31 2さいしゃべりばぁ
※前半の会話について、念のためタイトル画像のリンク先に翻訳Verを用意してあります。
昼下がりの部屋の中。 ぽかぽか陽気が心地良すぎてヤバイ。
間食でちょっとお腹いっぱいな俺は、運動以外の事をしようと考えた。
急に動くと、ぽんぽん痛くなるしねー。
「ひょうは、ひゃべう れんしゅー ひゅるじょー!」
「ひゅ~じょ~?」
「うむ、せーれたんも しゅるかー?」
「ひゅるは~♪」
うむ、セーレたんもやる気満々のご様子。
ならば眠気を吹っ飛ばす勢いでやろうではないか!
「よーひ! じゃ、いくじょー!
しゅいー、ちゅー、わーん、へい!」
「……おにぃ~?」
急にリズムを取り始めた俺を、きょとーんとしたお顔で見つめる妹様。
まあまあ、ちょっと見ていて下さいな。
「きゃう~♪」ぱちぱち!
軽く身体を左右に振りながら、イントロを口ずさむ。
俺様のイカしたサウンドに、セーレたんもノリノリである。
……じゃあ、行ってみようか♪
「にゃまうぎ、にゃまごえ、なまたみゃぎょ!
にゃ、ひゃあぅぃ やぁぉぇ、ぁ、ゃ…………」
「ぅ?」きょとん。
げふぅ。 一回目すらまともに言えてねぇ!
セーレたんも、いきなり意味不明な事を言い始めすぐに意気消沈した俺を、不思議そうに見ている。
やはり二歳になったばかりで、早口言葉はハードルが高かったか……。
「……やっぱ、はやくちことびゃは むいかぁ~。
じゃんえん!」
「しゃんねん~? おにぃ~?」
「うぐ。 ……まうで、おれが じゃんねんい きこへるぅ」がっくし。
「おにぃ~!」ぺしぺし。
「うぅ~、ありあとーな。 ……ちうか、おれ おちこんらの、せーれたんお しぇい?
おとひて あげう……なんて、おしょろしーこ!」
「おひょ~ひ?」
さ、さすが妹様! なんて見事な人心掌握術だ! 将来はきっと大物になるヨ!
……胸にグサリと来たけどね。 ぐふっ。
「……まぁ、いーか♪」
「い~か~♪」
だ、だが、この程度でくじけてはいけないのだっ!
俺の事はこの際置いておくとしても……うん、後で練習するから。 練習しよ。 ぐすん。
とにかく、セーレたんの練習が優先なのである!
皆の知らない間に言葉をマスターして、驚かせてあげよう♪ 名前を呼ぶなんてどうよ?
さて、誰から教えようか? ……あ、セーレたんって、自分の名前知ってたっけ?
「まじゅは、みんあの なまへから いえうよーに なりょー!」
「なよ~♪」
「さいひょは、せーれたんらー!
……せーれ」ぴしっ。
セーレたんを指差してみるが。
「おにぃ~♪」
おーう。 やっぱり分かってなかったか。
じゃあ、そこからスタートだな。
「ちがう、ちあう! ……おにぃ~と、せーれ」
「……おにぃ~?」
「うん♪ おれ、おにぃ。 きうぃ、せーれ」ぽんぽん。
「おにぃ~」
うん。 俺の事は分かってくれてるから、俺の事は自分を指差して、セーレたんには肩を叩く事で分かりやすく教えてあげる。
「おにぃ。 ……せーれ!」ぽん。
「……へ~れ?」かくん。
おっ、分かってくれたか?
「そ♪ おにぃ、と、せーれ!」
「おにぃ~。 ……しぇ~え?」
「うん、せーれ」
「へ~れ~……」
「せーれ」
「しぇ~~れ~」
よしよし! それでいいんだよーと、頭を撫でで褒めてあげる。
「せーれ♪」なでなで。
「きゃう~っ♪ しぇーれ!」
「そ! えーれ! と、おにぃ」
「しぇーれ! おにぃ~♪」
セーレたん、一度理解すると早いな! 凄いっ!
あとは繰り返して完全に覚えるのみ。
「いいこだ~!」なでなで。
「やんやん♪」
「せーれ!」
「ひゃい~! しぇーれ~♪」
「うんうん!」
「おにぃ~! おにぃ~♪」ぺちぺち。
「おう、せーれ♪」なでなで。
「きゃんやんやぁ~ん♪」
**********
――そして夕方。 その時は来た。
コンコン。
ガチャ。
「……ジャスさまー、セーレさまー、起きてますかー?」
入っていたのはチャロちゃんである。
フッ、誰が来ても備えはバッチリだぜ。
さあ、行くのだセーレたん!!
