3人に空き教室に呼び出される。
やぁ元気にしてるかな?
今日はジャパニーズジャンピング土下座について教えてあげるね。
ジャパニーズジャンピング土下座というのは最大級の謝罪をする時に使う奥の手なんだ。
やり方は簡単。ジャンプして正座の姿勢になり頭を地面にこすりつけるだけ。
この時両膝をしっかりとガードしておかないと怪我をするから良い子はマネしちゃダメだよ。
えっそんなの使うことがあるのかって?
もちろんあるよ!僕は奥さんに浮気がばれたときによく使っているよ。
これさえ決まればもう大丈夫。もしかしたら頭を踏みつけられるかも知れないけどそれはそれで嬉しくなる日がくるかも!?
なんてね!それじゃまたね~。
異世界勇者の日記より一部引用
俺は学校の中でもあまり人のこない教室に呼び出された。
学園内での暴力行為は一切禁止だが、もちろん影でやっている奴はいる。
表ざたにならなければ問題ないと思っている奴はどこにでもいるのだ。
教室には俺が先に入るように促され、出入り口は3人によって封鎖される。
できれば逃げ道を確保しておきたいが……貴族相手に手をだすということはそれだけのリスクがある。
戦わずにすむならばそれが一番だ。
さすがに学校内で一度取り逃がした相手を何度も呼び出したりはできない。
それに、学校の外ならばコイツらから逃げるのは簡単だ。
「何かようかな?できるだけ手短にお願いしたいんだけど」
「お前ら、わかってるな」
3人が目配せをして何か合図をする。
今回はさすがにクラウドに戦わせるわけにはいかない。
こんな教室内でクラウドが暴れたら人を襲ったということでクラウドが処分される。
俺がやるしかない。
クラウドはあくびをしながら興味なさそうに俺の肩でウツラウツラしだした。
いや、彼らを危険がないって判断するのわかるけど、少しは興味をもってあげて。
「行くぞ!」
男達3人がいっきに宙を舞う。
同時にくるのか。まずは攻撃を避けて右端の男にカウンターをき……め……なくて大丈夫そうだな。
宙を舞った男達はそのままキレイに膝から着地し地面に頭をこすりつけている。
彼らの見事なジャンピング土下座に一瞬声を失う。
「「「朝はすみませんでした!」」」
頭の理解が追い付かないのだが。
「どうした急に?」
頭を地面にこすりつけたままボルホイが、
「数々のご無礼大変申し訳ありません。何卒お許しください」
と言ってまったく動こうとしない。
「あっごめん。話が見えないんだけど一体どういうこと?とりあえず顔をあげようか」
「はいっ失礼しましゅ」
思いっきり噛んでいるがスルーしてあげよう。
「わけを話してもらえると助かるんだけど」
ボルホイが言うには、昨日王女が誘拐された件で父親から内密に王女様を不審人物から守るように言われたそうだ。そこで聞き込みをすると、朝いつも王女様と密会している怪しい人物がいるという話を聞き朝俺に絡んだらしい。
「クラスでは孤高の美しさを保ち、誰も神々しくて彼女に話かけられない。そうまるで神話の中の女神。なぜ彼女はあそこまで美しく気高くいられるのか。きっと俺たちでははかり知ることのできない深い考えがあるに違いない。でも、クラスでは静かな王女様がトカゲ男と呼ばれている男と絡んでいると聞いててっきり騙されているのかと思いまして」
「クラスではぶかれているんじゃないの?」
「何をおっしゃるんですか、クラスでは一丸となってアスリア様の勉学の邪魔をしないように常にみんなで見守っています。それをはぶいているだんなて、そういう誤解はやめてもらいたい。」
「だって話しかけてないんでしょ?」
「高貴な身分のアスリア様は言ってしまえば高嶺の花。あなたたちのように気軽に話せるほうがおかしいんですよ。」
「でもアスリアは普通に話して欲しそうだったよ。」
「「「へっ?」」」
