44 実はプラズマ、なんてオチじゃないよね?
その日は朝から夜だった。
それはどこの○カボンだと言われるかも知れないが、ところがドッコイなのダー。
謎を解く鍵は、その前の日にさかのぼる。
**********
「――明日から明後日にかけて嵐が来るそうです」
その日の朝食の後、外の掃除をしていたマールちゃんが保安隊の人に聞いたと、部屋で俺達と遊んでいたお袋に報告に来た。
「あらあら~。 それじゃあ、急いで備えておかないといけないわね~」
片手を頬に当てて首を傾げる、いつのもポーズでお袋が言った。
「では、必要なものを確認して買ってきますね」
「私も手伝いましょう~。
……ジャスちゃん、悪いけれどセーレちゃんをお願いするわね~」
「はーい!」
「あぃ~!」
「奥様、助かります……ではジャス様、セーレ様、失礼しますね」
いろいろ必要な物について話し合いながら、二人は部屋を出て行った。
「さーて」
甚だ遺憾ではあるが、肉体年齢二歳半程度の俺では役に立てる事もない訳で。
せめて。
「せーれたん、おかたじゅけするおー」
「すりゅお~♪」
遊んで散らかったオモチャでも片付けるとしますかね。
ちなみにこんな事があったのは、俺が生まれてから二度目だったりする。
その時もお袋とメイドちゃんズが一日バタバタした後、窓を厳重に戸締まりして親父以外の全員がこの部屋に集まって一晩過ごした。
でも、当時の俺はまだあまり言葉も理解できなかったので、嵐が来るまで何が何だかサッパリだったけど……。
前回の事を合わせて考えるとこの「嵐」って、もしかしたら「台風」なんじゃないかと思う。
それだったら事前に予想もできるだろうし。
そういや……それが台風だとして、どうやって予想してるんだろう?
ここって海に面している街らしいから、ひょっとして熟練の漁師とかが予報士してるとか?
同じ気象予報士なら、できれば褐色のムキムキなおっさんではなく、小麦色のワイルドなお姉さんを希望したい所だ。
「おにぃ~♪ できら~」
おおっと、俺が考えに耽っている間にセーレたんが片付けてくれたらしい。
なんて賢いんだっ!
「えらいネェー、えらいネェー」なでなで。
「きゃあぁぁぁん♪」
何となく若返りそうな口調でなでなでする俺。 もう一度乳児に戻る気かッ!?
まあそれはいいとして、確認したらちゃんと片付けてくれているようなので―― セーレたんは「片付けられない女子」にならなそうで何よりだ―― もうひとなでして、俺も何かすべきかと考えてみる。
――うん、これくらいしかないな。
台風が来るようには見えない、晴れた空が見える窓を見て思いついたことをレッツトライ。
みよーーーーん。 かちゃり。 がちゃ。
触手を両手から一本ずつ伸ばし、窓のロックを外して内側にオープン。
にょにょにょ~。 ぎぎぎぎぎー、バタンバタン。
更に窓の外の両側の壁に沿って、それぞれの触手を延長して鎧戸を掴むと、それを引っ張って鎧戸を閉める。 ……意外に重いな、コレ。
かちゃん、かちゃん、かちゃん。
鎧戸の内側にある、引っかけ式のロック三カ所を掛ける。
ききききー、ばたん。 かちゃり。 しゃーーーーーっ。
で、最後に窓を閉めてロックして、カーテンを閉めればできあがりっと。
うっわー。 我ながら便利な触手だこと。
これで感覚もあればもっと便利なんだが……ま、無理か。
どうやって神経通すんだって話だし、もし切断されたら激痛で『ギャアァァァァァ!』って、最早人間じゃねぇよそれ。
『ふやぁぁぁぁぁっ!?』
……ん? なんか、外から聞こえた?
――。
――。
たったったったった、ガチャン!
「じゃ、じゃじゃじゃっジャス様っ!?
い、いいいいい今っ!! こ、ここの窓がっ、ひとりでに閉まりませんでしたかっ!!?」
げっ、見られた!?
「ん、んにゅーーーー??」かくーん。
「うゅ~~?」かくん。
すまし顔で首を傾げてみる俺。 困ったときの力業っ!
何故かセーレたんも真似したので、二人並んで同じ方向に首を傾げる形に。
「…………。
ふあぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~っ♪」
するとマールちゃんは両手を頬に当てて、とろけた表情になって腰をくねくねし始めた。
なんか、君の方が触手みたいだぞー?
「か、かかかかわいいぃぃぃぃぃ~~~~~~~~っ♪♪
いやぁーーーーーーーーーーんっ!!!」
うおっ!! 唐突にマールちゃんがこっちに向かって、びよーーんと飛んできましたよっ!!?
しかも、飛ぶと同時に靴がすっぽ抜けてるし!
それに、その平泳ぎみたいな体勢……ま、まさか、それは幻のルパ○ダイブっ!?!?
「じやあぁぁぁぁす、しゃまあぁぁぁぁぁぁぁん♪」
一体何メートル飛ぶ気……うわぁ!!
「うわぁ!?」
「ひゃうんっ!?」
ばたーーーん!
「かわいいよかわいいよかわいいよかわいいよかわいいよきゃああああーーーーーーんっ♪♪」
「うわわわわわわっ!?!?!?」
「ひゃんひゃんひゃあん!?!?」
兄妹一緒に抱き締めて、モーレツな勢いですりすりしてくるぅぅぅぅ!!
