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そだ☆シス  作者: Mie
帰郷してきた編
135/744

118 今日のところはおあずけ?

挿絵(By みてみん)





 窓を開け放つ。

 真上には星がきらめき、空は濃紺と黒から青、紫――そして、赤色から黄色に変わっていき、その中に赤、青、灰色の雲が入り乱れて、最後にはセピア色の果てから浮かび上がってくる、オレンジ色の太陽に行き着く。

 それは、時には夕焼けよりも鮮やかで、優しく、静かで……冷たい。 だけど感動的でもあって、身体の中から元気がわいてくる時間。

 ――それが、夜明けだと思う。


 今までは、ママだけが独り占めしていたこの景色。 だけど今は、半分こ。

 いつもママが朝から元気なのは、このせいなのかなーって、最近は思うようになってきた。


 窓から見える空のグラデーションで目と心を穏やかに覚醒させて、涼しい空気を胸いっぱいに吸い込んで頭と身体をシャキッと引き締める。 洗顔と茶色い髪のセットはその後で。

 顔から上の準備ができたら、次は昨日の私を脱ぎ捨てて、昨夜のうちに用意した赤いブラウスに袖を通し、黒いタイツと膝丈のスカートを穿いて、黒いベストを着込む。 靴も黒だ。

 最後に鏡で一通りチェックしたら、今日のエルネ(わたし)のできあがりだ。


「よしっ、今日も頑張ろっと!」


 たとえ前期テストの最終日であっても、私は家事の手伝いを休むことはしないのだ。




**********



 ――朝の鳥たちがお喋りに興じている屋根の下。

 魚がメインだった朝食を取ってまた戻ってきた部屋で、アナさんと一緒にやってきたエミーちゃんを加えた三人は、一様に顔をしかめていた。


「むー……」


 例の懐中電灯を両手で持ち、絨毯の上でうなっているのはエミーちゃん。


「んー?」


 その後ろから抱きついて、彼女の胸の辺りに手を置いている俺。 ……断じて変な意味ではない。


「む~っ!」


 そして妹様は、更に後ろから抱きついて俺を引き剥がそうとしている。


「む~っ!」


 これ……端から見ると、修羅場みたいになってないか?

 ちなみにこれは、エミーちゃんのオド感知の特訓である。 「(なぶ)る」という字の男女が入れ替わったヤツを、人文字で表しているわけではない。


「むー。 できないよ……」


 後ろを振り向いて悲しげな顔をするエミーちゃん。 ふわりと、お姉ちゃんと同じシャンプーの香りがする。


「……ごめん。 ぼくもできないんだ」


 セーレたんと同じように、俺の触手でエミーちゃんのオド(なか)に触れようとするんだけど、入りそうで入らない。 ……つーか、この表現の字面がヤバ過ぎるっての!

 詳しく言うと、皮膚とオドを隔てる境目の膜を通れないというか――ああーもうっ!! 自分で言ってて恥ずかしいわ!

 セーレたんは逆に、怖いくらいにすんなりと通ったんだけどなぁ。 なんでだろう?


「おにい~ぃ? ふぅ~♪」


「うひゃら!?」


 妹様が俺に抱きついたまま静かになったと思ったら、耳に息を吹きかけられた! どこで覚えたのそんなテクニック!?

 ……あれ、ひょっとしたら俺?


「わかった! わかったから離れてー」


「やんっ♪」


 じゃれついてくるセーレたんをそっと剥がして頭をなでてから、エミーちゃんの前に回り込んで再び座る。 当然妹様もついてくる。

 エミーちゃんは、うまくいかなかったら癇癪(かんしゃく)を起こすかなーと思ってたが、まるで迷子になったような切ない表情で見つめてくるので胸が痛い。


「えっとねー。 ぼくがやって見せるから、エミーちゃんは目を閉じて、手に何か感じるかためしてみてー」


「うん」


「がんばれ、エミーちゃ~ん」


 ぐっと拳を作って応援する妹様。 俺なんかよりセーレたんの方が断然うまいんだけど、流れがスムーズすぎて逆に参考にならないんだよなー。

 俺は懐中電灯を持つエミーちゃんの上から両手を被せて、未だにちょっと多すぎるオドをつぎ込んだ。




 窓から差す光があかね色を帯びてきて、しょげかえるエミーちゃんを二人がかりで慰めていると――。

 突然ドアから飛び込んできた黒い砲弾に、俺達はまとめて捕獲された。


「終わったよおーーーーーーっ♪」


「すっとこ!?」


 エミーちゃんを挟んで端っこにいたせいで俺は直撃を受け、もの凄い勢いで頬ずりされる。


「終わった終わった終わったテストが終わったあーーーっ!! 疲れたよぉ~……。

 ああっ!? そういえばジャス君もセーレちゃんも風邪大丈夫っ? 熱ないよね……んーっ♪

 あ、大丈夫みたいだねー。 よかったよかったーああははっ♪」


 怒濤(どとう)の勢いで話しかけられて、その上おでこをくっつけられて身体が固まる俺。 リアクションを取る暇もない!

