04 坂道転がる赤い靴(4)
「まず風君ってさ、ビジュアルからしていいよね。
かっこいいというよりは美人さんって感じだけど、前にお母さまがお綺麗な方だったって言ってたし、まさにお母さま譲りの美貌って感じなのかなと。
……あ、やっぱり? いいね、お母さまの良いところをそのまま引き継いでるとかサイコーじゃん。
だからこそ人の目を惹きつけるわけで、……まあ、人見知りの風君からしたら知らない人に声をかけられるのは悩みの種なのかもしれないけど、あっちのギルドの女性陣が最初にはしゃいで声をかけに来たのも納得だなって思うよ」
「それから、そう、クエストの時の真剣な様子も思わず見惚れるものはあったよね?
私は陽動のためにちょこまか動いていたからじっくりその様子を見ていたわけじゃないけど、あっちのギルドの人たちが時間をかけてへとへとになりながらようやく一体倒していたコボルトを、こう、ばっさばっさと素早く切り捨てていくところとかさ。
『風君かっけー!』って思わずテンション上がっちゃったよね!
一撃必殺の仕事人ってまさに風君みたいな人のことを言うんだろうなぁって思ったもん。
鮮やかなナイフ捌きに、気配を潜めてバシッと決める的確な攻撃。
味方に居たらめちゃくちゃ頼もしいな~って思ったし、同じギルドにそういう人がいるってホント心強いと思ったなぁ。
ほら、魔法での攻撃ってどうしても派手になりがちというか、警戒されちゃうものだからさ、ああいう『気付いた瞬間にはもう終わってた』みたいな攻撃手段はちょっと憧れる。
……もちろん、手に肉刺ができるくらい風君がめちゃくちゃ頑張ったからこその実力なんだろうし、私なんかが簡単に真似できることじゃないことはわかってるよ?
でも、それがわかるからこそ憧れる気持ちもわかってもらえると嬉しいな。
言うなれば、ないものねだりってやつだよね」
「あと……風君、人見知りなこととか口下手なこと、気にしてるって前に言ってたじゃん?
でもそれ、風君の場合は不用意に自分の言動で相手を傷つけないようにって考えてるからこそ、初対面の人と会話するのが苦手なのかなぁって考えてみたりしてさ。
だとしたら、そうやって相手のことを気遣ったり、相手のことを考えられる優しさがあるのは風君の良いところだと思うよ。
世の中には自分本位にしか考えられなくて、相手のことなんてちっとも気にしないどころか、自分のためならどれだけ他人を踏みにじってもいいって考えるようなヤツだっているんだもん。
そーいうヤツを知ってるからこそ、風君のその慎重な優しさ? はめちゃくちゃ眩しいし、素敵だなって思う。
……言っとくけど、冗談とかリップサービスとかじゃないよ?」
――とまあそんな感じで、私の宣言に狼狽える風君を報復半分、お節介半分でひたすら褒めちぎってみた。
報復はともかくお節介とはなんぞや? と疑問に思う人もいると思うので軽く意図を説明すると、風君の自己評価や自己肯定感を上げるため、という完全に余計なお世話なのである。
というのも、恐らく、否、確実に以前聞いた身の上話……あの不遇過ぎる実家暮らしのせいで、風君はとんでもなく自分の価値を低く見積もっている。
遠征中は特に酷くて、まともに会話を交わすようになってからというもの、「自分なんか……」とか「自分なんて……」とか、ことあるごとに自分を下げる発言が多すぎるものだから、私が思わず「それやめて」って直接言っちゃうくらいには酷かった。
……自分で自分を蔑む言動を取ると、『こいつはそうやって扱ってもいいヤツなんだな!』と思った人間性クズが風君を蔑ろにしてくるからやめたほうがいいよって、(説教臭くなってしまって申し訳ないけど)こんこんと話してからは意識して減らしてくれている。
でも、とんでもなく根深い問題なのは明らかだから、やっぱり意識まではそう簡単に変えられないし変わらないみたい。
だからこそ、自分で自分のことをイマイチ認められていないというか、大切にできていないというか、そういう風に感じることが多々あって……私は決して心理学の専門家ではないからあくまで個人的な所感だけれど、被虐待児にありがちな心理なんだろうなと、そんな風に考えたりすることもあるわけで。
自分で自分のことを認めてあげられないなら、たくさん褒めて君にもたくさんいいところがあるんだよって伝えてあげたいし、自分のことを大切にできないならその方法を一緒に考えたいなと思ってしまったんだよね。
だから、まあ、これは私の余計なお世話でお節介ってことなんだけど。
私には他人の問題を気にしている余裕も、首を突っ込んでいる余裕もないだろ、と頭の冷静なところではちゃんとわかっている。
けど、三週間も一緒に行動して、一緒にご飯を食べたり、おしゃべりをしたり、同じクエストに挑んだりしていると、放っておくこともできない……というか。
なんだろうね、この、『拾った犬や猫の面倒はちゃんと見なきゃいけない』みたいな心理。
風君は人間なんだけど、なんか、こう、もちろんウィロウとはくらぶるべくもないんだけど、目を離せない感じ……???(ろくろをまわしながら)
私以上の世間知らずさも相まって、年の離れた弟の面倒を見ている、と表現するのが一番しっくりくるかもしれない。
図体は私よりデカいのに、雛鳥みたいにあとをついてきたり、わんこよろしく尻尾をぶんぶん振ってる幻覚が見えるせいかな……。
ちなみに、褒め殺しを受けた風君の反応を補足しておくと。
「おれがわるかったからゆるしてくれ」
耳まで真っ赤になったあと、しおしおとテーブルに突っ伏して、蚊の鳴くような声を上げるのが精一杯という現状であります。
うーん、図体のデカい男の子に使う形容詞じゃないけどかわいいね。
もちろん彼がテーブルに突っ伏する前に朝食セットはお盆ごと避けておいたので、朝ごはんも無事です。……どうでもいいか!




