再度の襲撃
ホワイトプラントの掃除をしたその日の夕方俺はコボルトたちを連れて街の外へ来ていた。
朝エルガさんに言われたことをずっと考えていたのだ。
「自分から知識は吸収していくもの」
今俺は魔法が使えない。
この症状はあと2日続くそうだ。
だけど、本当にこのままでいいのか。
ここで使えるようにすればこの先自分の人生を切り開くきっかけにできるのではないか。
そう思った俺はコボルトたちに薬草の採取依頼をお願いしている間に、ある実験をするためにやってきていた。
コボルトたちは王宮でもらった新しい装備をつけている。
「あまり俺から離れないようにな。人間に野生のコボルトだと思われ襲われても大変だから」
「マスターわかってますよ。ただ、今なら魔法のつかえないマスターより俺たちの方が強いかもしれないですよ」
「おっだいぶ言うようになったな。そっちは武器ありでいいからやってみるか?クラウドには勝てないと思うぞ」
「いや、クラウドさんはずるいですよ」
などと笑いながら平野を進む。
俺たちが街から少し離れた平野の中を歩いていると、急にクラウドがシッポで方向を指し示しながら、
「ピギゥー!」
と俺たちに警告をする。なんだ!?
そう思って見た瞬間コボルトたちが次々に倒れだした。
防具をつけている隙間を狙っているのか!?
かなりの手練れだ。
「まっマスターかっからだが痺れて」
今回は麻痺毒か!
コボルト10人が動けなくなるとお面を被り黒装束をまとった3人があらわれた。
「じいさんや、最近の若者は魔法が使えないっていうのに街の外にでるなんて馬鹿なのかの」
「ばあさんや、若さとはたまにバカと読むらしいでの」
「あなたたちのやっていることも無茶苦茶ですけどね」
その3人のうち1人は声からして若い女性。
残りの2人はご老人のようだ。
「こないだの王宮で襲ってきたのはあなたたち3人ですね。狙いは俺ですか?」
「ほほほっただの馬鹿じゃないじゃないか」
「お前さんのためにわざわざ危険をおかしてまで王宮に忍び込んでやったんだから、ありがたく思うんじゃぞ」
「そんなことをしてどんなメリットがあるんだ」
「アルスさん年寄りのお遊びを本気にしていると疲れるだけですよ」
「これキイロ!ワシらを年寄り扱いするんじゃない。まだまだそこらの若い奴には負けんぞ」
「君がアノスくんかい?年を取ると忘れっぽくての」
「……」
名前が間違っているんだけど。敵相手に訂正するのも。
人違いっていってみようか。
無言のままどうするか考えていると、
「無言は肯定ってことじゃな。どれじいさんせっかく魔法が使えないようにしたんじゃからいくかの」
「そうじゃの、ばあさん。今のうちに始末しておかんと後々面倒だからの」
「ほれ、キイロも3人で仕留めるぞ」
「あなたに恨みはありませんが、これも仕事ですから」
「これキイロ余計なことを言っとらんでやるぞ」
お年寄りは大切にしなさいと言われ育てられたから、あまり手荒なことはしたくない。
ただ、そんな余裕はないようだ。
「ほれ、まずは小手調べじゃ!アスノくん」
地味に名前間違えやがって。
小さい氷が高速で襲ってくる。
これくらいならばクラウドの魔法で受け止めきれるが。
急にクラウドの魔法障壁が消える。
朝、エルガさんのをくらっていなければそのまま氷の餌食になっていたが対策はできている。
動きながら直線で食らわないようにする。
「ほっほ。いいぞ。その調子だ。次はもう少し回転をあげようかの」
コボルトたちがいなければ逃げに専念するのもありだが、こいつ等を置いて逃げる選択肢はない。
「クラウド反撃だ。いくぞ!」
マジックボックスから魔力吸収石を取り出し魔力を供給する。
これは過去にクラウドのために貯めていた自分の魔力だ。
自分自身の魔力をまとい基礎能力をあげる。
段々とまわりの時間がゆっくり流れてくる。
今回はあまり長時間の戦闘はできないので短期勝負だ。
「鬼人の拘束!」
複数の鎖が上空から3人を襲う。鎖が3人を拘束する。
「面白い魔法使えるんじゃな。でもまだ魔力が弱いの。本領じゃないからなどとは言わないでくれよ。これも真剣勝負だからの」
キイロを中心に拘束していた魔法陣が消えて行く。
マジックキャンセルか。
「今度はこっちから行くぞ!」
相手の一人から『影』が伸びてくる。
拘束系の魔法だ。
俺の足に絡みつき俺の動きが遅くなる。
まだ完全に拘束はされてないが、一度止まってしまったらば動きだすのはきつそうだ。
氷の塊を相手の頭を狙って放つ。
視線をそらさせることでこちらへの攻撃を外させる。
時間がない。魔力もない。
ただ頭だけは冷静にしていこう。
まずは相手を分散させることを考えないと。
「なんじゃ期待外れじゃの。ゴブリン倒したとかオーク倒したとか弱い魔物を倒して調子にのってるだけみたいじゃの。先にアスリアを狙った方が良かったかの」
「じいさんや、こいつを始末してからいけばいいじゃろ。他に邪魔してくる奴もいないしの」
「アスリアに手をだすな!」
「弱い犬ほどよく吠える。いや従魔の犬は痺れて動けないから吠えることすらできないか弱すぎるのは罪じゃのう。」
挑発にのってはいけない。
さらに一段深く潜るイメージで頭の中は常に冷静にそして視界を広げていく。
「クラウド。一人ずつ倒して行くよ」
「ピギゥー!」
高齢者を狙うのは正直心が痛いが、命を狙われた以上本気でいくしかない。
まずは相手の弱いところから狙っていく。
最初はおばあちゃんだ。
土魔法を使って即席の壁を作って3人を分断する。
気配感知で見えない敵の動きを読みながら壁の先にいるおじいさんとキイロの前に大きな落とし穴を作っておく。正直こんなの時間稼ぎでしかないが一瞬でも落ちるか連携が途切れればそれでいい。
キイロは問答無用で直線的に壁を突き破り、その勢いで穴に落ちて行くが、すぐに体勢を整えて上がってきている。垂直の壁を登れるってどんな訓練してきたんだよ。
おじいさんは壁を……オイオイその高さを飛び越えるってもはや人間じゃないだろ。
穴には落ちてくれなかったが一瞬動きがとまる。
よし!いまだ!おばあさんにだけ鬼人の拘束で身動きを封じる。
「ほほほっ学習能力のない男だね。そんなんじゃリドルドみたいになっちまうよ」
先ほど見ていた時におばあさんは拘束されて一番自分で解除に時間がかかりそうだった。
別に殺すつもりはない。
しばらく眠ってくれればいい。
おばあさんにアスリアに使われた封魔の腕輪を使う。
あの後、レアアイテムみたいだったのでこそっと回収しておいたのだ。
そして睡眠魔法スリープをかける。
残り2人。
「こわっぱ。よくもわしの大事な妻に変なことしてくれたな。生きて帰れると思うなよ」
「アルスさん倒す順番間違えましたね。こうなったら終わりですよ」
おじいさんの存在感が3人の時より増す。
一人ずつ倒して行くしかない。
ただ、もう魔力が……
考えても仕方がない。最善を尽くすだけだ。




