29 この世界に生まれて
何時しか雪が降らなくなり、開け放った窓から日差しと共に暖かな風が入ってくるようになったこの日。
俺達兄妹の部屋の隣、つまりリビングでは、朝から賑やかな音がずっと聞こえてきていた。
「ジャス様、セーレ様、今日はお二人がお生まれになってちょうど一年……二歳のお誕生日です。
今夜はお祝いを致しますから、楽しみにしていて下さいね」
「……ぉおーっ」
「おにぃ~?」
おおっ! 何と、今日が誕生日!?
たかが一年されど一年。 これ程長く、でも楽しかった一年があっただろうか?
まさか、異世界で迎える事になるとは……ま、想像できるハズもないか。
思えば遠くへ来たもんだ。 距離的には那由他くらいだろうか? ……那由他くらいやん? なんか名馬っぽくなった!
じゃあ……主役は主役らしく、大人しく待っている事にしますか。
暇つぶし、その一。
魔力で何か作ってみた。
今日は御仏に感謝したい心境なせいか、何故か仏像にチャレンジ!
「…………」
「きゃぁ~♪ おにぃ~!」
――――結果。
アフロなロックンローラーになりました。 しかも大・中・小と三体。
何故こうなった?
「あ~う~♪」ぺちぺち。
まあ、セーレたんはお喜びのようなので、これはこれで良し!
暇つぶし、その二。
適当に落ちている本を拾って読んでみた。
すっごく地雷のような気もするが……そこを敢えて全力で踏み抜くのが俺クォリティー。
「えっほー……ひゃにひゃに?
……。
……。
『や ら な い ひゃ』……ぶっ!!」
またかーーーーーーーっ!!!!??
前に俺、ちゃんと本棚に仕舞ったよな!? 何故また出てる!
読んだのか? 誰か読んだのかぁーーーーーっ!!??
「おにぃ~♪ おにぃ~♪」ひしっ。
って、なんでか分からんが妹様に抱き付かれましたよ? 普通に嬉しいけどな♪
む? これは、誘っているのか? ……やってほしいんですか?
本当に、やってほしいんですかっ!?
暇つぶしその三。
触手プレイ。
「よーしよひよひよひよひ……♪」
「あひゃひゃひゃあ~~~ん♪ きゃあきゃあ~~♪♪」
うむ、この上なくお喜びでいらっしゃる。
何だろう? 俺、今……すっごく、○ツゴロウさん的な気持ちになってる。
悟りでも開いたのか? つーか、触手で開く悟りの境地って何だ? 人体の内部みたいなイメージしか湧いてこないんだが……。
ちなみに今やってるのは、二メートル四方程度の薄いウォーターベッドみたいなのを作ってのトランポリンごっこ。
表面の触手っぽいイボイボが、適度にツボを刺激します。
更に、落ちそうになったら触手が助けてくれるという安心設計。 くすぐるだけが能ではない!
だけど、作る際に自前ではちと量が足りなかったので、空気中からも魔力をかき集めた。 なかなかの力作でしょ?
「ひゃうん、ひゃうん♪ きゃうん、きゃう~っ!」
たぷんたぷん、ぽよんぽよんな感触がお気に召したようで、何よりだ。
それにしても、まるで波に揺られながら遊んでいるラッコのようで、とても癒されますなー♪
無論、セーレたんの方が断然可愛いがな!!
――てな事をしている間に日が暮れて。
ノックの音に続いて、オレンジのようなピンクのような髪がにょっと入ってきた。
「ジャスさまー、セーレさまー、ご飯ですよー♪」
危うく触手? が見つかりそうになったので、急いでズズーっと体内へと吸い込む俺。 妹様は難なく絨毯にソフトランディング。
……あれ? 今、俺、自分の容量以上の魔力を吸い込んでね?
