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そだ☆シス  作者: Mie
幼児編つづき
57/744

50 わたしがメイド見習いになった日

挿絵(By みてみん)




 低い太陽が、少しだけ寒さを和らげてくれる朝の商店街。

 並んでいるお店の中で、わたしはある食べ物を見つけました。

 お買い物の予定にはなかったけど、思わず立ち止まってしまいました。


「……そうそう。 そうだったよねー」


「おう、いらっしゃいチャロちゃん!

 もうそろそろ旬も終わる頃だ、安くしとくぜ?」


「ホント? んー。どうしよっかなー♪」


 そうそう! あの日も、どれがいいか迷ってたんだよねー。




**********



「うーん。 いろいろあるよねー」


 マールお姉ちゃんに頼まれて、わたしは孤児院の同い年のコをさそって、市場までやってきました。

 ちょっとでも安くていいものを買ってこないといけないんだけど……。


「おじちゃーん。 これ、みんな同じキノコなのー?」


「ああ、このカゴに入ってるのは全部同じだぞ、嬢ちゃん達」


「そーなんだー」

「うーん? 大きさもカタチも、いろいろだよねー」

「チャロちゃーん、どれにするー?」

「うーん……大きければいいのかなぁ」



『あまり大きいものよりも、傘が開ききっていないものの方が美味しいわよ~♪』



「ふえっ?」

「んー?」


 二人でうんうん悩んでいると、後ろからキレイな声が聞こえてきました。

 振り返ってみると――。


「うふふふふっ♪ こんにちは~」


 白いセーターと太陽の光でキラキラする金色の髪がまぶしい、精霊さまのようにキレイな女の子が立っていました。

 わたしよりも全然背の高い、マールお姉ちゃんよりも年上っぽいお姉ちゃん。

 あまりにキレイで、わたしたちはぽかーんとしてしまいました。


「え、えと……」

「ふわぁ……」


「こんにちは~」


 見とれちゃうくらいキレイな笑顔だったけど、ごあいさつされたのに気づいてハッとします。


「あ、あ、えっと……こんにちわっ!」

「え? ……あっ! こんちゃっ!?」


 あわてて、ペコリとおじぎするわたしたち。

 アリスちゃん、あわてすぎ! ちゃんと言えてないよー?


「はい、こんにちは~♪

 二人でおつかいに来たのかな~? えらいわね~」


 寒いのも忘れちゃうくらいの笑顔に、とってもうれしくなっちゃいました!


「うんっ!」

「う、うん!」


「同じ年くらいに見えるけど、お友達かしら~?」


「うんっ! 同じ孤児院なのー」

「なのー!」


「あらあら、そうなのね~♪」


 だいたいの人は、「孤児院」って聞くと少しだけごめんなさいな顔をします。 わたしも、ちょっとだけズキンとするんだけど……。

 でも、お姉ちゃんは変わらずにニコニコしています!


「うんっ♪ そうなのー!」

「なのー!」


 アリスちゃん、さっきから同じコトしか言ってないよー?


「孤児院は、ここから近いのかしら~?」


「ううん、ちょっと遠いのー。 でも、この市場が安いってマールお姉ちゃんが言ってたのー」

「いってたのー」


「あらあら、そうなのね~。

 ……という事らしいですよ、おじさま?」


 お姉ちゃんは急に、お店のおじさんに何か言いました。 なんだろう?


「えっ? あー、参ったなぁ。

 ……よっしゃ、俺も男だ! 可愛いお嬢ちゃん達に、いっぱいオマケしてあげようじゃねーか!」


「ふふふふっ、ありがとうございます……素敵なおじさまっ♪」


「おおうっ!?

 な、なななに! 大した事じゃねぇさ! わはっはっはっはーー!!」


「……さあ、素敵なおじさまが、いっぱいおまけしてくださるそうよ?

 お姉ちゃんが手伝ってあげるから、いいものをいっぱい買って帰りましょうね~」


「ホント!? わーい♪ おじちゃん、ありがとーー!!」

「ありがとー!」


「おうっ!! もうこうなったら、好きなだけ持って行ってくれぃ!」


「は~い♪」

「はーいっ♪」

「はーい!」


 そしてわたしたちは、少し顔の赤くなったおじちゃんのお店で、いっぱいお買い物をしました。




「セフィお姉ちゃん……ホントにいいの? おうち、こっちじゃないんでしょ?」

「遠いよー?」


「チャロちゃん、アリスちゃん。 気にしなくていいのよ~?

