父が家に帰ってきました。
俺とクラウドは学校の休みを使い、冒険者ギルドからの依頼をうけて幻想の森へ来ていた。
今回はオーク肉の納品依頼だ。
街からでて森の中を進むこと30分。野生のオークたちを早々に見つけ、納品用のオーク3頭討をサックと討伐する。
その後、クラウドがドラゴンへ変身ができないかを試している。
「クラウドそれじゃ大きな竜に変身してみようか」
「ピギゥー?」
クラウドは首をかしげながら『なんの話?』と言った感じでこちらを見てくる。
あれから少し成長し背中に小さな羽が生えトカゲからドラゴンの子供のような姿にはなったが、相変わらず言葉は話してくれなかった。でも、前よりもクラウドと繋がっているような感覚が強くなってきている。きっとクラウドとの絆が深まってきているおかげだろう。
あれからクラウドが大きなドラゴンへ変身することはなかった。クラウドも完全に記憶がなくなっているようで、説明しても理解してもらうのは難しい。それよりもクラウドは羽が生えたことが嬉しいのか、一生懸命羽を見ながらピコピコと動かしている。
「ピギゥー」
と鳴きながら動かかす姿は、新しいおもちゃを手に入れた子供のように目を輝かせていて見ているだけでも飽きない愛おしさが芽生える。
でも、心のどこかではまた、大きなドラゴンになってくれるのではないかと少し期待している自分がいるが今の感じではなかなか難しそうだ。俺たちは夕方まで森の中でいろいろな薬草の採取やクラウドの訓練、そして魔物を狩ってすごした。
「クラウド今日は帰るか」
「ピギゥー」
クラウドは俺の肩の上に乗り今日もとてもご機嫌だ。
クラウドから言われるまでは、ドラゴンというのも半信半疑だったので、コスパも考えてトカゲの餌をあげていたが、今はドラゴンの子供として餌にも気をつけている。ただ、意外と食費もバカにならないため森の中で狩った魔物をクラウドのご飯として食べさせている。
今日は森の中で、依頼の他にボーンラビットやグリーングリズリーなどの大物の魔物も討伐してマジックボックスにすでに収納してある。最近は森の中で魔物を定期的に狩っているのでクラウドの食費もかなり楽になっている。ただ、むやみやたらに討伐すればいいかというとそういうわけではない。
森から強い魔物が消えると今度ゴブリンなど害獣が増えてしまう。
野生のゴブリンは増えても人間にとっていいことは一つもない。食べられるわけでもないし、素材としての価値もない。一部の国ではゴブリンを捕まえて再教育して農場での労働力として使っている国もあるが、ほとんどが教育の手間などを考えると駆除してしまう方が効率が良かった。
他の強い魔物を討伐しすぎてゴブリンが大繁殖されるより、魔物同士て潰しあってくれた方がいい。
街の中と外では魔物と亜人たちを見分ける必要がある。
まぁ基本的には見た目てわかるのだが、野生の亜人たちは装備が木の棒か冒険者から奪った装備などで身体にあってないものを身につけていることが多く、人間を見かけた瞬間に襲ってくる。
また、話しかけてみればだいたいわかるが一番は街に住んでいる亜人などは森に入る時に共通のバンダナをしていたりと冒険者に襲われなりような対策がとられている。
森で魔物を狩る場合はそこの見極めをしっかりしないと訴えられたり、かなり面倒なことになるので注意が必要だ。
街に住む亜人たちにとっても森で住む魔物たちは厄介な存在のようで、もう同じ種族として一緒にされるのを嫌がる亜人も多い。
今日の依頼は森のオーク討伐3頭。
冒険者ギルドに持ち込み換金してもらいにやってきた。冒険者ギルドの中は夕方依頼を終えた冒険者たちが達成報告したり、併設されている酒場で早くも飲みだしている人もいる。中には魔物を担いで持ってきている人もいるが、俺はマジックボックスのおかげで大きな魔物でも簡単に運べるので非常に便利になった。
オーク肉は受付窓口ではなく、解体受付と言われる素材売却用の受付に行く。
解体受付では名前と登録番号を告げてオーク本体だと言うと、直接奥の解体場へ案内される。
「それじゃあここにオークをだしてもらえるか」
俺はマジックボックスからオーク肉3頭を指示された机の上と横の地面に置く。
「兄ちゃんすごいな。その年でマジックボックス持ちなんて。変なの多いから狙われないようにしろよ」
解体所の屈強なおじさんがそう心配そうに言ってくれた。
「ありがとうございます。従魔もいますので大丈夫ですよ」
「しかしこれだけのマジックボックス……王様あたりしか持っていないやつじゃないか」
「いやこれでギリギリですから」
俺は慌てて否定しておく。
あまり入れすぎると目をつけられたりしたら色々面倒そうだ。
できるだけ注目はされない方がいい。
えっもうすでに注目されてる?
だからこそだよ。
おじさんは少し驚いたように見ていたが、
「いやいや、よけいなことは考えずに解体しよう」
そう言って作業を始めた。
受付に戻るとオーク討伐の報酬として3万ミノモを受け取る。
「いやー今日は何事もなく無事に終わったね」
「ピギゥー」
ん?別に前振りとかじゃないからね。
家の前につくとクラウドがなぜか慌ただしく俺の肩や頭のまわりを行ったり来たりしだした。
「どうした?クラウド」
「ピギゥー」
クラウドが鳴くとほぼ同時に家の扉が音を立てて吹き飛ぶ。
「えっ?」
その光景に俺は急に頭痛を覚える。
「おぉ帰ったなアルス! 元気そうで嬉しいぞ。おっそれがアルスが手に入れた従魔か」
そこには、ドアと共に吹き飛ばされ、逆さま壁に打ち付けられた父の姿があった。
父の名はアニス。
元貴族で今は冒険者をやっている。
アルスと同じ黒髪に白銀の髪と整った顔立ちで静かに黙っていればイケメンと言われる分類に入るだろう。
黙っていて結婚していると言わなければ非常にモテる。
父は貴族として生まれ育てられてきたが、ある日、母にも詳しい理由を話さずに冒険者になってしまった。昔から祖父のおかげで父は騎士団から剣技を学び、宮廷魔術師より魔法を学び常に最高のパフォーマンスをだすことに情熱を持っていた。
父は自分のことを今世紀最大の魔法と剣士をあわせた魔剣士の貴族だと言っていた。
父は元々剣と魔法の才能があったようで、貴族の見栄と権力の中で生きているよりも冒険者の方があっているようで、今では国からの依頼も個人的に受けるようになり今は各地の調査に行っている。
「父さんお帰り。今日はどうしたの?」
「おぉいやちょっと母さんがあまりに魅力的だから後ろから驚かしたらこの通り風魔法で吹き飛ばされてしまったよ」
俺は父さんの手をとり立たせる。ほぼ毎回同じようなことをしている。
こうやって毎回ふっとばされるのがわかっているのに懲りていない。
「ありがとな。それが噂のドラゴンの子供か」
父さんがクラウドの頭に手を置きなでる。
クラウドは気持ちよさそうになでられている。
「ピギゥー」
「可愛いい子だな。ところでなんで女の子なのにクラウドなんだ?」
「いやなんで女の子ってわかるの?」
「見てわからないのか。修行が足りないな。少しまた稽古をつけてやろう」
そう言って俺の頭をグシャグシャとなでる。
父さんは家に帰ってくることはめったにない。
今回はいったいどんな理由で帰ってきたのか一抹の不安が胸をよぎった。