「あいー」
「ちゃお~♪」すっく!
呼ばれですぐに、チャロちゃんの名前を呼んで返すセーレたん。 と同時に立ち上がる。
……だってさー、まだ発音がしっかりしてないから、せっかく名前を言っても分かってもらえないかも知れないでしょ?
そこで! なんと!!
名前を呼ばれたら、すぐに立ち上がって抱き付くように言ってあるのだっ!
「あはっ♪ お返事、エライですねー!」
「ちゃお~!」てくてく。
ほーら。 やっぱり気付いてないよチャロちゃん。
しかもいきなりセーレたんが近づいてきたから、ちょっと首を傾げている。
さあセーレたんよ、しっかり教えてあげるのだっ!
「ん? セーレさまー?」
ぴとっ!「ちゃお~! ちゃお~♪」
「……ちゃお??」
「ちゃお~♪」ぺちぺち!
チャロちゃんの脚に抱き付いて、何度も名前を呼ぶ。
さすがに気付いただろう……?
「……ええっ? ま、さかっ……わ、わたし?
わたしの、名前っ!!?」
「ちゃお~!」
「……きゃあーーーーーーーーっ♪
スゴイっ! スゴイっ!! スゴイっっ!!!
キャーーーーーーーーッ!!!!♪♪」
イエス、やったぜー!
妹様が足元にいるから、飛んで喜べないチャロちゃんは万歳三唱状態。
と、そこへマールちゃんがやって来た。
「――――ちょっと、どうしたのよチャロ? そんな大声出して……」
「お、お姉ちゃんっ!! せ、せせせセーレさまがっ! セーレさまがっ!!」
「だ、だから落ち着いて……」
「せせ、セーレさまがっ! わたしのっ! ……わたしっ!! イったの!!
わたし、イったのーーーーーーっ!!!!!!♪♪」
「ちょっ!?
……な、ななななな、何言い出すのよいきなりっ!?!?!?!?」
ぶっ!!? そ、そのリアクションは想定外だ!!
俺も吹きかけたわ!
「イったのっ!! わたしっ! セーレさまっ! なまえーーっ!!」
「だからそんな――――え? ……名前?」
「うんっ! セーレさまがっ! 呼んでっ……!」
「ちゃお~……?」
「ふわっ!? セーレ様っ……本当にチャロの……!」
「きゃああぁっ♪ スゴイですっ! セーレさまあぁぁぁーーー!!♪」ぎゅうぅぅ~~っ!!
「きゃうんっ♪ あ~ぅ~!」
ようやく意味を理解できたマールちゃん、足元のセーレたんをぎゅっと抱き締めて褒めてくれる。 スゴイでしょー?
と、そこで俺は思いついた。 俺も、マールちゃんを驚かせてやろう♪
二人の視線が妹様に集中している隙を突き、俺もマールちゃんの所へてくてくと向かい、ぴとっと抱き付いてみる。
「……っ! じゃ、ジャス、様……?」
「…………まーる」
「――――――――――――へっ」
おっと、いきなりすぎたか?
ならば、気付いてくれるまで連呼するのみっ!
「まーる」
「え……な…………」
「まーる♪」にっこり。
「じゃ…………じゃ、ジャス、さ……ま……?」
「まーる!」
「ふわわわわあっ!?!?!? じゃ……じゃっ、じゃ……さっ……っ!!?
じゃ、じゃじゃっじゃっ…………ささ様…………が、が………………わたっ……わた…………し…………の……――――」
――――ぱたり。
「…………え゛」
「……お、お姉ちゃんっ!?」
「まーう? ……おにぃ~?」
ちょ、ちょっと、マールちゃん!?!?
気付いて満面の笑みを浮かべたと思ったら、段々顔を中心に耳、手、足の先まで真っ赤になり、頭の上から煙でも出るんじゃないかー? と思った途端……倒れたぞ?
まさか失神したっ!?
「や、やば……」
「おにぃ~? まいうー?」
いや、「まいうー」は違うぞセーレたん?
チャロちゃんがマールちゃんの肩を揺するが、彼女は真っ赤な顔に恍惚の表情を浮かべたままぴくりともしない。
若干白目をむいているのがちょっと怖い……。
「ね、ねえ……? ねえ、お姉ちゃんっ!?
お姉ーーーちゃあーーーーーーーーーんっっ!!!!???」
ごめん、やりすぎた。