 私も孤児院に遊びに行ってみたくなっちゃったから、これはついでなのよ~」


 市場からの帰り道。

 マールお姉ちゃんからもらったお金で、買えるだけ買ったらものすごーく多くなちゃって、アリスちゃんと二人でも持てなくなっちゃいました。

 すると、名前を教えてくれたセフィお姉ちゃんが、孤児院まで帰るのを手伝ってくれることになりました。


「お姉ちゃん、ありがとー!」

「ありがとー!」


「うふふふっ、どういたしまして~」



 ――――これが、わたしと奥さまとの、初めての出会いでした。




**********



 もうすぐ二年になる、王都での暮らし。

 すっかり慣れてしまった帰り道を歩きながら、わたしはあれからのコトを思い出していました。


「わたし、春になったら、あの時の奥さまと同い年になるんだ……」


 あの頃の奥さまを思い出しながら、自分の身体を見下ろしてみる。

 お腹から靴まで、すんなり見えた。


「……」


 絶望的な奥さまとの違いに、ガックリするわたし。

 マールお姉ちゃんも最近は……なってきてるし。


「わたしも、もっとジャスさまをぎゅーってしたら、お姉ちゃんみたいになれるかなぁ……」


 ちょっと重くなったような気がする買い物カゴを持ち直して、またあの頃を思い出します。

 げ、『現実とーひ』じゃ、ないよ?




**********



 ――あの日から、セフィお姉ちゃんが孤児院に遊びに来てくれるようになりました。


 とてもキレイでやさしいお姉ちゃんは、すぐにみんなの人気者になりました。

 マールお姉ちゃんよりも年上のセフィお姉ちゃんは、他のお兄ちゃんやお姉ちゃんたちといっしょに、わたしたちと遊んでくれたり、小さい子のお世話をしてくれたりしました。

 わたしのたんじょう日にもお祝いしてくれたし、そのすぐ後にこわい魔獣とかがいっぱい町に来たときも、おねえちゃんはわたしたちが避難するのを手伝ってくれました。

 そのとき、旦那さまがわたしたちの孤児院を守ってくれたことは、旦那さまが入院してセフィお姉ちゃん――奥さまがお世話に行くと言ったときに知りました。


 あの時は「なんでお姉ちゃんがお世話に行くんだろう?」って思ったけど、もともと旦那さまと奥さまは、小さい時から仲がよかったみたい。 幼なじみだったんだね。

 そして、旦那さまが退院して王都へ行くことになって、同じくらいに奥さまのお腹に赤ちゃんがいることが分かって、秋になって奥さまが成人になった日にすぐ結婚することになって。

 それから、マールお姉ちゃんがメイドさんになって、旦那さまや奥さまと一緒に王都へ行くことになって……。


 孤児院のお兄ちゃんお姉ちゃんの中で、マールお姉ちゃんがイチバン大好きだったから。

 それに、奥さまのことも大好きだったから。

 わたし、お姉ちゃんにしがみ付いてわんわん泣いちゃって。

 そしたら――。



「セフィ……いえ、奥様。

 失礼ですけど、お願いが……」


「何かしら、マールちゃん?」


「あの、もし、できれば……チャロアも、一緒に連れて行っていただけませんか?

 チャロアは奥様を慕っていますし、何より私だけでは荷が重いかもしれませんから、できれば手伝いとして」


「ぐすっ……えぐ……え?」


「確かに、チャロアはまだできる事は少ないですけど、私が責任を持って仕事を教えます!

 ですから、お願いします!!」


 泣きじゃくるわたしの横で、マールお姉ちゃんは奥さまに、深く頭を下げてお願いしてくれました。


「……顔を上げて、マールちゃん」


 わたしはその時、涙でぐちゃぐちゃだったからよく見えなかったけど……顔を上げたお姉ちゃんと奥さまは、しばらく見つめ合っていたみたいでした。

 そして。


「……チャロちゃん」


「ひっく……は……はい゛ぃ」


 奥さまはわたしの前にしゃがみ込んで、じっとわたしを見つめます。

 ここで泣いてちゃいけない、と思ったわたしは、なんとかガンバって顔を上げました。


「チャロちゃんは……マールちゃんと、私と。 一緒に、行きたい?」


「うぅ……ぐすっ……うんっ」


「遊びに行くのではないわよ? これは、お仕事なの。

 とっても大変かもしれないけれど……チャロちゃんは、がんばってお仕事できるかしら?」


 それは、ずっと優しく笑っていた奥さまがわたしに初めて見せた、すごく真剣な目でした。

 だからわたしも、つっかえるのどを振り絞って、本気で答えました。


「は……はい゛っ! わたじぃ、が……がんわ゛りまずぅ!」



「――そう、分かったわ。


 チャロちゃん。 チャロちゃんも、私達と『家族』になっていただけませんか?」


 わたしに伸ばしてくれた優しい手。

 もちろんわたしは、その手を両手でぎゅっとにぎります!



「……は、はいっ! よろしく、おねがいします!」


 わたしはこうして、メイド『見習い』になったのです。




 それから孤児院を出て王都に行くまで、わたしは毎日家事の勉強をしながら引っ越しの準備をして。

 そして生まれて初めて町を出て、王都に来て、お屋敷を整えて、ジャスさまとセーレさまが生まれて。

 本当にいろんなコトがあって、思ってた以上にずっと大変だったけど――。


 ――――わたしは今、すっごく幸せですっ♪





「チャロちゃ~ん? このキノコ、頼んでいないのだけれど~」


「ご、ごめんなさーーーーいっ!!」



 わたしから『見習い』が取れる日は、まだまだ遠いみたいですぅ……。





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