巨人タインスの出現
前回、クラプスは手下を使って暗躍していた。
今回も自分は裏で動いてはいたが、すぐ近くで監視していたようだ。
さすがに何度も失敗するわけにはいかないからだろう。
今回こそは逃がすわけにはいかない。
「レノバ、こいつは悪魔だ。気をつけていくぞ」
「アルス様、悪魔って?」
「前にアスリアを殺そうとしたりしてきた奴らだ。自称悪魔を名乗ってる」
「……とにかくお友達にはなれないってことはわかりました」
レノバは自称悪魔と聞いて顔を歪めた。
きっとただのヤバイ奴だと思ったに違いない。
「そうやってふざけていられるのも今のうちですよ。冥界よりいざないし、しもべたちよ。我が敵を薙ぎ払え」
俺とレノバによって倒された骸骨剣士たちの骨がカタカタと音を鳴らし、一カ所に集まっていく。
そんなのをゆっくりと見て待ってやる必要はない。
「クラウド!」
クラウドが炎を吐き、俺はそこに向かって切りかかる。
骨相手だろうが、粉々になるまで粉砕するだけだ。
骨が付くのを邪魔しながら、クラウドの炎で焼き尽くしていく。
だが、敵もそう簡単にはやられてはくれないようだ。
「アルス様! 危ない!」
見ると、俺が粉々になった骨はくっつきクラウドの炎でもすべてを焼き尽くすことはできていなかった。
「余計なことを。少し大きさは小さくなりましたが、そう簡単にはやられませんよ」
俺たちが攻撃をしていたところにクラプスが氷の槍を放ってくる。
いったん、クラウドと距離をとった間に、その骨はどんどんとくっつきながら大きな巨人へと姿をかえていった。
「レノバ、王様を連れていったん引くぞ! この部屋がもたない」
「わかりました」
俺たちはちょうど3階の端の部屋にいた。
俺たちが部屋からでると同時に部屋が崩れ、巨人がその全容をあらわす。
「冥府より蘇った巨人タインスよ、この国を滅ぼし我が名をこの地に刻むのだ!」
クラプスはもう、すでに俺たちには興味がないと言わんばかりにお城へ攻撃をし始めた。
下の階にいた人や城の近くにいた兵士から悲鳴があがる。
何人かの兵士はすぐに応戦をしているが、すぐに瓦礫に潰されたり払われてそのまま動かなくなってしまった。
それどころか、逆に死んだ者が起き上がりゾンビ騎士として仲間を襲うという負の悪循環に陥っている。
「レノバ、王様を安全なところへ。俺と父さんはあいつの弱点を探してみる」
「アルス様とお義父様をあんな危険なところへ行かせるわけにはいきません! それに、私とお義父様ではお義父様の方が父が目覚めた時に説明しやすいと思います。私と父は……仲良くなるには少し時間が足りませんわ」
レノバは父さんの前に王様を置く。
「お義父様……父をよろしくお願いします」
「いや、レノバさん女の子を戦場へ送り出すなんてできません」
「フフッありがとうございます。久しく女の子扱いされていなかったので嬉しいですが、ただ、私はこんなに可憐でもA級冒険者ですよ? そう簡単にやられたりはしませんので。それに父を安全なところへ避難させたら、ぜひ応援に駆けつけてくださいね」
レノバは父さんにそう頼むと、父さんの返答も聞かずに巨人タインスのところへ走り出した。
「父さん、俺もレノバと一緒に行ってくる。王様を頼んだよ」
「わかった。すぐに応援に行くからお前も気をつけるんだぞ」
「あぁ」
俺もすぐにレノバの後を追いかける。
さて、この巨人相手にどうしたものか。
巨人はお城を殴ったり、蹴りを入れながら少しずつ壊している最中だった。
まずは、壊すのを止めさせなければいけない。
お城の中の人を避難させる時間を稼げばそれだけ死ぬ人を少なくさせることができる。
崩れた部屋の入口まで行き、あらためてタインスを見るとその大きさにビックリする。
今ここは城の3階部分にいるがタインスの大きさは城の2階部分に相当する。
崩れた場所からレノバは巨人を見下ろし何か考えているようだ。
「レノバ何か作戦はあるのか?」
「考えてはみたんですが、なっーんにもありません。当たって砕けろですかね?」
「だよな。仕方がない。少し注意をこっちに向けながらまずは城を壊すのを止めさせよう。避難する時間を稼げばそれだけ助かる人が増える」
「わかりました。それじゃあいきますよ」
レノバは壊れた城を伝い上手く下まで降りて行く。
「クラウド行くか」
「ピギュー」
俺も続いて降りていくが、タインスは俺たちに見向きもしなかった。
それだけ俺たちを舐めているってことだろう。
まずはやれることからやっていくだけだ。
「レノバは逆側から回れ、できれば城の広場の方へ誘導していく。それが難しければできるだけここで足止めするぞ」
「わかりました」
レノバ大きくタインスを迂回していくように走っていく。
それじゃあ俺の方も行くか。
「クラプスの根性なし! そんな巨人に乗っていないで正々堂々と戦ったらどうなんだ」
まずはクラプスを挑発してみる。
クラプスは巨人の上に乗り、指示をだしているようだ。
クラプスはこちらをチラリとみるがそのまま無視をきめこんだ。
どうやら破壊を優先させるらしい。
それならなんとしてもこっちに興味を持たせてやる。
興味がないなら、攻撃しても反撃の恐れはすくない。
どこか弱点かわからない以上、攻撃あるのみだ。
まずは、一番重みのかかっている膝の部分を切りつける。
『ガキン』と激しい音と共にタイタスの身体の一部欠ける。
元々が骨なので削れないわけではない。
だが、しばらくすると少しずつ骨が回復していっているのがわかる。
クラプスの魔力によってオートで回復するようになっている。
それなら、回復が間に合わなくなるほど攻撃を重ねるだけだ。
クラウドは俺が削った骨を炎で焼き、俺はひたすら剣を振るう。
レノバも別方向から攻撃をしているが、それでもお城への攻撃はやめない。
なかなか止めるのは難しいようだ。
「バカどもめ。お前らのような3流冒険者に我がタインスが止められるわけがないだろう」
「そうか? その割には少しずつ動きが悪くなっているぞっ!」
俺が思いっきり剣に力をこめ薙ぎ払うと膝部分からぽっきりと折れ、片膝から崩れ落ちてきた。
タイタスは痛みを感じないからか、壊されているのに気が付いていなかった。
「お前ら……」
「なんだたいしたことないな。悪魔っていうのも口だけなんだな」
「クククッ。やるじゃないか。わかったよ。それならこれでどうだ?」
クラプスがまた怪しげな魔法を唱える。
もちろん、そんなのを待ってやる義理はない。
だが、あっという間に今度は先ほど、タインスが殺した兵士たちが集まり巨大ゾンビ兵を作り出す。
「死者を弄ぶなんて……」
レノバがゾンビに切りかかるが、腐ったゾンビは痛みも感じず切り落とされた部位も拾って自分でくっつけていく。
「そこで遊んでいろ。こっちをすぐに終わらせたらきっちり遊んでやるからな」
その時急に空が曇り雨が降り出した。
ポツリと頬に触れた雨は……不思議な感じを受けた。




