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魅了の魔法が解けたので。  作者: 遠野
嘲弄編

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11 まもなく開演、ご着席ください。(5)

 軽食やお菓子をつまみながら、ゆるやかに始まったノラさんとのティータイム。

 その話題の中心は言うまでもなく、三週間にも渡る私と風君の遠征についてだった。


 私としてはノラさんがこなしてきたクエストの話も聞きたいところだったけど、妹分()の初めての長期遠征、なおかつ女嫌いと名高い風君との二人旅ということで、思った以上に大きな心配をかけてしまっていたらしく……。

 あれはどうだった、これはどうだった、と矢次ぎ早に遠征中の様子を尋ねてくるノラさんの質問ひとつひとつにきちんと答えて、私はちゃんとやり遂げたんだよってことを伝えて、とにかく落ち着いてもらえるよう頑張ることにした。


 出発当初は会話もなくぎこちないものだったけれど、目的地に向かう道中に打ち解けて、クエストをこなす分には問題ないくらいに仲良く(?)なったこと。

 向こうではやたら現地のギルドの人に絡まれることになったので、お互いに困った時には助け舟を出しあうよう協力関係を結んだこと。

 新種のコボルト討伐は事前に相談して役割分担し、適材適所でこなしたので、なんの問題もなく遂行できたこと。

 正直大変だったのはそのあとで、現地のギルドの人たちに新種のコボルトを討伐するためのコツを教えて欲しいと頼まれたこと。

 口下手で説明下手、かつ人見知りの気が強い風君に代わり、レクチャーの時は矢面に立って話をしたこと。エトセトラエトセトラ。

 本当に色々と、ちょっと本筋には関係ないよな? というところまで、気付いたら洗いざらい全部話してしまった。


 ……いや、訊かれるままにああでこうでと話している途中、遠征の話(本題)から話題が横に逸れはじめたあたり――具体的には私がやたら向こうのギルドの人に絡まれて困った、という話題になったあたりで、私も『あれっ?』と思ったんだよ?

 この話題は別に関係ない……こともないけど完全な余談だし、ノラさんからしたらぶっちゃけどうでもいい話だよな、と思ったから、私もさっさと切り上げようとしたんだよ本当だよ嘘じゃないんだって!

 だって、下らない話題でノラさんの耳を汚すようなことしたくないし、そんなことどう考えたってしちゃいけないでしょ?

 脳内のイマジナリー同士がうんうんって頷いているからそうなんだよやっぱり間違いない。


 でもさ、当のノラさんが「アタシは聞きたいんだけどなァ……?」なんて、肘をついて軽く組んだ手に顎を乗せて、トパーズみたいな瞳を柔らかく細めながら色っぽく微笑むんだよ?? これに逆らえると思う?? 私は無理。同士も無理。

 そんなわけで、私の素性と違って話したところで問題ないことではあるし、ノラさんが聞きたいならいいか! と、訊かれたことは洗いざらい全部話してしまったのだった。

 ……ちょろいって言うな!



「ねぇノラさん」

「ん?」

「こんな話、本当に聞いてて面白かったの?」

「もちろんさ。アタシの妹分に手を出そう、なんて不届きなヤツには、ちゃぁんと『お話し』なくちゃいけないだろ?」

「わあ」



 一通り話し終えたところで恐る恐る、改めて、ノラさんに取っては聞き苦しいだけの話じゃなかった? と尋ねたところ、返ってきたのは意味ありげな笑顔だった件について。

 いったい何を思って私の話を聞き何を考えていたのかと不思議に思っていたけど、……なるほど?

 意味ありげな笑顔もそうだけど、ノラさんが言うところの『お話し』の文脈からして、どうやら向こうで執拗に私に絡んできた連中に対しての敵意(ヘイト)をもりもり溜め込んでいた様子。

 ……ええと、だから、つまりはそう、ノラさんは私を困らせたヤツに対してめちゃくちゃ怒っていて、そいつらに対してお灸を据えようとしてくれてるってことで。



(………………めちゃくちゃうれしい、かも)



 ノラさんに気にかけてもらえている、可愛がってもらっているだけでも、私にとっては十分すぎるくらいありがたくて幸せなことなのに。

 私なんかのためにノラさんが怒ってくれている、とか。

 あんまりにも贅沢なことで、嬉しすぎて、幸せ過ぎて、ありがたいを通り越していっそ恐れ多いくらい。


 ぶわ、ぶわ、と頬が熱をもって、胸の中でもじわじわあったかいものが広がって、頭の中がぽわぽわする。



(どうしよう)



 気にかけてもらえるのも、可愛がってもらえるのも、私のために怒ってくれるほど大事に想ってもらえるのも、困ってしまう。

 別に嫌なわけじゃない。そんなはずは絶対にない。

 だって、自分が向ける想いと熱量と、同じだけのものを返してもらえるのは紛れもない奇跡で、幸福で、……だけど同時に、怖くもあった。


 だって、もうじき王太子が自滅して、安心したウィロウが戻ってきたら、私はそれを手放さなきゃいけない。

 どれほど焦がれても、欲しても、決して手が届かない場所に行ってしまう。


 だから本当は、こんなに仲良くなるべきじゃなかったのに。

 憧れは憧れのままで、留めておかなくちゃいけなかったのに。



(失敗したなぁ)



 私が表に出ている間、ちょっとくらい満喫したっていいよね。なんて。

 そんな甘えがあったのは認める。

 久しぶりに自由に身体を動かせて、魔法を使ったり、食事を楽しんだり、ウィロウの中にいるだけじゃできなかったことに年甲斐もなくはしゃいでしまったのも、紛れもない事実で。


 でも。



(もっとあっさり手放せると思ってたのに)



 ――手放すのが怖くなるほど、ウィロウ以外のものに入れ込むなんて、思わなかったんだ。


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