26 どっちも本当の姿
空は晴れ、最も暖かいはずの時間帯。
それでも息が白く曇る昼下がり、高度を下げ始めた太陽の下で。
「んじゃ、逝ってくるわ……」
愛する子供達にそっぽを向かれた想像を絶する悲しみを全身から漂わせ、とぼとぼと家を出る青年が一人。
「あ、あのあの!
……げ、元気、出してくださいねー!」
「……おう。 ありがとな、チャロア」
我が事のようにしょんぼりと耳を倒し慰めの言葉をくれた少女の、橙と桃の中間のような色の髪を上からぽんぽん、と軽く叩くように撫でると、青年は苦笑と共に曲がった背中をしゃんと伸ばし、しっかりとした足取りで自宅を後にする。
少女が尾紐に付けているのであろう小さな鈴の音がちりん、ちりーん、と、遠ざかる門の方から聞こえ、青年は振り向かずに右手を軽く挙げることで応えた。
商店が並び活気に溢れた通りを歩く青年に、行き来する街の者の多くが目を向け、道を譲る。
子供達は憧れを、男達は敬意を、女達は熱き視線を。
元々、見映えのする容姿である。
センチにすれば一八〇に届くであろう長身、銀色の短髪―― 今は上部が平たい帽子を被っているが―― に翠色の瞳は狼を思わせるが、浮かべる表情は精悍ながら優しさを感じさせる。
その引き締まった身体に纏うのは、蒼を基調とした丈夫な上着。 帽子も同様の色であり、どちらにも所々に黒や金色のラインがあしらわれている。
帽子の正面と左胸には、金色で逆五角形の中に戦乙女の横顔を象った〈ヘルヴィオール聖王国〉の国章、詰め襟の左右には所属と階級を表す記章。
下を見ると、左腰には黒い鞘に収められた直剣を帯び、蒼に黒のラインが入ったズボンと続き、黒のブーツを履いている。
先程の少し情けない出立風景を微塵も感じさせない、堂々とした出で立ちである。
……これには最早、熱い視線を送る女性の隣にいる男性達も、嫉妬を通り越して苦笑を浮かべるより仕方がない。
そんな周りの視線を慣れた様子で流しつつ、この勇姿を最も見て欲しい我が子の態度を思い出し、内心で苦笑いする青年であった。
遠くに見える「とある建物」の先端を見ながら、繁華街を通り抜け、大きな屋敷の並ぶ貴人区を抜けたしばらくの後。
一般には終業の目安とされる〈六時半時〉の少し高めの鐘の音が鳴り終わる頃――目の前に深い堀と壁、そして巨大な門が姿を現す。
その奥には、威容を誇る大きな建物。 ずっと歩きながら見ていた「目印」は、その建物の塔の一部である。
堀に架けられている橋を渡り、開かれた巨大な門まで辿り着くと、門の両側に直立不動で立っていた――彼と同じ服を着た二人の青年が、一糸乱れぬ動作で靴を鳴らすと同時にピシッと右手を頭の前にかざし、彼に声をかけてきた。
『お早うございます、ジェイド・オリオール小隊長!!』
「おう、お早う!」
彼も同じ動作で答礼し、門の中――フォルクバング城の敷地へと足を踏み入れた。
今日から数日の間、年末年始の行事の為に泊まり込みの勤務が続く。
子供達に会えるのは、新年を迎えてからである。
「うぉおおあああーーーっ、会いたいぞぉぉぉぉおおおおおおっっっ!!!」
『静かにして下さい隊長』
「す、すまん……って、見事に三人でハモったな」
「いえ」
「いつもの事ですので」
「正確に半時ごとに叫ばれる事で有名ですからねー」
「俺は時計代わりかっ!?」
『はい』
「……」




