48 温かい以上に、熱かった
冬といえば、寒い。
ほとんどの人が、というか皆そう言うだろうと思うが、俺は否を唱えたい!
冬は温かいのである。 ちなみに誤字にあらず。
「あ~♪」
「あー!」
「あ~っ!」
葉を落として寒そうにしている庭の木々をよそに、俺達兄妹は暖かい部屋の中で、お袋が両手で文字の書かれた紙を掲げて読んでいるのに続いて、同じように大きな声で読んでいた。
お袋お手製の、文字を覚えるためのカードである。
俺は既に日常的な文章なら難なく読めるが、気にしない。 セーレたんの勉強にお付き合いだ。
ちなみにマールちゃんはお袋と一緒に床に座っていて、俺達はその対面。
チャロちゃんは、リビングで暖房の調整をしているらしい。 ありがとねー。
「め~♪」
「めー!」
「め~っ!」
この部屋に皆が集まる時間が増える、この季節。
寒さなんて気にならないほど暖かく、それ以上に温かい。
「ま~♪」
「まー! ……って」
間○平かっ!?
我ながら珍しくマジメな事を考えてたのに、台無しになっちゃった!
「ままぁ~♪」
「は~い、よくできましたね~」
「セーレ様も、よくできました」
「むー」
「きゃはっ」
お袋が俺の頭を、マールちゃんが妹様をなでてくれる。
妹様はお喜びだが内容が内容だけに、口に出してツッコめない俺は微妙な気分である。
「は~い、次は数字で~す♪」
俺がもにょもにょしている間に、お袋の授業は次のステップへ。
文字が書いてあるのとは別の紙の束を、マールちゃんから受け取るお袋。
「それじゃあジャスちゃん、これは何かな~?」
「さーん!」
俺に向かってカードを見せてくれたので、すぐに答える。
……別にアホな顔はしてないぞ。
「正解です、ジャス様っ」
カードを持つお袋に代わって、マールちゃんがなでてくれた。 いぇい。
「次はセーレちゃんね~。 これは何かな~?」
「うゆ~。 ……にー!」
「よくできました~♪」
「セーレ様もえらいですよっ」
「ひゃあん♪」
セーレたんもなでなでされる。 えらいぞー!
「じゃあ、次はジャスちゃんね~。」
またカードを見せられる……が。
「……」
「あら~、難しかったかしら~」
いや、分かるけどさー。
「……きゅー」
「せいかい~」
「凄いですっ、ジャス様ぁ!」
ぎゅ~っと抱き締めてくれるマールちゃん。 アレ、またちょっと大きくなった?
まあ、それはいいんだけど、そのカード――。
『三の二乗』って書いてあるんですけど!
二歳児に出す問題じゃないよね?
「はいっ、次はセーレちゃ~ん」
俺が更なるもにょもにょに襲われながら別のもにょもにょを堪能していると、次はまたセーレたんに問題が。
うーっ、マールちゃんの身体でカードが見えない。
「うにゅ~。 ……ち~う♪」
――『ちう』?
「十」か? それとも「九」か? ……まさか、「兆」じゃないよね?
「せいか~い。
じゃあセーレちゃん、ど~ぞ~♪」
「あぃ~!」
んん? 何がどーぞなんだ?
「おにぃ~!」
「……ん?」
なんだかよく分からないが、セーレたんに呼ばれたのでマールちゃんに抱き付かれたまま振り返ってみる。
「ちゅ~~~~~っ♪♪」
……。
……。
――――っ!?
「んんんーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?」
「ん~~っ♪」
「んぅんんんぅーーーーーーーっっっ!!!!?」
「ぷはぁ♪」
「……」
「おにぃ~!」
「ふふふふふっ♪ お兄ちゃん、とても好かれているわね~」
「な、なんて、うらやま……い、いえ! そそそそ、そうですねっ!!」
「……」
「……おにぃ~?」
「あら? ジャ――――どう――……」
「――様っ!? ジャ――……」
「…………」
ああ。 頭が真っ白になっていく。 ちょっと気持ちがいいかも知れない。
いつぞやのマールちゃんも、同じような心境だったのね。
俺は生まれて初めて、失神した。




