に驚きつつも、笑いながら乗ってくれるチャロちゃん。



「ええ、駆逐しちゃいましょう~♪」


 右手を挙げてノリノリのお袋。

 そして。



「いやぁ~ん! きちく~! きちく~っ♪」


「鬼畜っていわれたっ!?」


 満面の微笑みで爆弾を投下する妹様。 ありがとうございます。

 でもさすがに、そこまではしないよ!?





 あたたかい光と笑い声に包まれて。

 ――また、新しい日々が始まる。





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