良い感じでお腹が減ったのだろう、ご機嫌のままうん……しょ! と、何とか持ち上げられる妹様。
そろそろ、小柄なチャロちゃんにはきつくなってきたか。
で、俺は微妙に首を傾げながらマールちゃんに抱き上げられた。
で、とうとうやって来ましたパーティ会場。
……とは言っても、別に壁とかに飾り付けはしてないから、部屋の中はいつも通りなんだけどね。
でも、テーブルクロスはいつもの白からファンシーなピンク色のひらひらな物に取り替えられ、中央には庭から取ったのか、最近咲いたばかりの黄色い花が何輪か。
その周りには、テーブルいっぱいに並んだ色取り取りのご馳走!! 当然ながら、俺達のは離乳食だがなー。
だけど、その離乳食も色鮮やかで、いろんな物が入ってるっぽい。
ちなみにケーキはない。 これは文化の違いだろうな。
俺を右側、セーレたんを左側――いわゆる「お誕生日席」に座らせると、既に決まっているのであろう椅子の後ろに立つメイドちゃんズ。
そして、いつもと違う綺麗な服で着飾って、テーブルを囲んで立っているのは――――。
「ジャスちゃん、セーレちゃん……お誕生日、おめでとう♪
元気に育ってくれて、本当に、ありがとうね~」
俺のすぐ右側にいるのは、お姫様のような純白のドレスに身を包んだ、普段の二〇〇%増しで微笑むお袋。
ちょっと、涙ぐんでる……?
「誕生日おめでとう! あんまり構ってあげられなくて、ご免な」
お袋の向かい、妹の左側には親父。
あれ、今日も仕事じゃなかったか? つか軍服着たままって……まさか、抜けて来たのか?
「お誕生日おめでとうございます♪ ジャス様、セーレ様。
本当に……本当に、大きくなら……、なら、れ……まし…………っ」
親父の左側、俺達からは遠くなる方の隣にマールちゃん。
いやいや! ちょ、ちょっと、泣かないでよ! ……参ったな。
「ジャスさま、セーレさま、お誕生日おめでとうございますー♪
……本当に、もうわたしじゃ、抱っこできなくなってきましたねー」
マールちゃんの更に左隣にはチャロちゃん。
もらい泣きしそうになったのか、指で涙を拭っている。
うーん……。
「ジャス様、セーレ様、お誕生日おめでとうございます。
私も、本当の子供のように嬉しく思っていますよ」
お袋の隣、マールちゃんの向かいには、いつもなら家に帰っているハズのアナさん。 赤いワンピース姿だが、私服なんて初めて見た。
俺達を見る目差しが、本当の母親のように優しい。
……。
「ジャスちゃん、セーレちゃん、お誕生日おめでとー!
また今度、一緒に遊ぼうねっ♪」
アナさんの横、チャロちゃんの向かいには、背伸びしてテーブル越しには肩から上が見えるエルネちゃん。
わざわざ来てくれたんだなー。 ママとお揃いの赤いワンピースに黒いチョーカーか。 最後のウィンクといい、さすがだ。
泣いちゃってる人もいるけど、俺達に向けてくれる表情は皆、満面の笑顔。
こんな誕生日、きっと、前の世界でも迎えた事ない。
――ヤバイな、こりゃ。
「……おにぃ~?」
呼ばれて左を見てみると、きょとんとした顔のセーレちゃん。
できる限りの笑顔を向けてあげると、妹も笑顔になった。
「きゃあ~♪ おにぃ~!」
――――ある日突然気付いてみれば、文字通り右も左も分からぬ違う世界。
しかも、自分一人では何ひとつ満足にできない身体で。
そんな俺を、皆は家族として受け入れてくれた。
たとえそれが、皆には当たり前の事だったとしても。
俺は、すぐには、それを受け入れられなかったけど……。
でも妹の、皆の、俺を見てくれる目差しを見て。
俺は今日、ようやく、本当の意味で『家族』になれたように思います。
「――――とぅ」
『……?』
「――ぃあとぅ」
『……!!』
「みんあ……あいあと!
……らいすき!!」
『――っ!!?』
「おにぃ~♪ あいしゅき~~! きゃあ~~~♪♪」
俺はこの世界で、この世界の人間として、生きていこうと思う。
『家族』と一緒に。
もちろん、妹様がイチバンだけど、な!!