どうやら俺とは違い、アスリアは好かれすぎてクラスから浮いていたようだ。
なぜか残りの2人も「アスリア様」と宙を見ながらため息をついている。
色々な意味で危ない人間にしか見えない。
ただ、朝の件で王女様から話があり、昨日王女を守ってくれたのが俺だと聞き、勝手な勘違いで迷惑をかけたと反省して今の状況にいたるようだ。話してみると別に悪い奴ではない。ただ、ちょっと猪突猛進というか簡単に言ってしまうと残念な3バカだった。
クラウドを蹴り上げようとしたことだけはしっかりと謝ってくれと伝えると、クラウドにも土下座をして謝っていた。クラウドは別に興味ない。って感じだったが。
ついでにアスリアのことを聞いてみた。
アスリアは第3王女なのだが、王家の中でも魔法の才能を一番受け継いだのが彼女だった。
小さい頃から人よりも魔力があり度々、魔力が暴走をおこしていたため、彼女の魔力を封じる魔術をかけられているそうだ。そのおかげで魔力暴走は抑えられているが、今度は体調によって魔力欠乏をおこしやくなってしまっているらしい。
最近では魔力のコントロールもできるようにはなったようだが、彼女の魔術は18歳まで解除できないもので人よりもハンデと戦いながら頑張っているようだ。
なぜか、彼女の話をしながら3バカは涙をながしている。
小さい時から一緒にいたせいで普通に彼女のファンになっているようだった。
そこに急に俺がでてきたらか少しいじめてやろうと思ったら、実は大恩人とわかり今回の謝罪になった。ついでに彼女が襲われた理由を聞いてみたら、襲われる理由なんて考えられないという。
ただ、彼女が人から好かれ過ぎているために、将来彼女が権力を持つのではと不安に思っている人もいるようだ。ボルホイの父親は王様と小さい頃からの付き合いなので彼女を守るためにいろいろ影で動いているようだ。
「アルスさん、恥をしのんでお願いします。私たちでは王女様を守り切ることはできませんので、ぜひ協力してください。」
「俺はもとから何か危険があれば守るつもりだから。」
「ありがとうございます。」
3人は朝の態度とは大違いだった。誤解で人を襲うのはもう辞めた方がいいぞとだけ注意はしておく。
俺じゃなければ大問題になっている。
話を聞いてみたら、彼女がまぶしすぎてつい彼女の前ではカッコつけようとしてあまのじゃくな行動をとってしまうらしい。俺のまわりにも小さい頃、好きな子にちょっかいだして気を引こうとしていたこんな奴がいた気がするがそろそろ成長して欲しい。
彼らはジャンピング土下座をした時にあまりに思いっきりやりすぎて膝を痛めていたのでクラウドに治してもらう。ボルホイがクラウドを近場で見ながら
「トカゲって噂でしたが、小さい龍の子供だったんですね。どうりで強いはずです」
と言って妙に感心している。
「いや、白い卵から生まれたから多分トカゲだぞ」
確証はもちろんないが、クラウドを見て龍の子だと言ったのはボルホイだけだ。
なぜか龍である確率がすごく遠のいた気がする。
「そうなんですか。前に見た龍の子に似ていたので龍かと思いました。でも、トカゲだったらなおのことこれだけ強いとは育て方が上手なんですね」
なんて言ってきたが、俺は全然嬉しくない。
この学校に来てずっとトカゲ野郎とか、トカゲ男とか言われ続けたから急に褒められたからと言ってそんな顔がにやけたりなんてことはない。ないはずだ。
その後は3人と一緒にアスリアの元へ戻った。
何事もないどころか仲良くなっているのを見て、
「アルスさんって精神支配とかの禁忌の魔法つかえるんですか?」
とか聞かれたがどんなイメージを持たれているのか心配になった。
ボルホイたちも
「アスリアさんが冗談を言われてる。」
とか言って驚いていたが……うん。細かいことは気にしない。
できる大人のように聞かなかったことにするのも大事だ。




