決着
「なっなぜお前がその姿をしている」
「あら、私の姿を知っているなんて悪魔って物知りなのね」
仮面の男はクラウドを見て意外なものがあらわれたかのように少し慌てている。
「クラウド……なのか?」
そうアルスが呼びかけると、金色の翼竜はアルスの方を見ながらウインクして、
「アルス、私あなたに話たいことが沢山あったの。卵を割った件とか、私をトカゲ扱いして虫を食べさせた件とか、可愛いレディに向かってクラウドなんて男の子の名前をつけたこととか……後で色々話し合いしましょ」
背中に冷たい何かが流れる。
この嫌な感じは今日一番……だと!?
俺いろんな意味で死んだかも知れない。
「お前はこっち側だろう。なぜ人間側にいる?」
仮面の男は少し不機嫌そうにクラウドをにらみつける。
「どっち側なんてものはないわよ。たまたま前回は守りたいものがそっちにあったというだけ。あなたの安っぽい価値観で私をはからないでくれるかしら。一番大切なのは、そこに誰がいるのか、誰と自分が一緒にいたいかが大切なの。あなたも、もう少し人生経験を積めばわかるかもね」
「そんなもん知るか! 今こっち側に味方すれば俺たちが世界を手に入れた時にそれなりのポストを約束してやる。さらにそこの男には先ほど1発殴られているから、借りを返すの手伝ってくれるならば、お前を上位悪魔のクラプス様に紹介してやろう」
「あぁクラプス……まだ生きているのね。そうね。世界を手に入れるかぁ」
クラウドはゆっくりと歩きながら仮面の男に近づいていく。
そして、おもむろにクラウドは足を持ち上げると仮面の男を踏みつぶした。
「あなた達いつも勘違いしてるけど私世界なんて欲しがったことないのよ。たまたま利害が一致したから協力しただけの話。それにその理屈だと、まずはあなたに殺されそうになった私の1発をあなたにお返ししないとね」
クラウドが足をどかすと男の身体だと思っていたものはただの人形となり土となって崩れ去った。そこには男がつけていた不気味な兎の仮面だけが壊れずに残されている。
仮面は急にフワフワと浮かびあがる。
「お前たち俺に歯向かったことを必ず後悔させてやる」
仮面からまがまがしいプレッシャーを感じる。
「そんな捨て台詞はいてないで、次は本人がきなさい。こんな人形の裏に隠れてるような小物じゃたいしたことないでしょうけど」
「小物だと!俺様は……」
クラウドが口から凍てつく吹雪を吐き仮面が見るみる凍らせていく。
「クッ……必ず……覚え……」
仮面はパリンと音を立て地面に落下した。その後二度と動くことはなかった。
「さて、あまり時間がないわ。そろそろ……」
クラウドが動き出そうとした瞬間、入口を閉ざしていた土の壁が破壊され、リドルド王の父親があらわれた。
「遅かったか。アルス。すまんかった。他にも魔物があらわれて一番戦力のあるここの対応が遅くなってしまった。こうなれば刺し違えてもワシがそいつを倒してやる」
いきなりあらわれたリドルド王の父親はクラウドを見て剣を構える。
空気が変わり、ねばっとした液体の中にでも入ったかのように身体が重くなる。
その剣は不思議なオーラを発し剣のまわりの空間が歪んでいる。
そのままいっきにクラウドへと切りかかる。
俺はトップスピードになる前にクラウドとの間に入り剣を受け止める。
「アルス邪魔をするな!」
「これはどういうことですか?」
剣を防がれたリドルド王の父は一度距離をとる。
「先王いったいなにを!?」
「キイロお前ならコイツの危険な魔力がわかるはずだ」
「それは……」
「おじいちゃんせめて理由を教えて」
アスリアとキイロもクラウドをかばうように先王との間にはいる。
そこへ慌てて遅れないようにマリアも戦線に加わる。
「あら、みんな私の味方をしてくれるなんて優しいのね。でも大丈夫よ。そこのおじいちゃんにも話があったし」
クラウドはまるでお散歩に誘うかのようにのんきな声で先王に話しかけている。
「言葉をしゃべれる……だと!? お前は世界を滅ぼすためによみがえったのじゃないのか?」
「あら? あなたの先見の力ではそう見えているの?」
「なぜお前が私の力を……!?」
急速に先王からの殺意が消えていく。
「なるほど、そういうことか。女神様もあいかわらず人が悪い」
先王が剣を鞘にしまうと身にまとっていた重い空気から解放される。
「お前がここにでてきたことには意味があるってことだな。」
「えぇそうよ。でも残念だけど、あまり時間がないから手短に話すわね。まずはおじいちゃん、あなたには私と同じ力があるわ。だからこそあなたの力をきちんとまわりに話しなさい。これは過去に失敗した私からの助言。特に王妃には話しておきなさい。それがアルスのため、国の為になるから。それとアルスを助けてくれてありがとう。あなたがあの日したことでアルスの運命は変わったわ。ただ、女神に会ったらば言っておいて。あなたのこういうやり方はやっぱり嫌いだって。
それからアルス。私は龍の子だからトカゲ用の餌は食べさせないであげてね。この子はあなたの事が大好きだから疑いもなく食べているけど、将来恨まれて食べられるわよ。それから、この子は強いけどまだ弱いわ。無理をさせないで。しっかりあなたが守ってあげてね。
私は彼女が望んだから一瞬こうして表にでてきただけだから。きっと彼女は私だったことを忘れてしまう……でも、それでいいと思うの。この姿であなたと会うことはもうないかもしれないけど、ゆっくり大きくなるのを待ってあげて。あなたと会えてよかった」
クラウドの姿が少しずつ金色の羽になって分解されていく。
「この羽は……?」
クラウドの羽に触れた傷ついた従魔や怪我をしたところが治っていく。
「あっ一つ言い忘れたわ。アルス、あなたの涙はとても温かかったわ。私の為に泣いてくれてありがとう」
「クラウド……」
クラウドは嬉しそうな笑みを残して金色の羽となり消えていった。
そこに残されたのは、少し羽が大きくなったクラウドが横たわっていた。
「さて、それじゃ戻るかの」
何事もなかったかのように先王が帰ろうとする。
「おじいさま。まだお話は終わっていませんよ。せっかくですからここでお話をしていきましょうか」
そこには背後に阿修羅が見えるアスリアの姿があった。




