46 天たかく、声ひびく秋
芸術の秋、といふ。
前世ではそうだったのだが、こっちでもそれはあるのだろうか?
暑い日がなくなり、葉や草の先から少しずつ色が変わり始めた頃。
「ああっ! この木のはっぱがじぇんぶ落ちたとき、わたちはきっと死ぬんだわ……」
「おにぃ~、ちぬの~?」
「……いや、死にゃにゃいからね?」
外から入ってくる涼しい風に銀色の髪をなびかせ、窓越しに午前の青空を見上げながら呟いてみる。
だがこのネタは、どうやら滑ったらしい。
セーレたんのツッコミが何気に痛い……。
俺達の髪もずいぶん伸びてきて、この前メイドちゃんズに髪を切ってもらった。
特に妹様の髪の伸びは早く、まだベリーショートではあるけど非常に女の子らしい髪型になった。 耳が隠れるくらいの長さだ。
やっぱりお袋と髪質が似ているのか、ちょっとウェーブがかっていてオシャレに見える。
可愛さが加速度的に増していくな……。 今でもこんなに可愛いのに、あと五年も経ったらどうなっちゃうんだろう?
SP付けるか顔にモザイクかけないと、危なくて外に出せなくなるんじゃないか?
モザイクは何だかアレなので、俺がSPできるように頑張ろう!
ちなみに、俺も多少伸びてきている。 髪の密度はあるので頭皮が見えたりはしてないが、耳まではとても届かない。
まあ男だから短くてもいいんだが、ここまで伸びに差があると不安になってくるな……。
俺、年取ったらハゲるんじゃね!?
うぅ~。 今から心配しても仕方ないのは分かってるが、親父の頭の具合には今後要注意である。
……言っておくけど「具合」って、あっちの意味じゃないよ?
いや、そっちもか? どっちもだな。 うん。
いつもの事ながら順調に話がそれてしまったが、なぜ芸術が云々と言ってたかというと、当然理由がある。
数日前のことだ。
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「――――え?」
「そうなの~ジャスちゃん。 え? なの~」
別に話を聞き逃したとか、そういうのではない。 『え』なのである。 つまり絵ね。
なんか、お袋の近所の知り合いの知り合いレベルの繋がりで、なかなか良い絵を描く若い絵描きさんがいるらしい。
それで、その人の絵を見せてもらって気に入ったお袋に、近所の人から俺達の肖像画を勧められたらしい。
まだ有名な人ではないし、その知り合いの人からの紹介だからと格安で引き受けてくれるらしく、お袋も一生の記念になるからと快諾した――という話だ。
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――で、俺達兄妹は絵のモデルになるべく、髪を切ったりちょっと良い服を用意してもらったりしている訳だ。
なんか、いかにもセレブらしいイベントが発生したものである。
そして当日。
「さあ~、できたわよ~♪」
「おにぃ~♪」
お袋に着付けをされたセーレたんは、純白のドレスに身を包んでいた。
二歳児サイズに合わせて作られたそれは、子供用にも関わらず非常に繊細で豪華な造りをしている。
上半身はビスチェタイプで肩と腕が露出していて、デザインはシンプルだが細かい刺繍や小さな花飾りがいくつか散りばめられている。
腰から下は、腰回りからふんわりと膨らませるバルーンスカート。 丈の長さは床に着くくらいだが色々な長さの薄い生地を複数重ねることで、複雑なフリルを作っている。
生地の光沢が全体的に抑えられているために、セーレたんの金髪の光沢がより引き立ち、その頭上にはシルバーの小さなカチューシャ・ティアラがちょこんと乗せられている。 うん、まさにお姫様だ。
窓から差す太陽の光を正面から受けて、セーレたん本人はもちろんのこと、その周囲までキラキラと輝いて見える。
「おおおおおぉぉぉーーーーーっ!!!?? かわいーじょーー♪」
「わぁ……とてもお綺麗ですよ、セーレ様っ!」
「うんうんっ! 本物のお姫様みたいですー♪ 私も着てみたーい!!」
お袋が張り切って良いのを借りてきたって言ってたけど、ここまでとは……後ろ向きに倒れそうになったぞ、俺。
俺の着付けをしてくれていたメイドちゃんズも、目を輝かせて大絶賛だ。
ちなみに俺は……。
「あらあら、ジャスちゃんもよく似合ってるわ~♪」
「あぃ~! おにぃ~! おにぃ~~っ♪」
「はい、とても凛々しいですっ♪ ……はぁ」
「ジャスさまも、すごくカッコイイですよっ!」
黒を基調としたタキシードである。 ……こんなの、前世でも着たことないぞ?
上下と靴は黒で、インナーのシャツは白、ベストとネクタイはグレーだ。 胸ポケットからは、同じくグレーのスカーフが覗いている。
俺も鏡で見たが、銀の髪の色と良く合ってるなと思った。 すげぇ服だなー。
「おにぃ~!」
走らないようにお袋に手を繋がれたセーレたんが、とことこと俺の元へやって来る。
すぐ近くまで来ると、お袋から手を離して俺に向かって飛び込んできた!
「せーれたーん!」
俺はもちろん、両手を広げてウェルカム! おお、我が姫よ!!
そして――。
ひしっ♪
「「「きゃああああああーーーーーーーーんっっっ♪♪」」」
俺達が熱く抱き合うと、嬌声にも似た三人の黄色い声が屋敷の外にまで響き渡った。
「おにぃぃいいいい♪」
「せーれたぁああああん」
――――なぁ、お袋達。
このまま、教会に行っていいですか?
**********
その頃。
王都で最も荘厳で大きな建物の敷地内では――。
「ぬぉぉぉぉおおおおおおおああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!!!」
「……隊長、今日はいつにも増してキてますねぇ」
「練習用の杭に、剣をモーレツな勢いで叩き付けてる……」
「先程、宰相様が直々にお見えになりましたよ。 『アレ、大丈夫なのか?』と」
「あ、剣が折れた」
「のおおおおお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ーーーーーーーーーっ!!!!」
「今度は嵐のようなローキック……」
「隊長、目が完全にイッちゃってますねぇ」
「あ、今『ゴキッ』っていったぞ?」
「……私、医者を呼んできますね」
「な゛ああああああああああああ…………っ!!!!!」
「――ああ隊長。 やっぱりか……」
「あっ、副隊長! お疲れ様です!」
「あの……副隊長? やっぱり、とは」
「いやね。 今日、隊長のお子様が――」
「「「なるほどー」」」
「……理解が早くて助かる」
「まあ、絶対そうだとは思いましたが」
「それ以外ないもんな」
「最早常識ですよ」
「あ゛あ゛あ゛…………!!!
ぉおおおお俺も、見たいぞぉおおおあああーーーーーーっ!!!!!」