 鼻の先まで触れ合わせてから、ようやく離される端正な顔。 妹とはまったく正反対のテンションの、言わずと知れた突撃お姉(エルネ)ちゃんである。

 少しタイト気味のスカートとベストが黒く、可愛さよりも格好良さが際立つ服装だ。 学校から直接来たらしい。


「ふっふっふー。 今夜、ヨロシクね? ……じゃ、ご飯できてるらしいから、行こ?」


 ウィンクしながら俺達を立たせるエルネちゃん。 アナさんはいつも通り帰るが、姉妹は泊まって週末を過ごす予定だ。 着替えは今朝アナさんが持って来ている。

 さーて、どうなることやら……。



「はぁ~、おいしかった! さすがマールさんですねー」


「ありがとう、エルネちゃん。 もうすぐお風呂の用意ができるから、落ち着いたら入ってね」


 親父とお袋の席にマールちゃんとエルネちゃんが座り、食事が終わった。 バター風味のキノコスパゲティ、美味でございました。

 お袋は今日も部屋。 弟の体調は少しずつ安定してきているらしく、俺達が会えるのも遠くないかもしれない。


「はーい♪ ……ジャス君、一緒に入る?」


「一人で入れまーす」


「ちぇーっ、つまんないの」


 お風呂っていう単語を聞いた瞬間の目の輝きを見れば、次に何を言われるかなんて簡単に想像がつきます。


「おにぃ、セーレと入る~?」


「え」


「そうですね……エミーちゃんも一緒に入ってもらえると、私もチャロも助かります」


 と思ったら、横から第二撃が飛んできた! しかもマールちゃんからの支援砲火付き。

 メイドちゃんズの負担を減らすためとあっては、断ることはできない。


「うんー」

「うん、わかった」


「えへへへへ~♪」


 最近のセーレたん、湯船に入ると裸でも構わず俺にくっついてくるからな……できれば避けたかったんだけど。

 満面の笑みを浮かべる妹様と目を合わせるのが少し恥ずかしくなって、俺はジュースの入ったカップに口をつけながらエミーちゃんと一緒にうなずいた。

 すると、仲間はずれになったエルネちゃんから抗議の声が上がる。


「えーっ、私だけ一人ぼっち!?」


「エルネちゃんは、後で私達と一緒に入りましょう」


「はーい、分かりましたっ」


『お姉ちゃーん、お風呂わいたよー?』


 ちょうどいいタイミングで、チャロちゃんが入口からひょっこり顔を出して呼びに来た。

 幼児三人組は、マールちゃんに手を引かれてそのままお風呂に向かうのであった。





「はぁー。 このドライヤー、ウチにもほしいなー」


 自慢なのもうなずける、長くて綺麗な髪をコームドライヤーで乾かしているエルネちゃん。 お袋と親父の寝室のソファーに腰掛けて、髪を()いている黒いパジャマ姿はちょっぴり大人らしさを漂わせている。

 さすがに俺達の部屋のベッドで子供四人できついので、親父が夜勤でいないのもあって、ここのクイーンサイズのベッドを使うことになった。


「……はい、終わりっと。」


 ブラシと一体型になっているドライヤーを、ソファーの前のテーブルに置く。 これはつい先日チャロちゃんが買ってきたもので、弱い風を出して髪を乾かすことで風邪を予防しよう、ということらしい。 当然ながら魔導具で、比較的最近売り出されたらしい。

『温風タイプは髪を傷めるので、ダメなんですよー』と自慢げに話していたチャロちゃんは、よく分かっていらっしゃる。


「それにしても、その歳で魔導具って……私も初等学校で、一年以上かけて覚えたんだよ?」


 姉が魔導具を使ってるのを見て、またエミーちゃんが肩を落としたので妹様とベッドの上で励ましていると、エルネちゃんは呆れ笑顔でベッドにやってきた。

 俺とセーレたんがドライヤーで乾かしっこをしていたのが、よほどショックだったらしい。 エミーちゃんの髪は最初にハニーがやってくれている。


「二人とも、いつの間に覚えたのよ?」


「セラおばあちゃんに教わったんだよー」


「セーレは、おにぃにおそわったの……♪」


 説明を受けてその場でできちゃいましたー、なんて言ったらどうなるだろう?

 ところでセーレたん……両手を胸に添えてうっとりしている表情が、妊娠したお腹をさすってた時のお袋のそれにウリ二つなんだけど、どうして?


「はあ……エミーの勉強の進みが早くてビックリしてたけど、やっぱり二人はそれ以上だったわね」


 そう言いながら、毛布をめくってエルネちゃんが中に入ってくる。 左端からエルネちゃん、妹様、俺、エミーちゃんの順番だ。

 部屋の明かりを消し忘れた、とベッドから出ようとするエルネちゃんの手を引っ張って止めて、触手で部屋の明かりを落とす。

 それ見たエルネちゃんは『……まあ、ジャス君だもんねぇ』とため息混じりの一言で片づけた。 ……その言い方、アナさんそっくり。


「みんな、おやすみー」

「おやすみ、おにぃ、みんな~」

「おやすみ」

「おやすみっ」


 ベッドサイドに置いてあるスタンドの弱い光に照らされながら、俺達は静かに目を閉じた。





「――ねぇジャス君、起きてる?」


「……」


 起きてませーん。


「……ちぇっ」


 起きてたらどうするつもりだったのよ、君は。





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