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そだ☆シス  作者: Mie
お受験編
174/744

153 離れていてもできること

挿絵(By みてみん)





 少し曇っているけど、外での稽古には涼しくていいかなと思う朝の日のこと。

 軽く準備運動も終わり、修行するぞーという気持ちになっていたところへチャロちゃんがやってきた。


「ジャスさまー。 王都の幼児園からお手紙が来てるんですけどー?」


 ……例のアレが来たか。

 家から来るならともかく、なんで? と首をかしげるチャロちゃんから、厚手の封筒を笑顔で受け取った。 両横にいた幼女コンビも興味深そうに手紙を覗き込む。

 そういえば、チャロちゃんには言ってなかったっけ。


「せっかく先生になったのにこっち来ちゃったから、幼児園のみんなに勉強のテキストと課題を作って渡したんだよ。

 で、その中に『文字を覚えて、ぼく達宛てに手紙を書いて送る』っていうのがあるんだ」


「うひゃーっ! ……出発前に紙の束を山積みにして何か書いてらっしゃったのって、それだったんですか?

 それにしても、覚えた字で手紙って……いいお考えですねっ♪」


 コピー機なんて当然ないから、るーちゃん達の分プラスアルファで全部手書きで作ったからな……。 あの時は、五歳の身体で腱鞘(けんしょう)炎になるかと思ったぞ。

 俺達が喋っていると、師匠とセラさんが不思議そうな顔をしてみていた。 そして当然ながら質問される。 


「えっ、なに? 何の話をしてるのよ?」


「うん。 来年から学校だから、できれば飛び級できたらいいよねーって思って、幼児園で教室を始めたんだ。

 それで、ぼくも先生の一人だから、ここに来る前にみんなにテキストを作って課題を出してたってワケ」


「え?」「はぁ?」


 俺の説明に、目が点になるご夫妻。

 ……まあ、そうだよな。 幼児が先生というのもアレだが、その上教材も自作したって言われたらなぁ。

 だけど、俺から提案したクセに放置して来るワケにはいかなかったんだよー。


「お兄ちゃんせんせ~なの♪」

「ジャス、教えるのじょうず」


「そ、そうなの……まあ、ジャス君だもんねぇ」

「よくやるなぁ、お前……」


 幼女コンビの援護射撃も加わって、ご夫妻は感心を通り越して毒気を抜かれたようになってしまった。


「……さーて、そろそろ始めよ?」


 ほわーんとした空気になちゃったけど、それはそれ、これはこれ。

 王都のみんなも頑張ってるんかから、俺達も修行に励みましょう!




 午前の剣術の稽古が終わり、くたくたの身体に甘~いシロップがたっぷりのホットケーキを食べて疲れを癒した俺達。 午後からの魔術のお時間に入る。

 だけど俺と妹様については、もう家の中で教わることがあまりない……というか、リミッター付きではあっても戦闘魔術の練習をここでやるわけにはいかない。 常識的に考えてもそうだけど、法律で決まっているのだ。

 だから、今日の魔術教室はセラさんとエミーちゃんのマンツーマン。

 俺は今朝もらった手紙の返事書きを同じリビングの隅ですることに決め、セーレたんにはチャロちゃんのお手伝いをさせることに。 ここに来てまた妹様は俺と一緒だから、ちょっと引き離すにはうってつけだろう。

 チャロちゃんにも、ここに来てからは実質休みナシで負担かけちゃってるしな。


「チャロちゃんを助けてあげて。 な?」


「……うん」


 しばらくの間、ほっぺを中心になでながら首筋や耳を軽くくすぐってセーレたんをくねくねさせると、ようやく笑顔になって首を縦に振ってくれた。


「お兄ちゃんの分も、任せたよ」


「は~いっ!」


 俺は親父に教わった軍隊式敬礼で、セレスティア少尉の出征を見送った。 キリリと表情を引き締めて敬礼するセーレたんがとっても可愛い。 帰ってきたら昇進決定である。

 前世の日本も同じ敬礼なんだけど……ちなみにこれ、帽子のツバを摘む動作からきているらしい。 親父からそう聞いた。



「ほらエミーちゃん、取っ手のちょうどここに魔力を入れるようになってるから、まずは――」


 チャロちゃんと同じ部屋で寝起きしているエミーちゃん。

 部屋では暇さえあればずーっと手に持って眺めてはにこにこしてるらしい、大層お気に入りのマグカップ型魔導具を使って練習だ。

 どんな色の魔力が必要かを感じ取って、それを魔導具に押しつけるようにして送り込む。 これまた感覚を掴む必要があるけれど、オド感知よりもずっと簡単にできるだろう。


「――さて、はじめますか」


 わざわざチャロちゃんが用意してくれたジュースの入ったピッチャーを、自分で冷やしてコップに注ぐ。 アセロラのような酸っぱさと渋みのあるほんのり赤いジュース。 それは果汁数パーセント程度に薄くしてあって、午睡を求める俺の頭を適度に覚ましてくれた。

 俺はキッチンの方へ感謝の気持ちを捧げ、目の前のテーブルにある封筒と木製のレターナイフを手に取った。



『ジャスくん、セーレちゃん、エミーちゃん、おげんきディスカー?

