13 娑婆(シャバ)だば~
時折、涼しさを感じるようになってきた早朝。
コツ、コツ。
いくつかの不規則な靴音がなり、俺達の身体がリズミカルに縦に揺れる。
聞き慣れた少女達の声に重なるのは、普段よりも近い小鳥達の歌い声。
朝の日差しを浴びながら、心地良い振動に身を委ねる。
涼しい風がふと頬を撫で、微かな朝餉の匂いを運んできた。
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王都の朝は早い。
女性達は〈日の出の鐘〉の音と共に動き始めます。
まずは、窓を開けて空気の入れ換えから。
一日の営みの準備に臨むべく、二度三度深呼吸して眠気を払い。
水汲み、お食事の用意、旦那様の送り出し、お子様のお世話、洗濯、買い物――。
きっと今日も仕事が盛り沢山でしょう。
商人達は更に早いです。
まだ空も暗い内から店に集まり、従業員全員で仕込みや掃除などの開店準備。
店主の方はその上、従業員の仕事を見たり店内を確認したりしているのでしょう。
まるで戦争のような準備作業が終わるとようやく開店、そこから本当の仕事が始まるのです。
――そんな朝の活気の気配を遠くに、我がオリオール家のある〈二等貴人区〉は比較的静寂に包まれています。
生活の音はほとんど聞こえてきません。 ごく微かに朝食の匂いが鼻をくすぐる程度。
……思わず献立を予想してしまいます。
時々道を行き来するのは、各家の仕事着に身を包んだ顔馴染みの使用人達だけ。
旦那様やご子息様を乗せた馬車が行き交うようになるのは、三時の鐘――所謂〈仕事始めの鐘〉が鳴ってからの事でしょう。
すれ違う同業達に会釈を返しながら、私達は奥様と並んでお散歩です。
たまにお散歩をする私達ですけど……今日は、三人だけではないのです!
奥様のお許しが出て、ジャス様とセーレ様もご一緒です♪
私がジャス様を、チャロちゃんがセーレ様を……二人でお抱きする時は、だいたいこれが定番です。
「すぅ~~~~~っ、はぁ~~~~~~~っ……少しずつ涼しくなってきたわね~♪」
「まだまだ暑い日の方が多いですけどねー」
「チャロも、そろそろ毛布を掛けて寝るようにしなさいね?
……奥様、そろそろ衣替えの準備を致しましょうか? もうすぐ十月になりますし」
「ええ、そうね~。 ジャスちゃんとセーレちゃんの新しい服も買わないとね~♪」
「はーーーいっ! ……わたしも今度、新しい秋物見に行こーーっと!」
「……おぉーーう~~~ぁう?」
話をしながら歩いていると、興味深そうにあちこち見ていたジャス様が、こてんと首を傾げながら声をお上げになりました。
微妙に語尾を上げられたので、まるで私達の会話に加わられているかのように聞こえますね。
すごく可愛らしいですっ♪
……そんなことはあり得ないとは、私も孤児院でたくさんの子供を見てよく知っていますけど……。
ジャス様に限っては、『本当にお分かりになっているのかも?』と思ってしまいます。
チャロの腕の中で、きょとーーんとしたお顔で固まっていらっしゃる、セーレ様のようなご反応が普通ですから。
あ、奥様が頭を撫でられたらニッコリされました! 可愛いですねー。
「はいっ、これから少しずつ寒くなってきますからね……。
今の内に服を出して、着られなくなっていないか確認したり、洗ったりしておくんですよー」
「……ぉおーーー♪」
私もジャス様のお背中をぽんぽんしながら話しかけてみると、嬉しそうなお声でお応えをいただけました!
――――そろそろ、貴人街の端が見えてきました。
あまり長い間外に居られると、お身体に触りますね。
奥様が立ち止まられて仰います。
「じゃあ、家に帰ってご飯にしましょうか~~~~」
「はーーーーーいっ♪」
「はいっ、奥様」
私達の一日は、これからです。