なんてこった! マールちゃんが壊れてもーたっ!!??
「いやんいやんいやんいやんいやんいやんいやあーーーーーーーーーん♪♪」
「やめれーーーーっ!!」
「ひゃああぁぁんっ!!」
だ、ダメだっ!
マールちゃんに対して『萌え殺し』は危険すぎたっ!!
**********
――そんな事があって今日の朝。
実は、窓を閉めてて外が見えないから、実際どうなのか分からないんだが……。
でもたぶん、窓を開けたら暗い空が見えるだろう。
その日は俺が起きた時点で、既に窓の鎧戸がガタガタいう音が聞こえていた。
前の世界でも、強い台風が来たら街路樹が倒れたり床上浸水したりしていたくらいだ。
まして、ここは近世レベルと思われる異世界。
昨日のお袋やメイドちゃんズを見ていれば分かるが、この台風が過ぎるまでは街の機能がほぼストップしている可能性が高いだろうなと予想がつく。
まだそれだけならいいけど、この家や街が台風の風雨に耐えられるだけの強度や設備を持っているかどうかが問題だ。
でないと最悪、千を超えて万単位の犠牲者が出かねない。
……ま、まあ、去年の台風も無事にやり過ごしてるから、たぶん大丈夫なんだろうと思う。 思いたい。
考えれば考える程怖くなってきた俺に対し、昨日のお袋達がやってたのは備品や食料の確認と買い足し程度だった。 外から板を張り付けて窓を覆ったりなどもしていない。
しっかりしているハズのお袋達がそうなのだから、本当に大丈夫なんだろう。
それに……ここは魔法があるらしい世界だ。
ひょっとすると、もの凄いファンタジーな方法で何とかするのかも知れん。
リアルで神様の加護がありますっ! とか。
「ままー」
「うん? 何かしら、ジャスちゃ~ん」
「おそと……こあい。 らいじょふー?」
「ふふふっ♪ 大丈夫よ~。 いざという時は、〈聖母様〉が護って下さるわ~」
「わぁー。
……。
……んんぅ?」
ちょっと待て?
一瞬、お袋は『聖母がみんなを護ってあげる~♪』的なニュアンスで言ってくれたのかと思ったが、違うよね?
お袋を「聖母」って呼んでたの俺だけだし。 しかも心の中限定。
「……しぇーぼしゃまー?」
「ええ~♪ 特にこの街には、聖母様がいらっしゃいますからね~」
「しぇーぼひゃまって、にゃにー?」
「この国と王都を護って下さる精霊様のことよ~」
「えっと、かみしゃまってことー?」
「よく知ってるわね~。 〈神様〉って呼ばれることもあるけれど、特にこの国を護って下さる精霊様は『聖母様』とお呼びするのよ~」
う、うーん? いわゆる、土地神とか産土神みたいなもんだろうか。
ご当地の精霊信仰を、国が神様にして国教化したとか。
……あれ? つーことは、たとえ何があったとしてもマジで「神」頼み!?
「ええ~。 だから、もしもの時はお城から飛んできて下さるわ~」
「うぇっ」
と、飛んでくる? ……実在するのぉ!? 思わず、出川○朗みたいな声が出ちゃったぞ。
ああ、ヒンドゥー教の「神の化身」みたいなヤツかな? 生まれ変わり、もしくは転生と言ってもいいか。
それか、ひょっとするとよくあるファンタジー世界の「巫女」みたいに、特別な魔法使いの人がいるのかも知れんな。
あれ? そういえば「精霊」って、実在してるみたいな事が図鑑に書いてなかったか? ドラゴンと一緒に。
確か『〈マナ〉を核として肉体や寿命を持たず、強大な魔力とヒトと同等以上の知能を持っている存在』だったか。
そんな精霊が人間に力を貸して云々、っていう童話はいくつもあったから、「精霊に力を借りられる特殊な魔法使いがいる」という説が有力か? そんな魔法の話も聞いたことあるし。
あるいは聖『母』っていう単語から考えると、人間じゃなくてその「精霊そのもの」の可能性もあるが。
まあどっちにしても、台風とか国難レベルを単独で何とかするとか、カンストレベルの人外もいいとこだな……。
「ほぇー。 ままは、あったことありゅのー?」
「ママはないけれど、パパはお城でお会いしたことがあるらしいわよ~」
「ほぇほぇー」
すっげえ! そんなトンデモキャラがいるなら、そりゃ大丈夫だわ。
さすがファンタジー。
「ふふふっ。 安心したかしら~?」
ガタガタッ!
「ふやん!? お……おにぃ~っ!!」
「おうっ!? おーよひよひよひ~」
急に強い風が吹いたらしく、窓の鎧戸が一際大きな音を立てた。
それにビックリして、俺にしがみつく手に力が入るセーレたん。
……実は、妹様は朝からずっとこうだったりする。
俺もずっと台風の脅威について考えてたから、もし抱き付かれてなかったら俺の方から抱き付いてたかも知れん。 今はもう力が抜けたが。
そんな国難は、安心してチート様にお任せする事にしよう。 二歳児の俺にはどーしようもねぇもん。
できるのはせいぜい……。
「らいじょぶ、らいじょぶー」こちょこちょ。
「きゃうん♪ ひゃんひゃ~ん!」
こうやって、妹様を笑わせてあげる事くらいだ。
それで十分だぜ!