 ぼくは、げんきです。 きょうは、はれです。 べんきょうは、たいへんです。

 おいしいです!

 ニコラスより』


 まずは普通君か。

 微妙に「ウラギッタンデスカー」って感じの書き間違いがあるのと、ちょっと文脈が繋がってないところがあるけど……格段に良くなってるな。 筆圧の強さがムダに男らしい。

 ひーひー言いながら勉強している姿が目に浮かぶよ。

 ところで、最後の「おいしい」って何だろう? 美幼女に囲まれてオイシイって意味か?



『ジャス、セーレ、エミー、こんにちは。 ぼくは元気です。

 たくさん勉強することがあってたいへんだけど、ジャスとセーレとエミーはもうおわってるんだよね。 すごい。

 まじゅつの勉強、むずかしいです。 早くつかいたいな。 ジャスのもんだいはおもしろい。 新しいのほしいです。

 またいっしょにあそぼうね。

 リュシアン』


 次は大手魔導具メーカーの御曹司。

 普段の言動や格好とは違って、とてもほっこりとする文章だった。 しかも内容もちゃんとしてるし、とても丁寧に書かれている。 文字まで丸っこくて女の子みたいだけど。

 家でも、白銀メイドさんにみっちりと勉強を教わってるんだろうなーというのが窺えるな。 どんな魔術の勉強をしているんだろうか?

 ……黒魔術的なものじゃないといいのだが。



『ジャス、セーレ、エミー、こんにちは。

 勉強むつかしいです。 でもジャスが、だいじって言ってたので、いっぱいがんばってます。

 わたしはとてもさびしいです。 手紙、とどくといいな。

 おへんじ、まってます。

 クリムヒルト』


 その次はわん子ちゃん。

 短いけど気持ちの伝わってくる丁寧な字と文章で、何度も書いては消した跡が残っている。 文字通り、いっぱい頑張ってるんだろうな。

 学力レベルはニコと同じくらいだったから、くりむちゃんも相当苦労してるハズ。 なのに、辛いとは書いてないんだよな。

 帰ったら思いっきりなでてあげたい。



『ジャス君、セーレちゃん、元気にやってる? エミーは頑張りすぎてない?

 進級してから更に会えなくなったよね……寂しいよ。 だけど、ジャス君たちが頑張ってるんだから私も頑張らないと!

 もっとイイ女になって、いっぱいご奉仕してあげるね♪

 だから、浮気しちゃダメだよ? ……なーんてね。

 あなたのエルネより♪』


「……え?」


 なんで、エルネちゃんが書いてるの!? どこで知ったんだろうか……。

 でもまあ確かに、最近のエルネちゃんとは会う機会がますます減っている。 家事や家の仕事を手伝いながら通える初学校とは違って、高校って忙しいらしいからね。

 本人は一切口に出さないけど、エミーちゃんからは、いつも家事を手伝いながら必死で勉強もしているという話を聞いている。

 どんな目標を持っているかは知らないけど、無理しないように頑張ってほしい。

 文面については……ノーコメント。



『ジャスパー様、セレスティア様、エミーリア様、ご無沙汰しております。 お元気でお過ごしでしょうか。

 受験教室につきましては、ヴェオラ園長様やラリマール様等のご協力もあり、順調に運営致しております。

 先日頂きましたテキストですが、子供の勉強の苦痛を少しでも和らげようとされている、ジャスパー様の工夫と独創的な問題の解法に感服致しました。 他のお子様達への指導にも活用させて頂いております。

 また、この手紙を書くという課題につきましても非常に良いアイデアだと思い、勝手ながら、当日授業に参加されましたお子様達にも書いて頂きました。

 誠に恐縮で御座いますが、お読み頂き、返信等頂ければ幸いに存じます。

 一同、心よりお帰りをお待ち申し上げております。

 ツェツィーリエ・ビルケンシュトック』


 最後に、白銀メイドさん先生。

 ……うん。 これ、ほとんど業務報告だよね。 五歳児に書いてよこす文面じゃないよねー。 同僚か上司向け?

 ともかく、幼児園の方はなんとかなっているようで良かった。 かなりツェリさんには負担をかけていると思うけど、俺のテキストが多少は役に立っているようだ。

 封筒が妙に分厚かったのにも納得。 どんな長文を書いてきたのかと思って、ちょっとビックリしたよ。

 手紙の件は他の子には課題にはしてなかったんだけど、そいうことなら喜んで返事を書こうじゃありませんか!



 あとは数人の園児達の文章と、最後に園長さんからも挨拶とお礼のメッセージが添えてあった。

 俺は夜までかかって、みんなの文章を参考に多少は幼児っぽい書き方をしようと頭をひねり、なんとか返事を書いていった。





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