襲撃の本当の理由とキイロの今後
俺を助けてくれたのはリドルド王だった。
「アルス君助けるのが遅くなってすまない」
そこにはかつて遠目にみた威厳にあふれた王の姿があった。
「いえ、自分の方こそ助けて頂いてありがとうございます」
「いや迷惑をかけたのはこっちの方なんだ。襲撃犯がわかったんで急いできたんだよ」
「襲撃犯って」
リドルド王は襲撃犯の方を向き
「そろそろふざけるのはやめましょう。お父さん」
「なんだバレたのか」
えっ……と今戦っていたのはリドルド王のお父さんとお母さんってこと!?
リドルド王の父親と母親はこの国の生きる伝説だ。
魔王が滅び一時の平和が訪れた後に起こったのは人間同士の争いだった。
その争いは長く続いていたがそれを自分たちが戦場にいき、やめさせたのがリドルド王の両親だった。
この話は子供用の教育本にもなり、戦鬼と戦女神と言えばこの国で知らないものはいない。
ただ、一部のネタとして酒の席で語られる話では実はかなりの脳筋で、
「自国の戦がないなら他国の戦に参加すればいいじゃない」
って言ったとか言わなかったとか。
それ以外に現在の国の暗部を全員鍛えたのがリドルド王の両親だとか。
これもあくまでも噂でしかないが暗部の訓練がきつすぎて逃げた兵士がいたそうだ。
その兵士によると、
「あの2人の考え方はぶっ飛びすぎててついていけない。人は何時間戦い続けられるのか答えてみろって言われて一人の兵士が長くても1時間程度だと思います。って答えたんだよ。そしたら、やってみなければわからない。って言いだしそこからは丸2日間、寝ないで兵士と戦い続けたんだよ。しかも兵士は怪我をしたらばすぐに回復させるから戦線離脱もできず。しかも自分に弱体化の呪いまでかけて。あの2人を見たら逃げなきゃダメだ。いや目をつけられたら終わりだ」
なんて言っていた兵士が数日後に行方不明になったとかって話もある。
とにかく表では英雄だが裏では脳筋という噂が絶えない人だ。
「アルスくんこれを飲んでおきなさい」
リドルド王から緑と青の回復ポーションをもらう。
「お父さんこういうおふざけは本当にやめて頂きたい。この辺りの地形も変わってしまいますし、この方向でお父さんが魔法を放ったら王都まで破壊されますよ」
「ひゃはは。あと少しだったんじゃがな。ただ、いくらわしでも大切な王都を破壊だなんてそんなことはせんよ。準備は万端だ。任せろわしを誰だと思ってるんだ。後ろでちゃんとキイロが待機しているからな。キイロならわしの魔法をはじくくらいは鍛えてある」
キイロの方を見ると服の一部が溶けきわどい服装になっている。
それを両手で隠し涙目になりながら座り込んでいた。
それも王都とは別の方向で。
「お父さんどこが万全なんですか。本当にいつも計画が雑で穴だらけなんですよ」
「まぁ終わりよければすべてよしだ。万事解決だろ」
「いや何もまだ終わってませんから」
「はぁ。アルスくんは自爆してまであなたたちのこと倒すつもりだったんですよ」
「なんだそんなこと。孫娘の旦那候補だというならば命の一度や二度かけられずにどうする」
「お父さん。命は一度かけて失敗したらば二度目はないんですよ。そんなこと言ってるから西の国の王子とだって」
「それは言わない約束じゃろ。あれは軟弱な王子がいけないんだ。それに可愛い孫娘がいつまでも手元にいるんだからいいじゃろ。命あるものいずれは散りゆくさだめ。アルスくんだって冒険者の端くれ、冒険者とは死ぬことと見つけたりといって死んでくれるさ」
「お父さんこのことは後でゆっくり話しましょう。キイロいつまでも座ってないで!コボルト君たちの麻痺の解除とお母さんを起こしてあげて」
「はいっ!わかりました」
リドルド王の親が脳筋だということだけはわかった。
もうできるだけ近づかないようにしよう。
「アルスくん大丈夫……じゃないよね」
そこにはアスリアが立っていた。
「まだ力は入らないけど、どうにか死なずにはすんだかな」
「よかった。本当にごめんなさい。うちのおじいちゃんとおばあちゃんが」
「こないだの王宮での襲撃もおじいちゃんたちが?」
「そう。あの日王宮に忍び込んできたと思った賊をあの後レノバさんが追ってくれていたんだけど、外部から入った痕跡も出た痕跡もまったく残ってなかったの。それに王宮内には色々なトラップがあったのに反応もしていなかったからあの日のうちに内部の犯行を疑っていて。まさかアルスくんを追ってここまでするなんて思っていなかったから。対応が遅くなってしまってごめんなさい」
