22 仕事が休みな理由は?
小さい秋の相次ぐ発見に、数えるのを止めた頃。
俺達兄妹は、ソファーの上で「ご本タイム」である。
暴れないための捕獲、とも言う。
最近俺も歯が生えてきて、やたら口の中が……痒いというか、モゴモゴするというか。
これで前世なら、口の寂しさを紛らわせるのに煙草を一服、なーんて格好をつける事もできたのだが、当然今の俺は――。
『……フッ』
ちょっとハードボイルドな気持ちで、顎に手を当てつつニヒルな笑みを作って、流し目を送ってみる。
「ジャス様、どうかされたのですか?」
「あぃ~~♪」
目が合うと満面の笑みを返してくれる、マールちゃん&膝の上のセーレたん。
二人のレディを一瞬で虜にするとは――――フッ、俺も罪な男だぜ。
……。
くそぅ。 さすがに「おしゃぶり」では格好つかんな。
俺的には、葉巻を咥えたイタリアンなダンディーをイメージしてみたんだが……ちょっと厳しかった。 ちょっとか?
「――――パクリと、食べられてしまいました~♪ おしま~い♪」
今、俺を膝に乗せて絵本を読んでいたのは、我らが美少女ママことセフィアたんである。
この極上すら超越する、温かく柔らかな香りと座り心地は、残念ながらメイドちゃんズには到達できない境地だと思う。
そして、今読んだ可哀相な物語の結末さえ俺の脳内で『わんこと戯れる女の子♪』のイメージに変換されてしまう程のエンジェルボイスは、最早天晴れである。 今年のノーベ○平和賞は決まったな。
その上、見た目は中学生なのに、実は人妻で二人の子持ちだもんなー……杉○かおるも裸足で逃げ出して鳥になるぞ。
うむ、眩しくて逃げたとしても仕方あるまい。
ちなみに、メイドちゃんズの片割れことチャロちゃんだが、隣にあるリビングからこの部屋を暖めているらしい。
向こうの部屋から? どうやって? ……と思ったが、どうやらヒントは「あの壁」のようだ。
前から気になっていたのだが、全体的に白で統一されている部屋の中で、一部の壁だけがレンガになっている。
風呂場は別として、木造の家なのになんであそこだけ? と思っていたが……たぶんあのレンガは、向こうの部屋にある暖炉―― ひょっとすると「ペチカ」か?―― の一部なんだろう。
その輻射熱や、床下に暖めた空気を通したりもしてるのだろう、それで屋敷内の複数の部屋を暖めているのだと思う。
なかなかうまくできているものだと感心する。
そんな事を考えながら、舟をこぎ始めたセーレたんに唄ってくれている、マールちゃんの子守歌に耳を傾けていると――。
コンコン。
「……おはよーございまーす……」
のそーりと親父がドアの隙間から覗き込んでいた。
だから、何故ウィスパーなのかと。
しかもとっくに昼過ぎてるし。 どこの業界だ?
「あ……旦那様?」
「ぁぅ~。 ――……っ!?」
親父に気づいて歌を止めたマールちゃん。
そして、歌がやんだのに気づいたセーレたんは、親父を見るなり目を見開いて身体を震わせ、石のように硬直した。
――度々驚かされて泣かされたせいか、妹様は親父が苦手になったらしい。
なんと哀れな……いや、自業自得か?
俺もどんだけビックリしたか。 口から卵を産みそうになったぞ。 何星人だよ。
そんな妹様の様子を見て、それからゆっくりと俺とお袋の方を見る親父。
あ……なんか、涙目になってプルプル震え出した。
顔とか全身傷だらけなのと相まって、まるで苛められて帰ってきた○び太くんである。
……おい、爽やか系はどこ行った?
妹の様子にショックを受けたせいか、それともお袋と目が合って怯えたせいかは定かではないが、デカイ図体をしてチワワ化している大の男に微妙な気持ちを抱いていると、更にドアの向こうから鈴の音と共に高い声がした。
今日の「しっぽアクセサリー」は、鈴付きらしい。
「あ、あの~旦那さま?
お城の部下の方で、トーマス・レオーという方がお見えになってるんですけどー……」
途端、親父の顔つきが変わる。
「トーマスが? ……うむ、分かった。
直ぐに行くから、先に俺の部屋へ通してくれ」
「は~い、旦那さまー」
鈴の音が遠ざかっていく。
「フッ……トーマスの奴、態々見舞いに来たのか。 相変わらずマメな奴だ」
初めて見る「男」の顔で呟く親父。
確かに、ゴ○ゴみたいな良い表情してるんだが――半開きのドアに顔を挟んだまんまである。
開いているだけに「締まり」がない。 なーんて。
…………滑ったか。
「あらあら、私も後でご挨拶にうかがいますわね~♪」
「ああ、そうしてやってくれ」
渋い顔のままドアから頭を抜くと、ドアを閉めて部屋を去る親父。
明らかにほっとした表情を見せるセーレたん……。
すぐにお袋も出て行き、部屋に残っているのはマールちゃんと俺達兄妹だけになる。
「……さあセーレ様、そろそろお昼寝しましょうか。 ジャス様も失礼いたしますね……」
ベビーベッドに並んで寝かされる俺達。
俺はまだあんまり眠くないのだが……妹様は限界のようだ。
ま、俺も付き合うか。
そのまま俺達は、マールちゃんの子守歌に身を委ねるのだった。
**********
「非番に申し訳ありません。 お子様方がご病気と聞きまして、皆を代表して私が……っ!?
そ、その傷、どうされたんですか?」
「いや何、昨夜急いで帰る途中に転んだだけさ……ははは」
「い、いえ、どう見ても打撲の痕のような……?」
「いや何、その後馬車にはね飛ばされて壁にぶつかって壁をぶち破っただけだ! 大した事ではないさ!」
「十分大事でしょう!? というか、事件でしょうそれ……」
「ふふふっ♪ 宙を二、三回舞ったくらいで、うちの人にとっては大した事ございませんわ~」
「は、はあ、奥様もそう仰るなら…………や、そういう問題なのか?」
「うむ、五回くらいまでなら大丈夫だ! あっはっはっはー!」
「あらあら~。 では、次は新記録に挑戦かしら……うふふふふふっ♪」
ビクン!!「そ、そそそそ、そうだ、な! あ、あははははは……!」
「うふふふふふふふ~♪」
「……は、はぁ。(ふ、触れない方が良さそうだな……)」




