23 題名のない演奏会
灰色の空から、雪が降っていた。
はらり、はらりと落ちてくるそれは不規則な軌道を描き、たまに強い風が吹くのか、渦を巻くこともある。
その度に窓が、カタカタと小さな音を立てる。
すっかり茶色と黄色に支配されてしまった庭は、しかしまだその色を保っていて、白くなる様子は見られない。
積もったらいいなー。
雪が降ると、ダイヤが乱れるから面倒だ――少し前まではそう思っていたハズなのに、今自分が思ったのは、童心に返ったような純粋な気持ち。
……まあ、そんな俺も悪くないか。 文字通り子供だしな。
横で眠る妹の頭を撫でながら、軽く笑った。
いくらブルジョワなセントラルヒーティングを完備しているとは言っても、現代日本のエアコンのようにはいかない……と思いきや。
鎧戸と、冬用に替えられた厚手のカーテンによって完全に外界から遮断された室内は、魔導具の明かりと意外にパワフルな暖房のおかげで、前の世界にも負けない快適空間を作り出していた。
この家をどんな職人さんが建てたのかは知らないが、見事な匠の技である。
そんな中、お袋はソファーにちょこんと腰掛け、毛糸で編み物をしている。
たまに俺達に目を向けて、にこにこと微笑んでくれる。
……もしもここに戦闘力を測る機械があったなら、きっと爆発したに違いない!! 五三万以上は確実である。
そして、俺達は何をしているかというと……俺は妹と二人で並んで床に座り、同じく二人で座っているメイドちゃんズと対面中。 女の子座りだ。
珍しい構図のように見えるかもしれないが、俺達が良く動き回るようになってきたので、膝の上から飛び出して遊ぶことも増えているのだ。
二人はそれぞれ手に違う物を持ち、俺達に話しかけてくる。
「……では、今日は私達で歌を唄いますね」
マールちゃんが片手に持つ四角い物は、俺の見た限りはハーモニカである。
「ぅあーーー?」
「きゃう~ぁ~~」
俺も妹様も、興味津々シンノスケである。
……意味分からん。
「じゃあ、最初はわたしから行くよー♪
何しようかなぁ~。 ……じゃ、お姉ちゃん。 最初は――」
マールちゃんは題名を聞くと、小さな唇をそっとハーモニカに添えた。
~♪ ~~~♪ ~~♪♪~~~~♪~~~~~~♪
意外にも、静かな旋律と歌い出しから入る。
ゆっくりとしたテンポと、優しい歌声。 たぶん、有名な童謡なのだろう。
初めて聞くのに、何だか懐かしい感じのする曲だ。
……そういや、童謡なんて最後に聴いたの何時だったっけ?
ふとそんな事を思ったが、目を閉じ、頭の中を空っぽにして歌に音の流れに身を任せることにする。
♪~~~~~~――――
音の余韻が終わり、目を開けるとチャロちゃんと目が合う。
いつものニッコリ笑顔を見せてくれた。
「おーーぅ♪ わーーー!」
「きゃ~~~~あ! やぁ~~♪」
スタンディングオベーションしたい所だったが、赤ん坊が急に立ち上がるのもどうかと思ったので、座ったまま音の鳴らない拍手モドキで賞賛する事にする。 ブラボー!
妹様も手足を動かし、全身で喜びを表している。
大盛況である。
「えへへへ~♪ お二人とも、ありがとうね~!」
しっぽをぱたぱたと大きく動かしながら、はにかむチャロちゃん。
ちょっと照れてるなー?
「ふふっ、私も負けていられませんね。
……ではチャロちゃん、私は――」
題名を聞いたチャロちゃんは、手に持つ……陶器製だろうか? 胃袋のような形の―― ちょっと例えがアレだが―― オカリナを口に添える。
♪~~~♪♪~♪♪♪~~~♪♪~♪~♪♪~~~♪~
これも意外、ちょっと強めでかつハイテンポで吹かれる曲。
軽快なリズムで歌われる歌詞は……何時かに聞いたことのある物語だった。
いつもの彼女よりも高く、透き通った歌声で語られる、小さな男の子の冒険譚。
普段は抑えて低めの声を出してる事は気付いていたけど――予想を遙かに超えた可愛い声と歌唱力に驚きつつ、話の内容を思い出しながら、リズムに合わせて無意識に身体を揺らす。
最後まで軽快なリズムで歌い終わる。
「おーーーぅ! ぃえーーーーーい♪」
「きゃあ~や~~~や~~~~ぁ♪」
プロ級と言っても過言ではないと思う素晴らしい歌に、先程に勝るとも劣らない賞賛を二人で送る。
「お二人とも、ありがとうございますっ♪」
いつもより明るい笑顔のマールちゃん。
ちょっと頬が赤いですよ?
その後も何曲か交互に披露してもらい、テンション赤丸急上昇の俺達。
色んな音を出すそれに興味を持ったらしく、ハイハイでチャロちゃんに近づいて手を伸ばす妹様。
「おっ♪ ……セーレさま、吹いてみますー?」
「あ~~~~い~~♪」
いつもの膝の上に乗せると、チャロちゃんは妹にオカリナを持たせて教え始めた。
「……ジャス様も、こちらでいかがですか?」
マールちゃんも、ハーモニカを俺に見せて誘ってくる。
「ぉー♪
……お? おおぉぉっっ!!?」
無邪気に喜んで手を伸ばそうと思った瞬間、トンでもない事に気がついた!!
こ、これは……!
――――これは、伝説の間接チッス!!
こ、こんな事――!
こんな事、お、俺には許されるハズ……!!
「ぅわーーーーーーーい♪♪♪♪」
非常に素直だった。
赤ん坊だもの!
その日は一日、とても賑やかで楽しい演奏会でしたとさ。
まる。




