19 You Don't Know?
かぽーん。
それは湯殿における、文化の極みとも言えるあまりに有名な擬音語だが、それは異世界でも当てはまる。
四方と上下を取り囲む全てが石でできた、天井はやや高めではあるが決して広くはない、四畳半程度の部屋である。
花崗岩のような灰色の石の表面は少しザラザラしており、壁天井にいたっては多少の凹凸が見られる。
そのせいで、一見した印象は無骨な石室のようである。
入口から見て右側の壁には、四角い大きな窓が高い位置に開いており、橙味を帯びてきた夕方の光が入ってきている。
奥には、壁に沿って浴槽が設置されている。 幅と奥行きは一畳より少し大きい程度か。 幅は部屋と同じである。
深さは五十センチくらいだろう。 どうやら、肩まで湯船に浸かる習慣はなさそうだ。
この浴槽の石材は、黒みが強く表面もよく磨かれていて、いわゆる「御影石」に酷似しており、高級感を放っている。
外から水を入れられるようになっているのだろう、右の壁から二十センチ程度の石の管が突き出ている。
ちなみに残念な事に、管の出口は獅子や美女等を象った物ではなく、単純な円筒形である。
その管の下の、浴槽の床付近の壁には、俺の手の掌くらいの大きさだろうか……赤く平たい丸石が四つ、等間隔で横に並んで埋め込まれている。
そしてパイプの隣には、俺達兄妹の部屋にあった照明器具――〈魔導具〉のそれと同様の〈操作板〉がついている。 これがお湯を沸かすスイッチか。
石の並んでいる面の右側、入口の方を向いている方の壁の底には木の棒が刺さっており、これを抜けばお湯が外に排水されるようになっているみたいだ。
浴槽の外には、かけ湯用だろう小さい木の桶と、俺達兄妹を入れるための大きな桶が置いてある。
小さい方の桶を逆さにして床を叩けば、さぞ素晴らしい「かぽーん」が聞けるハズである。 是非やってみたい。
そんなオリオール家の浴室で、俺に付き添ってメイド服のまま―― 俺達はまだ浴槽じゃなく大きい桶を使うから脱ぐ必要はないのだ、チクショウ ――入ってきたネコミミちゃんことチャロは、俺の裸を見ると耳としっぽを真上にピンと立て、ほんのりと頬を赤らめて興奮した様子でキンキン声を上げた。
「す、すご~~~~いっ♪
じゃ、ジャス様、たってますーーー!
スゴイ……ピンって、たってます~~~~~~~~~ぅ!!」
――あのねぇ君、うら若き乙女が何て事を言ってんの!?
ほら、入口の向こうから「ふぇっ!?」って、マールちゃんの声が聞こえてきたではないか。
うん……そんなに、こそーり覗こうとしなくても大丈夫だよー?
しかも何故か、とっても嬉しそうな表情だねー?
何を期待してるのかな? かな?
まあ別に、何も隠す事などないし――むしろ、俺の堂々とした見てくれを見てくれ!
ほら……スゴイだろ?
ちゃんと二本の足で立ってるんだぜ、俺。
……三本目とかは関係ない!
霊長類の頂点として進化したヒトに相応しい、立派な屹立っぷりだと思わないかい?
我が最愛の妹を導く者として、また一歩先に立てたという事は非常に誇らしいよ。 ぴーす!
「えへぇ~~~♪」
二人分の拍手の音は、彼女らの歓声と共に、陽の光が橙から朱に変わるまで石室内に響いていた。
その後。
「奥さまーーっ! ジャスさまがっ! ジャスさまがっ!!
お風呂場で! 立って! 立って! それはもう、ご立派で!!
すっごく、ピンピンですーーーーっ♪」
「……。
……。
…………は、はい~?」
「ちゃ、チャロちゃん、そ、そんな言い方したら……♪」
本っ当に、このにゃん娘は……時々トンでもない爆弾をバラ撒くなぁ。
マールちゃんも、にやにやしてないでツッコみなさいっての! 顔、赤すぎ!!
「……あら、まぁ♪」
お袋も乗るなよ。