アスリアの家族がこんなぶっ飛んだ家族だとは知らなかった。
なぜか急に可哀想になってくる。
「俺は大丈夫だよ。でも結局なんのためにやったの?」
「なんかおじいちゃんが私の婿にアルスくんがなるとか勘違いしちゃったみたいで、それで暴走しちゃったみたいなの」
「アスリアそれは違うぞ。リドルド王がしっかり城の警備強化や、アスリアの警護をさせないから、わしらが身体をはって教えてやったんじゃ」
「おじいちゃん、暗部を育成した2人とキイロさん相手に気配を察知したりできる人なんていないの知ってるでしょ。それにアルス君は関係ないじゃない」
「いや、前回見た時にもったいないなと思っての。小僧ちょっとこっちに来い。そしたら目をつぶって力を抜け」
俺は言われるがまま側に行き、目をつぶって力を抜くと腹部に衝撃が走る。
「フグッ」
「ちょっとおじいちゃん!」
「小僧どうだ? 呪術をといてやったぞ。魔力の流れが今まで以上にはっきりわかるようになって、スムーズに動くだろ」
腹部の痛みに耐えながら自分に回復魔法をかける。
確かに今までよりも楽に回復ができる。
「不思議な感じです。魔力が自分の手足のように動かせます。今まで足枷でもつけていたような気分です」
「小僧は今まで魔力がありすぎて、多少使い方がおおざっぱでもそれなりにやってこれたんだろう。だけど本来のポテンシャルとしてはもっと強くなれるのに無駄な使い方をしてたから、一度封じて鍛え直してやったんだ。まぁばあさまを眠らされた時は本気でキレたがな」
そのせいで俺は死にそうになったんだけど。
だけど、魔力の質や流れが今までと別のように感じる。
「そんな理由があるとは知らず、ありがとうございます」
「なに気にするな。それに今は少しでも戦力を増やしておかんとな。」
そこへキイロがやってきて両手を地面につき頭を下げる。
服が溶けてしまっていて目のやり場に困るので上着をかけてやる。
「アルス様この度は数々のご無礼もうしわけありません。何卒ふつつかものではありますがよろしくお願いします」
「どういうこと?」
「我が一族では肌を見せるのは添い遂げる男性のみという伝統があります。肌を最初に見せた男性と結婚をしなければならないのです。私もアルス様となら」
いや狐耳可愛いけどさ。顔赤くされたりしても困る。
「アルスさん、キイロの服をあんなにしてどういうつもりですか?」
「いやどういうつもりもなにも戦闘……」
「そんなことは聞いてません。どうして女性相手にあんな服のとける液体を投げつけるんですか」
「アスリア、男はみんなそんなもんなんだよ。許してやってくれ」
リドルド王頼むから少し黙っててくれ。
本人には言えないけど。
「そんなの理由になりません。それにアルスさんは違います」
「違わないさ。エルガドフなんて女性の服を溶かすためだけにホワイトプラントを大量に育ててたんだから。俺もあいつに会った時たまたま見つけたんだけど。きっとあれを使ってあんなことやこんなことをしてるに違いない。けしからん。まぁそのことをあいつの奥さんに教えたらば離婚になったけどな。エルガトフじゃなくてエロガトフだったってことだ」
王様サラッとすごいこと言ったけど、その人俺たちが通う学校の元学長だからな。よくそんな学校に娘をいかせよう思ったな。しかも他人の家を離婚にまで追い込んでるし。
「なぁアルス君も言ってやってくれ。娘に変な希望を抱かないように。戦闘中につい魔がさしてしまったんだろ。男ならば誰にだってある。ただ狐族だからな責任はとるしかないがな。まぁ娘が成人するのをまって側室で迎えいれてやればいいだろ」
「イヤ、リドルド王本当に冗談はやめてください。こっちは死にそうになってたんですから。とにかく攻撃をやめさせることしか考えてませんでしたから。じゃないと俺とクラウドだけじゃ3人に太刀打ちできませんでしたから」
「両親はいくら引退したとは言え、元世界1位と2位だし、キイロは父の作った暗部のでもかなりの使い手だからな。そう簡単に負けてもらっても困る。ただ狐族の掟があるからな。よしじゃあキイロはアルスくんの家の横に引っ越しをしてそこから暗部とかけもちってことで」
「いや勝手にそう決められても。」
「えっ王様の言うことが聞けないの?」
「いえ……そんなことは」
「ただ手は出しちゃダメだからね。よしそれじゃ落ち着いたところでメルナが気がつく前に城に帰るよ」
「そうね。気が付かれたらば大変だもんね」
第2戦が静かに始まろうとしていた。




