表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/75

王妃の決断~自分の正義と他人の正義~

 問題が山積みの時に限ってお義父様たちは問題を起こしてくれる。

 本当にトラブルメーカーだ。


 ただ、不思議とそのトラブルが問題解決の糸口に繋がってくれることが多い。

 きっと彼らは天に愛されているのだ。

 解決能力があるからとどんどん問題が目の前にやってくる。

 半分くらいは自分で問題を作ってしまっているが。

 ただ、問題を起こしてもそれを自分たちだけでなんとかしてしまう力がある。


 この社会は不器用な人間に寛容ではない。

 人間は自分と違う価値観の人間を許容できず、すぐに批判し排除する。

 自由の意味を履き違えている人ばかりだ。


 お義父様たちは自分を表現することが不器用なだけ。

 今まで誰も彼らに教えてなどくれなかったのだ。

 彼らには天性の戦いのための才能があった。だが才能がありすぎたのだ。

 戦いのある世界では重宝されていただろう才能が、平和な世の中ではただのトラブルの種でしかない。


 だからといって誰が彼らを見捨てられるというのだろうか?

 彼らは、一度は誰もが空想して諦めてしまったことを実行するための能力と行動力があってしまっただけなのだ。

 それがわるいことだとはいわないが。


 ただ、彼らの中にも、越えてはならない一線というものは存在する。

 それが相手のためを想っての行動なのか。

 それともただ相手を傷つけるだけの行動なのか。


 他人をいつも批判している人間がいる。

 亜人だから悪だ。

 馬鹿だから悪だ。

 理由もなくあいつが悪だ、と。まるでそれが絶対的な正義だとでもいわんばかりに。


 私はそういう人間を哀れに思ってしまう。

 人を傷つけてはいけないという事実を教えてくれる存在がいなかったのだろうと。

 きっと寂しい人生を送っているのだろうな、と。


 もっと自分の常識を疑ってみればわかることなどたくさんある。

 誰も彼も自分が見たいものしか見ていないのだ。それが唯一の自分を守る術だとでも思っているのかもしれない。


 情報は何者かによって統制されているのが常だ。

 それを都合よく使う人間もいる。


 街中で魔王復活の噂を流し、この国を陥れんとしている輩がいる。

 その噂のせいで亜人とそれ以外の民の仲が悪くなっている。

 どうせ魔王の復活なんてないからそのうちおさまるとは思うのだが。


 そいつらがどんなに望んでもどんなに願っても残念ながら奴らの魔王が復活することはありえない。


 王宮の中でも最大級の極秘事項。

 魔王はすでに復活している。

 復活とは言ったが正確にはこの世に転生されていると言った方が正しい。


 だが一部の例外を除き魔王復活の報は秘匿されている。

 人間は自分と違う者を排除するのはわかりきっていることだからだ。

 理解できないものを理解しようとするのは難しいことだ。


 魔王が転生していると聞いたらば、人々は疑心暗鬼になるだろう。

 そして魔王探しが始まる。その結末は火を見るよりも明らかだ。


 今の魔王は記憶を取り戻していない。いや、受け継いでいないと言ったほうが正しいか。

 力の強い者は転生すると時々記憶を引き継ぐことがある。

 かつて勇者と呼ばれた人々がそうだったように。


 でも私は、魔王にはこのまま普通の子として生きてもらいたいと思っている。

 争いがない世の中で今度こそ幸せな人生を送ってもらいたいのだ。

 その為には私はできることならなんでもする。


 争いがなくなるのならばネジの外れた親子だって手玉にとってやるつもりでいる。


 要領の悪い者はなにをどんなに頑張ってもだいたいは貧乏くじを引く。

 要領のいい者は何をやっても許されることが多い。

 魔王はその要領が悪い方だった。

 時代の流れと共に価値観が変わるのと同じように善悪なんて簡単に変わる


 問題は魔王復活のデマを流されることではない。

 魔王を操っていた奴が本当に復活することだ。


 この世界には広まっていない情報というものがそれはもう沢山ある。

 魔王は弱い心を悪魔に操られてしまっただけの被害者だ。

 その当時の文献を見れば魔王にも同情の余地があるのは明らかだ。


 勇者は魔王を討伐したが、残念ながら陰で糸を引いていた悪魔は逃がしてしまった。

