レノバの最後
腹部に衝撃が走る。
「ぐふっ!」
「ピギュー!」
「イッテェ! クラウドが起こしてくれたのか?」
クラウドが俺の腹に向けて風魔弾を放ってくれたようだ。
辺りを見渡すも、近くにはもう誰もいない。
くそっ! 俺は地面を思いっきり叩く。
「クラウド、レノバはどっちに行った?」
クラウドは亜人街の奥の方へ指差す。
「いくぞクラウド。レノバを助けなけなきゃ」
「ピギュー」
亜人街の中を駆け抜ける。いったいどれくらい気絶していたんだろうか。
亜人街を走り抜けるが揉めているような声は聞こえない。
そうだ! 双縁の剣。
剣に魔力をこめると妖精があらわれ、指をさしながら導いてくれる。
大丈夫だ。絶対大丈夫。
気持ちばかりが焦ってしまうが、落ち着け。
焦りは視界を狭める。俺のことを待ち伏せしていることはないだろうが、これ以上ミスは許されない。
途中でレノバが倒したのかフードを被った男が何人か倒れている。
レノバは冒険者の中でも一流の腕前だ。
あれだけの人数がいたとしても、そう簡単にやられるはずはない。
たった数十人だ。
亜人街での追いかけっこをしているせいか亜人たちも騒ぎに気がついたようだ。
前方にフードを被ったオーク体型の男が3人道をふさいでいる。
わざわざ相手をしている暇はない。
「本当に追ってくるとは馬鹿な男だな」
「無駄口叩いてないでさっさと殺して戻るぞ」
「おう」
「邪魔だ」
身体の中を高速で魔力が流れる。こんな奴らに足止めをくらっている暇はない。
迷う必要はない。ただ真っすぐレノバの元へ。
すれ違う瞬間に男たちの急所めがけて1発ずつ風魔弾をいれる。
倒したことを確認もせず、そのまま走り抜ける。
もっと早く、もっと、もっと。
双縁の剣の妖精が何か慌ただしく動き始める。
何か嫌なことが起こっている。
「レノバ―!」
亜人街の中でも薄暗い路地裏に女性が倒れている。
彼女は……レノバなのか。
双縁の剣の妖精はそこに倒れている女性の方をしめしている。
服装はレノバのものだ。
双縁の剣も持っている。
俺が買ってあげた服も。
だけど、レノバの顔が違う。
とても美しい青い髪の女の子がそこには横たわっている。
まるでただ眠っているだけのように思える。
「レノバ……嘘だろ」
レノバの素顔はとてもきれいでまつ毛がずいぶん長い。こんなきれいな顔をしているのにわざと顔を変え、人の目をひきつけることで自分を隠し続けてきたんだろう。
「レノバ」
声をかけるといつものように「アルス様」と返ってきそうなのに、彼女からの反応がない。
「お願いだ。目を開けてくれ」
その日、バルモノ国の王女が亡くなったことでこの国は戦争へと進んでいくことになった。
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