16 お姉ちゃんのいうことを聞きなさい!
しばらくして窓の外から重く低い鐘の音が聞こえてくると、朝の掃除を終えて先に出て行ったマールちゃんに続いて、
『しばらくお願いね~♪』
という言葉を残し、お袋とアナさんも出て行った。
「さあ、ココからはお姉ちゃんのいうことを聞きなさい! いいわねー?」
この子のクセなのか、仁王立ちで両手を腰に当てると、起伏のない胸を張って彼女は俺達兄妹に語りかけた。
その容姿や雰囲気も相まって、呪いを撃ち込んでくる某魔術師や某三機目の人型兵器の中の人を彷彿とさせる。
「……ぉーぃぇー」
「……?」
若干勢いに押されながらもリアクションを返す俺と、きょとんとしたままの妹様。
ふたり共ベビーベッドの上なので、少女との目線の高さは大差ない。
それにしても……おしゃぶりを咥えてる妹様がもう、可愛いったらありゃしない!
「うーん……任されたのはいいけど、何をして遊ぼうかしら?」
ゼロ歳ズに聞かれても困るんだが……。
少女が腕を組んでうーんうーんと唸っている間に、妹様の瞼が重くなってきた。
……そりゃ、お腹いっぱいだもんなー。
「あーーーうーーーうぁーーーーー」
俺も多少眠いが付き合ってやるから、妹は寝かせてやってくんねーか?
そんな思いを込め、セーレたんの頭を撫でながら声をかけてみる。
「うむむ……あ! セーレちゃんは、もうおねむなのかな?
じゃあ、おねんねしましょうねー」
なんと!
意思が通じたのか、妹を寝かせて薄い毛布を掛けてくれる少女。
なんて賢い、イイ娘じゃないか~。
お兄さんは嬉しいゾ?
「……これでよしっと。
さて、ジャスちゃんはおねむじゃないのかな?」
「ぉーー!」
俺に「ちゃん」付けはちょっとくすぐったいが……。
妹が世話になった礼だ。 今夜はトコトン付き合うぜ!
……勿論、俺の奢りでな?
「ふふふっ! ……ありがと♪」
おぉ……! ちゃんと話が通じているっ!!
生まれて初めてだ! 素晴らしい!!
エレネちゃんは慣れた手つきで―― 俺けっこう重いぞ、大丈夫か?……ぅお、イケたよ、スゲェ!―― なんとか俺を抱き上げると、ソファーに下ろして自分自身もうんしょと上り、女の子座りで俺と向き合った。
絶対領域がチラリと目に入るが……気にしてはいけない。 色んな意味で終わってしまう。
十年後まで取っておけ!
……それでも、まだ俺は十歳だが。
「んーー、どうしよ?
ジャスちゃんは、何かしたいことあるー?」
いやだから、ゼロ歳児に聞かれても――と思ったが、ソファーの下に落ちているモノに気づき、それを指してみる。
「えっ、なに? ……本? 本読んで欲しいの?」
「うーうーー♪」
ソファーから下りて落ちていた本を拾うと、またよいしょと戻ってくる。
わざわざすまんね。
「これでいいの?
っていうか、まだ二歳にもなってないのに本が好きって……スゴイわね……」
まあ、『ネコミミちゃんセレクション』のせいもあって、絵本以外の本がかなり多いからな……。
ちなみに、この国ではゼロではなく一歳から年齢を数える。 だから間違いではない。
俺は未だに慣れないんだが……。
「じゃあ、読むわね。 ……何て本だろ?
えーーーと……」
本はとても大事にされるので、カバーがついている物も珍しくないのだ。
だから一見してタイトルが分からない事も多く、それが逆に楽しみだ。
……それが時に地雷となるが。
「えっとね、本の名前はー」
「……お、『おんな』……『きょうし』?
『みだらなほうかg』」
「ぅあああああああーーーーーーーーーー!!!??」
「うひゃあっ!? ちょ、ちょっと、一体何よーーーっ!?!?」
地雷だったーーーーーーーっ!!
子供の部屋に置くな、そんなもーーーん!!!