 悪魔は各地を転々と逃げ回りながら少しずつ力を取り戻している。


 この世界には自分の正義をふりかざす人間が本当に多い。

 自分が知らないことを棚にあげ、他人を見下し笑っている。

 大概その手の人間は本質が見えていないものばかりだ。


 細かいことを気にかけて人を攻撃する。

 自分に自信がないから他人を見下すことで安心するのだ。

 見下された人間が自分より弱い人間をさらに攻撃する。


 そうやって社会はなりたっている。

 その陰で悪魔は人の弱さに付け込んでいるのだ。



 でも私はそんな彼らも救いたいと思ってしまう。

 全員が幸せになれる世界なんてないことはわかりきっているのに。

 ただ、頑張っている人が認められる世界になって欲しいと、そう心から思う。


 人を見下している暇があるのなら上を目指せばいい。

 まずはお前がやってみればいい。

 魔王にだってなってみればいい。


 それまでに行動しなかった者、批判だけをしている人間にはわからない。


 小さな自分たけの世界で満足していた者はいずれ気付く。

 自分がどれだけ悪魔に操られていたのかを。

 悪魔はすぐ近くにいる。

 力をためこの世界に破壊と混沌をもたらすために。

 批判ばかりする心の弱い者を操って。


 そしてもう一つの極秘事項。

 この国の国王は女神様からの啓示を受けとることができる。

 女神様と言っても小さく、本当に自由な幼子のような女神様なんだとか。

 その女神様が国王陛下へ魔王を転生させたことを告げてきた。

 今回の人生では魔王を魔王にはしないようにと。


 昔はこの力をすべての民に公にしていた。

 でも、この力はいいことばかりではない。

 よくも悪くもわかっていて覆せないこともあるのだ。

 女神様の啓示を毎回人間が覆せるならばわざわざ女神様も啓示などしてこない。

 よくて最悪から少し悪いになるくらいだ。


 今の王は形だけだ。

 頭は悪いし、顔はちょっといいけど、トンデモないことするし、子供みたいだし。

 でもそれでいい。

 王一人が権力を持つことがいいとは限らないのだ。


 女神様は問題を解決する能力がない人間にわざわざ啓示はしない。

 ただし、告げられた問題から逃げれば、どんどん問題が大きくなり、やがて形を変え何度もやってくるようになる。


 彼らには平凡なんて言葉はまったく似合わない。

 そんな私も同じ穴の狢だ。

 問題が起これば起こるほどそれを楽しめる。


 つまらないことを大げさに騒ぐ人間を見るとどんどん冷静になっていく。

 そのルールがそれ程大切じゃないってことをいつか気が付くのだろう。

 そんなことを心の奥で考えながら。


 女神様が告げてきた世界の危機。

 今は少しずつでも今ある人材を育てていくしかない。

 第2の魔王を作らないために。

 そしてあの子たちに幸せになってもうらうために。


 さて、今回の騒動にそろそろ決着をつけよう。

 私たちの街をゴブリンに襲わせようとしたばかりか、私の娘をオークに襲わせ、

 そして魔王復活なんてデマを流した奴らを成敗しに。


 こんなことを計画した奴もそれに加担した奴も全員捕まえてやる。


 幸いにもお義父様が城外で問題を起こしてくれたおかげで犯人を見つけることができた。

 トラブルメーカーなのにこういう人を、持っている人間というのだろう。

 もちろんお義父様には調子に乗るから絶対に言わないけど。


 人は慣れていないと、なにかが起きた時咄嗟に誰かに頼りたくなる。

 今回の犯人も城外で予想外な問題が起きたことで自分の仲間に連絡をとった。

 それが犯人たちにとって致命的なミスだと知らずに。


 裏切者には制裁を。

 彼らの次の行動はわかった。

 後は決定的な証拠を押さえて血祭りにあげるだけだ。


 幸運なことは続くもので彼らが行動を起こすまでに準備がまにあった。

 それにしてもあの子がこんなにやるとは……

 嬉しい誤算だ。


 さて、そろそろ行こう。

 悪魔たちとワルツを踊りに。

 小さな世界に満足して自分の正義をふりかざすバカたちを殲滅しに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説書籍化しています。 ぜひ手に取ってもらえればと思います。 テイマー養成学校 最弱だった俺の従魔が最強の相棒だった件
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